街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。(連載の詳細はこちら)

誘っていただいてカラオケに行った。さすらいラビー中田さん、にぼしいわし伽説いわしさん、風穴あけるズ飛び出せっ!安藤っ!さん、ファイヤーサンダー﨑山さん、河邑ミクさん。皆様それぞれのスケジュールによって途参早退はあったものの最大6人でカラオケを共有した。私ははっきりと幸せだった。
朝。といっても昼。家を出ると蝉が鳴いていた。空が明らかに青い。ここまで、と言われていたフェンスがあるとき開けられてそこから景色を見たように、世界は私が知るよりも前から遥かに果てしなかったことを思い知らされる。夏休み。これはもう夏休みじゃないか。イデアとしての夏休みが音と色で具体になっている。しようと取り出したイヤホンをケースに戻して、蝉がざんざん鳴いている中を駅に向かって歩く。
新宿で映画を観る。『スーパーマン』。どでかスクリーンのどでか音響で観ることにこれでもかと適していて、そうだよなと上映中に何度も拳を突き上げそうになる。ミスター・テリフィックの車庫のシーンが面白くて好きだった。主題に向かってダイナミックに進む途中に挟まれるああいうブレーキが、はやく走れない自分のようで忘れがたい。
映画を観終わってエスカレーターにふぇーいと乗る。スマホの電源を入れる。LINEが来ている。10分前。もし新宿で暇だったら。カラオケ。フリータイム。世界が自分に向かって渦巻いているんじゃないかと疑うくらい自分向けの連絡でそれはもう、すぐに、の勢いで返す。
カラオケに着くと安藤さんといわしさんと中田さんがいらっしゃる。いわしさんが歌っている。中田さんが、人が歌っているときに連絡事項を伝えるときの近付き方と声量で、ドリンクの注文方法を教えてくださる。壁に貼ってあるQRコードを読み取ってアイスジャスミン茶を注文する。いわしさんが歌い終える。わー。めっちゃいいっすね。おはようございます。お邪魔します。ありがとうございます。曲中にマイムでしていた挨拶に改めて音を伴わせる。「いやいやむしろありがとう」。皆様思慮深くてどっちが感謝の後衛に立てるかの譲り合いが始まりそうになるがそれすらも、ここまでにしましょう、の内なる思慮審判が言葉未満で合意してそれぞれの心地よさに座り直す。「フリータイムで取ってて、さいあく、朝5時までいけます」。いわしさんが真面目そうに、けれど冗談っぽく言って、笑う。「いやでもですね」。頭の中の自分が喋り始める。「それは最高ですよ」。それは最高ですよ。思考に遅れて実際に言う。けれど言ったときには既に安藤さんがB小町の『サインはB』を歌い始めていて、私の発言は無音に等しくなる。それは最高ですよ。自分に跳ね返った言葉を新品のスニーカーのように眺め直す。「サインはB〜 チュッ!」。歌う安藤さんの横顔が桃のように光っている。
﨑山さんの『シーソーゲーム〜勇敢な恋の歌〜』とか河邑ミクさんの『微笑みの爆弾』とか、全部が今でも鮮明に嬉しい。けれど動画はない。私の撮っていない動画がきっと一番いい動画だ。
▼以下、写真2枚▼
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