結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、子どものことをめぐって感情的に妻を責めてしまったという男性のご相談。その背景には、実は我慢していた「わだかまり」があったそうで……
ひろしさん(仮名)からのご相談
45歳の男性です。妻も同い年で子供が長男15歳、長女10歳の2人です。先日妻の行動に対して、感情的に言葉を浴びせてしまいました。
最近、娘が霊が見えるなどと言っておりました。私はオカルト的なものを一切信じていないのであまり真剣に取り合っていなかったのですが、ある日、娘が除霊してもらったと言い出しました。
妻を問い詰めると、妻が通っている鍼灸の先生がそういったこともできるというので、やってもらったということでした。私はこれを聞いて感情的になり、妻を責めてしまったんです。
ただ、問題の根っこはそこではありません。最近妻が夜に外出することが増え、美容に気を使い、下着を変えているのを見て、私は不倫を疑っていました。
夜の外出は、女友達と飲みに行っているだけだと妻は言っていて、妻が友達と一緒に出かける姿を、私も何度も見ています。ですが、長男が障害を持っていて妻は子育てに本当に苦労していたので、辛いときに男と出会いがあり関係ができていたのでは……と、どうしても疑ってしまいます。
息子が施設に入所して子育ての苦労から解放されたので、少しでも羽を伸ばしてほしい思いから、外出のことについては不信がありつつも我慢していました。
しかし、今回の除霊騒ぎで不信感が爆発したのです。位置共有アプリを入れて欲しいとお願いしたのですが、頑なに拒否され、入れなければ離婚だと天秤にかけたところ、妻はそれでもいいとアッサリ実家に帰りました。
私は、問い詰め過ぎた事とカッとなって責め立てた事を謝罪し、戻ってきて欲しいとお願いしました。ですが妻は、過去にも私がカッとなって暴言を吐いたときから、気持ちはなくなっていたと告白しました。もう好きという感情は無い、と言いました。
妻が今まで過去の事をそんなにも根に持っていたと知り、大変ショックでした。しかし、私が今回のように頭に血が上ると思いついたことをすぐ言ってしまうのは、今後カウンセリングなどで治していきたいと謝罪し、今は何とか妻が家に戻ってきてくれました。
ですが、私が疑っていた不倫については何も話していません。家庭では必要最小限の会話だけです。私は妻と関係を改善させたいと思うのですが、妻は娘の為だけに義務的に家にいる感じがします。
妻は春から正社員で働いています。娘が大きくなったらすぐにでも私から離れるのではないかと、毎日心が潰れそうです。
私は温かい家庭を夢見てきたので、家事に、仕事に、子供たちに優しくと、自分なりに一生懸命やってきたつもりです。妻も、そこは尊敬しているし良い父だとは言ってくれました。もしも離婚したとしても、子供に会わせないなどありえない、とも。
今、ハッキリと妻の気持ちを聞いて、決断したほうが良いのでしょうか? 男として魅力が無いと妻に思われている、と考えてしまう毎日がとても辛いです。
(夫・ひろし、妻・みか)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
飲み込んでしまった「問題」を夫婦間で共有する
妻の行動にカッとなって、感情的に責めてしまったという、ひろしさん。ため込んできたわだかまりが溢れて、とのことですが、妻のみかさんからは「もう好きという感情もない」と言われ、更に大きなダメージを受けることに。
ご相談からは関係改善のために努力されている様子も窺われますが、はじめに確認しておきたいのは、ひろしさんの心配されている「問題」を夫婦間で共有できているか? ということです。
夫婦間の問題は客観的に捉えることが難しい
今、ひろしさんが問題と感じているのは、みかさんの不倫が疑われること、そのことで重なった心労から感情的になってしまったこと、そしてみかさんから男性として見られなくなっていること、でしょうか。
カッとなって責めてしまったことも、「好きと言う気持ちがない」と言われたことも、問題として夫婦間で共有されているのですが、「不倫」はどうなのでしょう? いただいた情報からは、どこまでお話をされているのかが定かではありませんが、ひょっとするとほとんど共有されていないのではないかと心配しています。
前回、ハルミチさんのご相談でもお話をしましたが、夫や妻に浮気を疑うような兆候を見つけてしまうと、当然心は平静を保てません。加えて、ひろしさんには、お子さんのことでかねてから抱いていた負い目もあって、いつもと様子が違うみかさんの行動をよりネガティブに捉えてしまっている可能性もあります。
客観的に捉えることが難しい夫婦の問題だからこそ、自分の考えだけで判断してしまわないことが大切で、そのためには問題に感じていること、不満に思っていることについて、まずは対話のテーブルにあげることが必要です。
繰り返しになりますが、この点についてほとんど共有されていないのではないかが心配です。
問題に感じることをテーブルにあげる
健全な夫婦関係を保つためには、問題に感じることをテーブルにあげて、対話の機会をセッティングすることが欠かせません。
今回のケースなら、近頃様子が変わったように感じていること、そこに不安があることを伝えてみることから始めたいところでしたが、実際は「不安」を飲み込んで、別の問題(ここでは娘さんの除霊でしたが)をきっかけに重なったわだかまりと共に噴出させてしまうことになりました。
「不倫を心配している」がテーブルにあがっていないとしたら、みかさんからは、ひろしさんが何に怒っているのか、なぜ突然「離婚」というキーワードまで出てくるのか、理解できていない可能性もあります。
結果、問題のテーブルには、感情的になってしまうひろしさんにみかさんが不満を抱いていたこと、そしてそんなひろしさんに対して好きという気持ちがなくなってしまったことが残ってしまったのではないでしょうか?
問題に感じていることを飲み込まずにテーブルにあげていく、というのは簡単なことではありません。嫌な思いをさせてしまうのではないか? かえって関係が悪化してしまうのではないか? と、不安、心配、葛藤が生まれます。また、問題と向き合えるだけの信頼関係も必要です。
もし今、ひろしさんの感触として「不倫」への心配をテーブルにあげることが難しいようなら、まずはテーブルに載っている問題にフォーカスをすることが大切です。そうすることで信頼の土台を築き直すことができますし、信頼の土台が固まってくれば、今はあげられない問題も、いずれテーブルにあげることもできるかもしれません。
テーブルの問題に取り組む
どちらかが、あるいはそれぞれが問題に感じていることをテーブルにあげることができたら、いよいよ問題解決に向けた対話と取り組みが始まります。
ここでは、「自分が感じている問題」より「相手の感じている問題」から解決していく意識を持っておくことが大切です。なぜなら、自分が問題と感じることにフォーカスを当てると、どうしてもネガティブ思考になりやすく、ネガティブな思考は批判的なコミュニケーションを生み、批判的なコミュニケーションは信頼の土台を傷つけてしまうリスクがあるからです。
その点、カウンセリングなどのサポートを取り入れつつ、感情的になってしまいやすいところを変えようというひろしさんの姿勢は、問題に取り組むありかたとして申し分ありません。
いっぽう、ひろしさんが問題に感じている、みかさんの状態(自分を好きでない)について、みかさんから能動的な取り組みがあることを期待するのは難しいかもしれません。と言うのも、これまでのわだかまりが拗れてしまった現状においては、みかさん側に関係改善のモチベーションがどの程度残っているのかわからないこと、そして何より「好き」と言う気持ちは、努力をしてどうにかなるものではないからです。
こちらは努力をしなければならないのに、向こうは努力をしてくれない。何とも理不尽に思える状況だからこそ、いっそのこと、はっきりと気持ちを聞いて、無理なら無理と決断した方がよいのでは? と考えてしまうのも理解できますが、現時点でそれはあまり得策とは思えません。
重要な決断は、それぞれ問題に感じていることをテーブルにあげてから、きちんと対話をした上で、が良いと考えているからです。
「好き」「嫌い」だけではない夫婦の関係
「俺のことをどう思っているの?」もし今、ひろしさんが、こんな風に、みかさんの気持ちを確認したなら、返ってくるのは、「家族として大事」「子どもたちの父親として尊敬している」、そんな答えなのかもしれません。
ひろしさんにとっては「やっぱりもう自分のことを男性としては見てくれていないんだ」と絶望的な気持ちになってしまうかもしれませんが、一歩下がって冷静に見直せば、夫婦として、夫に求めることの大部分については充分評価されているようにも見えるのですが、どうでしょう?
もちろん、好きな女性が自分のことを男性として魅力的だと思ってくれていないのはショックなことです。ただ、もし不倫や浮気を疑うような行動がなかったとしたら、ひろしさんは今ほどみかさんに好きでいてもらいたいと考えていたでしょうか?
恋人から夫婦になり、子どもが生まれ、子育て中心に生活が変わると、夫や妻のことを彼氏や彼女のように「好き」と感じる機会は少なくなりやすいものです。加えて、価値観の違いやすれ違う時間の中で、思いやりや優しさが足りなくなれば、もう好きじゃないと思えたり、嫌いな気持ちの方が強くなることもあるかもしれません。
夫や妻をずっと「好き」でいられるのは素敵なことです。ただ、「好き」や「嫌い」が重要な恋愛期の関係と、夫婦の関係は本質的に違います。子育てや家族、そして互いの人生を守るパートナーとして、個人的な感情を越えてでも、共にあることを選択するケースもあります。大切なもののためになら、自分の気持ちを横に置くことも、フタをすることもできる。
ひろしさんにも心当たりがあるのではないでしょうか?
「好き」を取り戻すために必要な視点
浮気を疑いながらも、みかさんの外出を「少しでも羽を伸ばしてくれたら」と目を瞑ってきたのは、みかさんのことを思う気持ちがあったからでしょう。同じように、みかさんにも家族のために、自分の感情にフタをして積み上げてきた努力や、苦労があったのかもしれません。
大切なもののために、自分の気持ちを後回しにすることが悪いわけではありません。ただ、感情にフタをしてばかりいると、心の柔軟性がなくなって、感情を感じにくくなる場合があります。
暴言を吐かれてから、あなたのことを好きな気持ちはない。
その背景には、強い言葉で責められて辛い気持ちになっても、子どもたちのために気持ちにフタをしてやり過ごしてきたみかさんの姿があるのかもしれません。
もしそうであるとしたら、ひろしさんが今、着目しなければいけないのは、「妻はもう自分のことを好きではない」という、ひろしさん自身の痛みではなく、気持ちにフタをしても、努めて苦労と向き合ってきた「みかさんのこれまで」ではないでしょうか。
気持ちや感情は、置かれた状況や環境、心身のコンディションによっても変わります。今好きでは無いからといって、この先ずっとそうとは限りません。大切なのは、これまでのみかさんを理解し、どうして好きと言う気持ちがなくなったのか? 「好き」の気持ちを回復させるために何ができるか? を考えることです。
ひろしさんがこれまで家族のために努力をしてきたこと、父親としての責任を果たしてきた事は、みかさんも充分理解されているようです。たとえ今、好きと言う気持ちがみかさんになかったとしても、今ここで夫婦の関係を諦めるのはもったいない。
リカバリーのチャンスは残されているように思います。
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