結婚生活の中で積もり積もった不満や違和感。もう離婚しかないと思うほどの不仲やトラブル。
さまざまな夫婦の在り方があるからこそ、ふたりの間だけで解決できない悩みや問題を抱える人も少なくないでしょう。
夫婦カウンセラーとしてこれまで2000組以上の夫婦をサポートし、著書『夫は、妻は、わかってない。夫婦リカバリーの作法』でも注目を集める安東秀海先生が、読者の皆様から寄せられた夫婦関係のお悩みにお答えします。
今回は、妻から離婚宣告を受けたというご相談。離婚しても子どもの為に同居を続けたいという妻の考えを理解しつつ、LINEを覗き見てしまい……
ハルミチさん(仮名)からのご相談
31歳男性です。結婚8年目で、妻は32歳、娘7歳、息子5歳。今年の4月、些細な喧嘩から性格の不一致を理由に離婚を宣言されました。
結婚当初からの8年間のしこりが爆発したとのことです。今後は離婚して、子供の為に、今まで通り同棲したいと言われています。離婚をすれば自分が自由になれるからだと言われました。
しかしその4日後、妻のLINEを見ると、妻が私と付き合う前に5年間付き合っていた彼氏32歳(バツイチ)と、1年前から連絡を取り合っていたことがわかりました。前日も朝まで会っていたようです。
妻とは、私が19歳、妻が20歳の時に大学で出会いました。その当時、妻には15歳からお付き合いしている彼氏がいたのですが、そんな中で私と出会い、私のことを好いてくれて付き合うことになりました。
それからお互い就職し、妻は都内で一人暮らしをしながら、朝から夜まで働き詰めの生活をしていました。私は18時過ぎには家に帰る生活をしていたので、たまに妻の家へ行き夜ご飯を作るなど、生活のフォローをするようになりました。
そこからすぐ同棲を始めて、結婚について話をする機会やお互いの今後の理想像など未来に向けての話をする機会もなく、流れで結婚することとなりました。
結婚してから現在まで、私は表向きには妻に気を遣っていたようでいて、何もしてなかったのかもしれないです。
離婚宣告を受けた後、妻の話を聞くと、好き嫌いの感情はなく、無の状態になっている。また、常に自分の幸せとは何かを考えるようになり、自分の考えを押し殺してまで相手の感情を受け入れることが出来ない、と考えているそうです。
妻にとって大きい離婚理由としては、夫である私に自分の軸がなく、優しいと思っていたがいつの間にかそう思えなくなっていた。尊敬できない相手と一緒に過ごしても意味がないと考えていて、今は一緒にいることに自分(妻)にとってのメリットがないから、ということなのだそうです。
この決断をするまで、子ども達が自立するまでこのまま我慢するか、子ども達の教育環境を考慮した上で2人の関係性を別のものにするか、2つの選択肢があったとのこと。
現在は妻の考え方を理解し、実践をしている最中で、今まで以上に子どもたちとも関わりを持ち生活をしております。
現在妻は美容師として働いていて、夢だった自分の店を立ち上げようとしていた矢先のことでした。私は定職を続けて、彼女のサポートをする予定でした。
妻からは、今は友人やビジネス仲間としては成り立つかもと言われています。しかし妻の背景を知った以上、私にはできません。そして今、妻は元彼とよりを戻そうとしています。
私は離婚するつもりはなく、それでも仮に離婚するのであれば親権などを話し合い、ちゃんとした離婚をしたいと伝えております。
私が不倫に気づいていないと思っている妻は、夫婦に戻るにはどうしたらいいのかと問いかけてきます。
私はどうか家族を守りたいと考えています。アドバイスを頂けないでしょうか。
(夫・ハルミチ、妻・ヤエ)
※頂いたご相談に編集を加えております。ご了承ください。
本質的な話し合いをするために、考えておきたいこと
妻のヤエさんから離婚したいと言われたハルミチさん。婚姻関係を解消した上で、子どものための同居を望むヤエさんと、離婚は考えられないというハルミチさんでしたが、その後、元カレと妻の親密なやり取りを発見してしまったとのこと。
それでも「家族を守りたい」というハルミチさんですが、夫婦や家族の「これから」を考える前に見直しておきたいことがあります。
浮気かも? その時、心の中で起こること
妻が(夫が)浮気をしているかも? そんな兆候を見つけてしまうと、心の中は当然ながら穏やかではありません。怒りや不安、様々な感情が波のように押し寄せてきます。
怒りが強い時には「これはどういうことだよ!」と怒鳴りたくもなるでしょうし、悲しみが強くなれば何も手につかなくなることもあるかもしれません。また、現実を否認しようとする心理が働けば、疑念を打ち消してくれるような情報を追いかけて、かえって知りたくもなかった事実を目にしてしまうこともあるかもしれません。
こんな時には、心のザワザワが少し落ち着くまで、時間をおいて待ってみることも必要です。感情をぶつけてしまうことも、問いただすことも、情報を集めすぎてしまうことも、関係を修復する上では有効ではありません。
ご相談のケースでは、見つけてしまったLINEでのやりとりが、不倫の兆候を示すものなのか、あるいは明らかな証拠なのかは判断がつきませんが、もし今なお継続的にLINEでの会話を確認されているようなら注意が必要です。知ってしまったことは記憶から消すことはできませんし、このような形で得た情報は、関係修復の取り組みにおいて、あまり役に立たないからです。
知るに至った経緯をどう伝えるか
一度目にしたもの、耳にしたことは、それがショッキングであるほどに強く記憶に焼きついて消えてくれません。その上、知り得た経緯によっては更に、別の問題にまで発展してしまう場合さえあります。
「どうして他人の携帯見てるの?」と、道徳観の問題に飛び火して、本来話したい部分から目先が逸れてしまうのは問題です。
もちろん、多くの場合そんな反応をするのは、そこにやましさや後ろめたさがあるのだと思います。それでも、今後本質的な話し合いを実施するためにも、ハルミチさんが「知っていること」を、いつ、どんなタイミングでヤエさんに伝えるのかは、よく検討しておく必要があります。
不倫をされている側が、そこまで気を遣わなければならないものか? と、憤りを感じるかもしれませんが、関係の修復を望むなら、ヤエさんの気持ちが更に離れてしまうことは避けたいところです。
どんな夫婦でありたいか? そう考えるのはどうしてか?
ここまで「関係修復のためには」という前提でお話をしてきましたが、どんなコミュニケーションをヤエさんと取っていくのかを考える前に、少し立ち止まって、見直しておきたいことがあります。
それは、ハルミチさんが、これからの人生で選びたいのは、どんな夫婦のカタチなのか? ということです。
ヤエさんの言う、離婚をして子どものために同居する、というのは、男女の関わりには期待せず、親としての役割にだけ特化しましょう、ということなのだと思います。
「妻の背景を知った以上、私にはできません」とありますが、もし元カレとのことがなければ、そんな夫婦のカタチ(厳密には夫婦ではありませんが)も受け入れることができ得るのでしょうか?
お付き合いから現在に至るまでの経緯を見るに、ハルミチさんにとってヤエさんの希望やリクエストに応えることは、「夫婦や家族を守るために必要なこと」、そんな風に捉えられてはいないでしょうか?
もちろん、パートナーが望むことを叶えたいと思うのは自然なことです。でも、どちらかいっぽうが応えるばかりの関係は、ややいびつに感じます。
夫婦のカタチもあり方も様々で、そこに正解も不正解もありません。ただ、どんなカタチを選んでも、大切なのはその選択の中心に自分があるかどうかです。
ハルミチさんにとっては、ヤエさんのリクエストに応えることが前提になり過ぎていて、自分を中心に置いてみる感覚が、やや失われてはいないか? と、少し心配しています。
自分を軸に考えるということ
「自分軸」という言葉が頻繁に使われるようになってきたのは、ここ10年くらいでしょうか。周りに気を遣い、適応することが良いこと、というこれまでの価値観に対して、まずは自分を中心に置き「ありのままの自分」であれば良い、という考え方はとても開放的で魅力的に見えたからこそ、こうして広く認知されるようになったのでしょう。
いっぽう、自分軸という言葉の対極にあるのが「他人軸」です。言葉通り、自分の希望や考えではなく、「他人」の希望や考えを中心に考える人を指す言葉ですが、周囲に配慮できる人、適応性が高い人、というよりは、「自分を犠牲にしている」といった、よりネガティブな意味合いが増しています。
ハルミチさんにはそんな、他人軸で夫婦のあり方を考える傾向があるのではないでしょうか?
自分はどうしたいのか? よりも、妻はどうしたいのか? を先に考える。自分の希望より、妻の望むことを優先に考える。そんな思考パターンを繰り返していると、自分がしたいことがわからなくなってしまう場合があります。
ヤエさんは今、自分軸でこれからの人生を考え、夫婦の関係を解消することを望んでいます。
そんな彼女と向き合うには、ハルミチさんも自分軸でこれからの人生や夫婦のカタチを考え、話し合いのテーブルに上げていく必要があります。そうでなければ、対等な立場での対話になりませんし、ヤエさんからは「何がしたいのかわからない」ように映ってしまいます。
これからの「夫婦」を考えるために対話をする
関係修復を望む側はどうしても、自分の考えや理想をあきらめて相手の考えや希望に寄せてしまいやすいものです。そうすることで関係が元に戻るなら、と考えるのは自然なことではありますが、そうやって修復できた関係においては、寄せた側の負担が大きくなり過ぎる恐れがあります。
長期的に持続可能な夫婦の関係に戻していくなら、それぞれが自分にとって大切なものをきちんとテーブルに載せた上で、相手が大切にしているものも尊重する。そんなスタンスでの対話が欠かせません。
ヤエさんからの「夫婦に戻るにはどうしたらいいのか」という問いかけの真意はわかりませんが、もしかすると、そんな対話を重ねることが、その答えにもなるのかもしれません。
選択肢を残すために必要なこと
これからどうしたいのか? どんな人生を歩きたいのか? どんな夫婦のカタチを望むのか? を考えておくのは、ヤエさんと対話をする上で欠かせないことです。この準備が整ったら、次は今ハルミチさんが「知っていること」をどう伝えていくのか? を考える必要があります。
ここでは、選択肢をできるだけ多く残しておくことを念頭に、どうやって「関係修復」の道筋に対話を乗せれば良いのか考えておきましょう。
まず、「知っていること」を知り得た経緯として、LINEを見てしまったことには真摯に「ごめん」が必要です。そのうえで、どこまで伝えるかですが、先にお伝えした通り、罪悪感を刺激しすぎることは避けておきたいところです。
修復の道筋に乗せる上で共有すべきは、元カレとの親密な連絡を知ってしまったことと、それが離婚を考える理由のひとつになっているのではないかと不安に感じていること、まずはこの2点。それ以上の関係性の変化や、具体的な出来事を仮に知っていたとしても、現段階では伝える必要性はあまりありません。
また、4月にLINEを見てから半年経過している状況ですが、仮にこの間も継続的にやり取りを見ていたとしたら、ヤエさんに与えるネガティブな影響が心配です。できるならウソや隠し事は避けたいところですが、直近に見た(あるいは知った)出来事を最初で最後として伝えておくのベターかもしれません。
繰り返しになりますが、どうしてツラい思いをしている側が、ここまで努力を強いられるのかと、憤りを感じることもあるかも知れません。
それでも、今はまだ夫婦の関係を終わらせる選択をしていないのであれば、ここで取り組む努力は、未来に選択肢を残すための努力になります。
どうか、「よくやっている」と一声、踏ん張る自分を励ましてあげて欲しいと思うのです。
離れていく心との向き合い方
最後に少し、心の保ち方について、お伝えしておきたいことがあります。
私たちの心はどこか海に似ています。凪のように静かな日もあれば、感情の波が高まって、冷静な考えなんて根こそぎ持っていかれてしまうほど荒れることもある。いつも動いていて留まることがない、それが心です。
そんな心ですから、引き潮のように気持ちが離れ始めると、引いていく波を留めるのは容易ではありません。無理に引き戻そうとすればするほど、かえって大きな波が生まれていっそう心は離れてしまうこともあるでしょう。
それでも、引き潮が来た後に満ち潮が来るように、気持ちが離れた後には、また近づく日がくることもあるはずです。
ヤエさんの気持ちも、今はハルミチさんから離れて向こう岸に向かっているのかもしれません。それでも、心は常に流動的で、人と人との関わりもまた、離れる時期もあれば、近づく時期もあるものです。
今は動く波に抗うのでなく、少し身を任せてみるくらいの心持ちで、近づく波がくるのを待ってみるのも、良いのではないでしょうか。
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