日本最大級の小説投稿サイトである「小説家になろう」。ここに投稿された作品から、数多くのヒット作が生まれています。書籍化をはじめ漫画化やアニメ化に至る作品もあり、今や「作家デビュー」へのひとつのルートになっているとも言えます。

 今回の「小説家のお仕事の裏側」では、「小説家になろう」を運営する株式会社ヒナプロジェクトへの取材を行いました。小説家・額賀澪さんによる取材レポートの後編をお届けします。

【前編を読む】「なろう系」からヒット作が次々生まれる理由とは? 小説家・額賀澪が「小説家になろう」運営会社に聞く (1)【小説家のお仕事の裏側】】


 

なぜ「小説家になろう」は書き手・読み手を惹きつけるのか?

額賀(以下:ぬ)「『小説家になろう』に多くの書き手・読み手が集まる理由はなんだと思いますか?」

担当者(以下:担)「従来の小説家デビューの方法といえば、新人賞に応募して選ばれるという方法しかなかったわけですが、新人賞はなかなか選考基準がわからない。書き手からすると、自分の作品がどうして選ばれなかったのかわからない」

「私も作家志望として投稿生活を10年以上していたので、その気持ちはよくわかります」

「従来の形を否定するつもりはありませんが、そこに全く違うルートが生まれたことが書き手にとって魅力だったのではないかと思います。『小説家になろう』では読者の動向、PV数が具体的に見えます。どうすれば多くの人に読んでもらえるかを考えるための、わかりやすい基準がある」

「新人賞に応募してデビューを目指すという1つの競技しかなかった場所に、全く別の競技が生まれたという感じがします」

どうして「小説家になろう」は生まれたのか?

「そもそも、どういう経緯で『小説家になろう』は生まれたんですか?」

「2000年代前半は、Web小説というと個人サイトでの掲載が多かったんです。読み手としては面白い作品を探すのも大変だし、正直言って面倒くさい。

 だから小説投稿サイトだったんです。書き手が作品を投稿してくれれば、自分から集める必要もない。

 作品を集約できるように書き手に向けた作品の投稿機能や、自分の好みに合う作品を見つけやすいように読み手に向けた検索機能を実装していったところから、今の『小説家になろう』の形につながってきました」

「面白い小説を手軽に探して読むための場所だったんですね」

「ただ、昔は『小説が読みたい』という理由でユーザーが集まっていたんですが、今は書籍化された作品、アニメ化された作品をきっかけに『なろう』にやって来るユーザーが多い印象ですね

人気作品の共通点とは?

「『小説家になろう』の人気作品に共通するものはなんでしょうか? Web小説として読者が求めるものとはなんなのか伺いたいです」

「Web小説の大きな特徴として、タイトル・あらすじ・作品の比較をしやすいという点があります。だからこそ、『どんな作品か』『どんな楽しみを味わえるか』を早く読者にイメージさせることが大切なように思います」

「タイトルやあらすじ、物語の序盤で明確に面白さを読者に伝えられる作品、ということですね」

「あとは、カタルシスを得やすい作品が求められている傾向はあると思いますね。カタルシスを得たいという欲求が読者の中で先鋭化されているというか、早い段階でカタルシスに浸りたい読者が多い。『なろう』はそれに応えやすい形だったのだと思います」

「カタルシスを得やすいというのは『なろう系』の特徴としてよく言われますね。異世界で無双したり、自分を追放した人間を痛い目に遭わせたり」

「実は時代劇や歌舞伎も同じなんですよね。勧善懲悪がお約束だったり、演目にテンプレートがあったり。安心してわかりやすくエンタメを楽しみたいという欲求は、多くの人にあるのだと思います」

これからの「書き手」に必要なものとは?

「小説投稿サイトの運営として、小説の書き手に必要なものは何だとお考えでしょうか?」

「運営としては『書いただけで、投稿しただけで小説家だよ』というスタンスなんです。作品の善し悪しを一方的に運営側が決めつけることは望ましくないとも思いますし」

「あくまで小説投稿サイトの運営であり、作品に評価をくだす組織ではないということですね」

「ただ、小説投稿サイトを運営してきた人間として個人的に語るなら、『書き手がその小説をどう捉えているか?』はとても大事だと思います。小説を書籍化したいのか、アニメ化したいのか、マンガの原作にしたいのか。書き手がそれらをしっかり見据えている作品は、強いと思います」

「ありがとうございました!」

 

 身近なようで実は謎の多い『小説家になろう』。その歴史と運営ポリシー、ヒット作や人気ジャンルの変遷を伺えて、とても面白い取材でした。『小説家になろう』という巨大で複雑な生態系の中で次はどんな作品がヒットするのか、大変興味深いです。

【次回は3月11日(月)更新予定】