日本最大級の小説投稿サイトである「小説家になろう」。ここに投稿された作品から、数多くのヒット作が生まれています。書籍化を始め、漫画化やアニメ化に至る作品もあり、今や「作家デビュー」へのひとつのルートになっているとも言えます。

 今回の「小説家のお仕事の裏側」では、「小説家になろう」を運営する株式会社ヒナプロジェクトへの取材を行いました。小説家・額賀澪さんによる取材レポートをお届けします。

【前回】史実に基づいた小説を書くための調査・取材の方法は?「幻の箱根駅伝」を描く『タスキ彼方』インタビュー【小説家のお仕事の裏側】


 

 2023年11月某日、私はシンクロナスの担当と一緒にオンライン取材に臨んでいました。

 取材先は、皆さんもきっとよくご存じの小説投稿サイト「小説家になろう」を運営している株式会社ヒナプロジェクトです。

「小説家になろう」を取材しよう

 皆さんは「小説家になろう」というサイト名を見て、どんな作品が読める場所だと想像するでしょうか。

 恐らく「ライトノベルっぽい小説が多く投稿されるサイト」と思った人が多いと思います。「なろう系」と呼ばれる小説ジャンルを思い浮かべた人も多くいらっしゃることでしょう。

小説投稿サイト「小説家になろう」トップページ

 実は私も「小説家になろう」を利用していたことがありました。作家デビュー前、大学時代のことです。ちょうど2009年頃ですね。

 正直、当時の「なろう」は小説投稿サイトとしての規模だけでなく、掲載作品の傾向やサイトの雰囲気そのものも大きく異なる場所でした

 ライトノベルっぽい作品ももちろんありましたが、文芸作品や純文学、ケータイ小説(懐かしい)から派生したような雰囲気の小説もあった記憶があります。規模が今よりずっと小さかった分、投稿される作品もいい意味で「なんでもあり」だったわけですね。

 

 それが今では「なろう系」と呼ばれる小説ジャンルまで生まれ、コミカライズや映像化作品がたくさん生まれています。

い、一体、いつの間にこんなことに……?

 というのが私の正直な感想でして、この機会に「小説家になろう」運営会社を取材してみよう――ということで、今回の企画が立ち上がりました。

「小説家になろう」の歩み

額賀(以下:ぬ)「早速ですが、みんなが知っているようで知らない『小説家になろう』の歴史からお話を伺ってもよろしいですか? 特にいわゆる『なろう系』と呼ばれるジャンルが確立するに至った転機について」

担当者(以下:担)「額賀さんが投稿していた2009年と比べると現在の『小説家になろう』は様変わりしていると思います。2009年頃だとユーザー数は約5万人。現在は250万人ものユーザーがいますから、随分と大きなサイトになりました。

 こうなるに至った転機として、2008年に『魔法科高校の劣等生』 の連載がスタートしてヒットしたこと。その後、電撃文庫で書籍化されたことですね」

「『小説家になろう』で人気になれば書籍化される。今に続く流れができたということですね」

「小説投稿サイトの作品=アマチュアの作品だったのが、書籍化・メディアミックスできる作品が掲載されている場所と出版社が見るようになった感じです。『魔法科高校の劣等生』以前にも書籍化作品はあったのですが、ここで大きく潮目が変わりましたね」

2011年に電撃文庫より刊行された『魔法科高校の劣等生』シリーズは大ヒットし、漫画化、アニメ化、ゲーム化とメディアミックスも数多く展開されている。

「その後の流れとしては、『無職転生~異世界行ったら本気だす~』『Re:ゼロから始める異世界生活』『転生したらスライムだった件』など、異世界転生モノが立て続けにヒットし、書籍化、メディアミックスされたのが大きいですね。なろう=異世界転生モノというイメージが強くなりました」

人気ジャンルの生態系

「でも、なろう=異世界というイメージが作りあげられて以降は、多様性の時代だったと思います。人気ジャンル・人気作品が次々生まれ、流行って廃ってを繰り返す中で、〈異世界〉というジャンルの中で、ハーレム、チート、追放モノなどと細分化していった。

 最近は悪役令嬢モノが人気ですが、これも異世界モノの中でさまざまな題材が流行廃りを繰り返した中で生まれたもののひとつではないかと考えています」

「出版社による書籍化が盛んになったことで人気ジャンルのブームが大きくなり、細分化ジャンルもどんどん生まれていった、ということなんですね」

「ヒット作から人気ジャンルが生まれる。そのジャンルの作品が増える。すると差別化を狙った作品が生まれ、その中からまたヒット作が出る。すると、その差別化作品の中のひとつの要素が次の人気ジャンルになる~という循環がありますね」

「異世界モノが一大ジャンルになって、その中からハーレム、チート、追放が生まれていったのも、まさにそういう生態系が影響してるんですね。もともとは差別化のための要素だったものが、新しいジャンルになると」

「一言で『なろう系』と言っても、いろんな書き手・読み手がいますからね。『なろう系』といえば長文タイトル作品でしょうが、そういうのが苦手な人もいる。人気ジャンルが好みではない人もいる。250万人も読み手と書き手がいれば、その生態系は複雑になって当然です。だからいろんな作品が生まれるんです」

【後編を読む】従来とは全く違う「作家デビュー」の方法が生まれた 小説家・額賀澪が「小説家になろう」運営会社に聞く (2)【小説家のお仕事の裏側】