「SEIYAS BATTING REPORT」スペシャルニュースレター。

 鈴木誠也選手の近況やそれをもとにした「打撃論」「野球論」と、誠也さんが送られてきたみなさんに質問にお答えする【Q&A】企画を配信します。

【前回:エンゼルス戦前に「明日、打たなかったら野球を辞める」と宣言した】

INDEX
1)【質問 1】鈴木選手にとって甲子園はどういう存在でしたか? あとはやり残したことはありますか?
2)【質問 2】中学時代にやっていたトレーニングを教えてください。
3)【バッティングレポート】GMに言われた「二重人格になってくれ」

 前半戦が終わり、シーズン終盤に向かっていきます。いろいろチームに迷惑をかけたぶん、巻き返せるようにしていきたいと思います。

 今回は、二つの質問と、後半戦に向けた思いを少しだけ。シーズンが終わったらもっとしっかりお伝えできればと思います。

 それにしてももう、夏の甲子園の季節ですね。いまの選手は本当にまじめでいい選手が多いと思うので、僕も負けずに頑張りたいと思います。

1)鈴木選手にとって甲子園はどういう存在でしたか?

【質問】鈴木誠也選手にとって甲子園とはどんな存在だったでしょうか。また、高校時代にやり残したことはありますか?

【回答】

 寮生活を含めて、とにかく高校時代はきつい練習が多かった記憶があります。

 それができたのは、やっぱり甲子園という存在があったからでした。

 3年間頑張ったチームメイトとともに目指す場所であり、個人としても行けばプロ野球選手になるという目標の可能性を高めてくれるモノ。

 あの苦しい練習を耐えられたのは甲子園があったからでした。

 僕は甲子園に出ることはできませんでした。春夏ともに、一度も経験できていません。

 大会でのプレーはいくつか覚えています。

 例えば最後の夏は、東東京大会の準決勝で敗退をしています。相手は成立学園高校で、その後、優勝を果たしたチームです。

 最後の試合は、8回1アウトまで5対4で勝っていたのですが、逆転を喫して6対8。僕は先発投手として登板し、一度ライトへ。8回1アウトから再び、マウンドに上がりリードを守り切ることができませんでした。

 この試合の三打席目に空振りをしています。その一つのスイングについて、「(僕にしては)珍しい空振りの仕方だった」と言われたことがあります。

 確かに、高めのストレートを強引に引っ張りに行っての空振りでした。

 最終的にチームを勝たせることができなかったピッチングにしても、この強引な空振りにしても、自分自身に課題があったんだ、と今は思います。

 大会に入ってから内転筋を肉離れして思うようなフォームでピッチングができていなかったこと。

 一発勝負だ、自分で試合を決めてやろうと力んでバッターボックスに入っていたこと。

 自分への余裕のなさを象徴していました。自分を見失っていた。

 体のケアをもっとしっかりとしていれば、例えば食事やトレーニングについて、もっと自分から率先して考えて、努力していたら万全な状態でマウンドに立てたかもしれないし、打席に自信を持って臨めていたかもしれない――。

 今の自分と比較すれば、それは自明です。

 当時は、きつい練習の日々のなかでいかに余力を持ってそれをこなすか、ということばかり考えていました。今、そんな態度で練習に臨んでいれば、メジャーはおろかプロでやっていけるわけがありません。

 だから毎日、必死に自分に何が足りないのか、どういう練習をすべきかを考えています。

 それが、できていなかった高校時代。

 もちろん、そんな高校時代があったからこそ、今がある、とも言えます。

 そこに正解はないので、どっちがいいかを伝えることはできませんが、僕なりに今、高校球児を中心とした野球に懸命に取り組んでいる選手に伝えられることは、「意思を持って取り組もう」ということです。

 僕の場合は、「やらされる」練習があったことでプロになることができました。だから、一概に「やらされる」ことを否定しません。

 もちろん「自分でやる」ことが最も理想的です。

 でも、それができるのはほんの一握りの選手でもあります。逆に言えば、自分でやる選手は、やるのですが、言われないと「やれない」選手もいるわけです。

 レベルが上がるほど、野球は自己責任になっていきます。やらなければ終わりの世界。

 そこで大事なのは「自分でやる」にしても「やらされる」にしても「意思を持てるか」どうかです。

 ネガティブ思える「やらされる」練習に対しでも、どういう意図がそこにあるのか、を考えて取り組む。それが将来に向けて大きな差になります。

 大会前に肉離れをしてそのまま試合に臨んでいたことに触れましたが、高校時代から食事やトレーニングについてもっと「意思を持って」やれていれば……と思うことがないわけではありません(それを言ったらお終いなので、あんまり考えないようにしていますが…笑)。

 今の若い選手たちはとても真面目で、しっかりそう言ったことができているように思います。僕が入団したころは、とてもじゃないですけど1軍で通用するようなレベルじゃありませんでした。

 それが、今の高卒の選手はすぐにでも活躍をしています。

 きっと高校時代から「意思を持って」取り組んできた結果なんだろうと思います。だからぜひそれを続けていってもらいたいと思います。

 もし、これを読んで「やらされてるだけだな」と思った人は、自分なりに考えを持って、そのトレーニングの背景に何があるのか、続けたらどうなれそうか、といったことを想像しながら練習をしてほしいと思っています。

 球児のみんな、がんばってください。

2)中学時代にやっていたトレーニングを教えてください。

【質問】中学時代、鈴木誠也選手はどんなトレーニングをしていましたか。具体的に教えてもらえると嬉しいです。

【回答】

 すごく申し訳ないんですが……、これといったトレーニングをしていませんでした(苦笑)。

 中学時代は、部活に入らずいわゆる「帰宅部」。野球はクラブチームに所属していて練習は平日の水曜日と土日の週三回がメインです。

 今のクラブチームもそんなものなんじゃないかと思うのですが……どうですか。

 クラブチームの練習に特別なものはなかったと思います。厳しいというより楽しい野球をやっている、悪い意味ではなくて「遊びの延長」だったかな……。

 とはいえ、以降も野球を続けて、高校野球、プロ野球、メジャーと違うカテゴリで野球をしてきて、中学時代にもっとやっておくべきことがあったなと思い至ります。

 今回はそれについて書いておきたいと思います。

 先日、フューチャーズ・ゲームを見ていました。これはメジャーのプロスペクト(有望株と言われる選手)が集まる若手のオールスターゲームです。

 1~2年前までアマチュアだった10代から20代前半の選手たちのほとんどが95、6マイル(152~3キロ前後)を投げ、それをふつうに打ち返す姿を見て、「個々の選手のレベル」の高さを改めて実感しました。

 将来を嘱望された選手たちですが、誰もがメジャーで活躍できるわけではありません。毎シーズン、そのクラスがどんどん入ってくる……。

 確かに今の日本野球界においても、圧倒的な「個」――佐々木朗希投手や奥川恭伸投手、高橋宏斗投手のように高校から150キロを軽く超える投手がいますし、それを打ち返す打者もいる。

 でも、まだそれは「一部」だという印象があります。

 野球はチームスポーツなので「個」にフォーカスすることがそのまま勝利には直結しませんが、もし日本の野球とメジャーリーグの差を考えるとすれば、「個」の差は、圧倒的な母数が違うと感じました。

(繰り返しますが、野球はチームスポーツなので、戦略を立て、トーナメントで勝ち上がれる日本の野球だって素晴らしいとは思っています)

「個」の差を痛感したなかで、チームメイトに尋ねたのが「いつくらいからウエイトトレーニングをしていたか?」ということでした。

 返ってきたのは「中学くらいから」という答え。

 それを聞いて、やっぱりフィジカルに対する意識が大きく違うのを感じました。そして、その意識の差は、今、僕がメジャーでプレーするときの「差」のひとつにもなっているな、とも……。

 もちろん、骨格の違いは生まれ持った「違い」があると思います。

 そして何もウエイトトレーニングを若いうちからする必要がある、とも思いません。

 個人的には、中学時代から取り組んでいても良かったな、と感じたことは確かですが、それが日本の中学生全員に当てはまるものでもない。

 ただ、中学時代から体に興味を持って、自分からいろんな体を強くするためのトレーニングを試しておく必要はあると思っています。

 トレーナーのようなプロフェッショナルをつけることはなかなか難しいと思いますが(もちろん、つけられるならそれに越したことはありません)、自分で調べながらでいいので体を強くしていく。

 失敗したら、と思うかもしれませんが、失敗は何度だってすればいいと思います。ダメだったらやめて、違うことに取り組めばいい。

 僕自身もたくさん失敗をしてきましたし、メジャーでプレーする今も、うまくいかなくて悩むことは多いです。

 でもその経験は間違いなく次の選択肢を作ってくれる。

 もし僕が今、中学生だったらきっとウエイトトレーニングにチャレンジしたと思います。日本は恵まれた環境があるので、いろんなことができるはず。

 ぜひ頑張ってみてください(自分が中学生のとき何もしていなかったって言ったのにごめんなさい)。

【バッティングリポート】GMに言われた「二重人格になってくれ」

 前半戦は、本当に苦しい日々でした。

 バッティング練習ではいい感じで打てているし、スイング自体も問題ないように思えるのに、試合に入るとそれができない。

 なんでだろう……。

 そんなことを思いながら、翌日練習をして「悪くない」と思いながら、また試合で実践できず、結果も出ずに終わってしまう。

 悪循環にハマっていました。

 試合に入るとどうしても「数字」が目に入ってきます。打率にしてもホームラン数にしても、なかなか上がってこないその数字に、心が折れそうになります。

 そのメンタルがまた打席に立つ僕をマイナスのほうに引っ張っていきました。

 これまでの野球人生、シーズン中の波はあれど、ここまで数字が落ちたことはありませんでした。

 メジャーに来てからはその「初めての経験」とどう立ち向かうか、がテーマになっています。

 その中でヒントになりそうな言葉もありました。

 7月5日のブリューワーズ戦の前のことです。24打席連続でヒットが出ておらず、ネガティブな状態だった僕に声を掛けてくれたのは、GMのジェド・ホイヤーです。

「練習で悩むのは分かる。結果がついてこなくて苦しいのもわかる。だけどそこで思い悩むのは練習までにしてほしい。

 試合に入ったら目の色を変えて、相手チーム、相手ピッチャーと戦う強い気持ちで打席に立ってほしい。

 我々が欲しかった鈴木誠也は、日本時代の相手と勝負をして、絶対打ってやるという気持ちを持って打席に立つ選手だ。だからいい選手だと思って、絶対に欲しいと思った。

 それが今は悩みすぎている。

 試合と練習を分けて、二重人格になってくれ」

 とてもガツンとくる言葉でした。ちょうど、同じようなことを感じていました。どれだけメンタルが大事かを改めて感じました。

 これまでは打席でピッチャーと対戦するのではなく、自分自身と戦ってしまっていた。

 それに気づいたことはすごく大きなことでした。

 そこから連続でヒットが続きました。

 打席に入るのが楽しくなりました。

 もしボテボテの内野安打だったとしても、これまでは「なんで捉えられなかったんだ」と考えてしまったいましたが、今は「よし、勝負に勝った」と思えます。

 野球は難しいスポーツ。バッティングはミスが多いスポーツです。

 だからこそ、相手と勝負する。試合ではそれを徹底していって、後半戦チームに少しでも貢献できるように頑張ります。

 応援よろしくお願いします。 

こちらの記事は以下の商品の中に含まれております。
ご購入いただくと過去記事含むすべてのコンテンツがご覧になれます。
SEIYA'S BATTING REPORT
月額:880円(税込)
商品の詳細をみる

過去のコンテンツも全て閲覧可能な月額サブスクリプションサービスです。
🔰シンクロナスの楽しみ方

 
 シカゴ・カブスで活躍する鈴木誠也、その卓越した「打撃論」「野球論」のすべてを発信。メインテーマは「バッティングがもっと遠くへ、強く、楽しく」。
 自身の打撃・練習法解説やトップ選手の分析、フィジカルトレーナーなど「チーム鈴木誠也」が取り組むサポートなど、ファンのみならず野球少年、指導者必見のグロースコンテンツ!

無料記事/動画を見る
・侍ジャパン辞退「申し訳ない思いと、自分にすごくムカついた」
・【動画】子どもたちへ「トップ」を目指すための行動指針
ログインしてコンテンツをお楽しみください
会員登録済みの方は商品を購入してお楽しみください。
会員登録がまだの方は会員登録後に商品をご購入ください。