
"夏の風物詩"全国高校野球選手権・第108回大会(8/5-8/22)が目前に迫り、各地方では出場権を争い熱戦が繰り広げられている。一方、プロ野球とメジャーリーグはオールスターゲームを終えると、優勝争いの色が濃いシーズン後半戦へと突入する。
そんな野球で盛り上がる夏には、元西武ライオンズ監督・辻発彦さんと2026年プロ野球前半戦を振り返るスペシャルトークイベント「平石洋介の探球論REAL&LIVE」が開催される。今回は、イベント開催を記念して平石洋介の探球論のバックナンバーを特別公開!
1)ベルーナドームは暑いのか?
・今井達也の途中降板
・プロ野球界における「暑さ対策」と「管理」
・楽天監督時代に「Tシャツ・短パン」を解禁した理由
・暑さ対策の裏で「失ってはいけないこと」
2)どうなる?高校野球、7回制の行方は……?
・高校野球「クーリングタイム」のこれから
・7イニング制は妥当なのか?
・練習の質を改善していく
1)ベルーナドームは暑いのか?
今井達也の途中降板
2025年6月27日。西武の今井達也選手が、先発した日本ハム戦で体調不良を訴え降板したことが話題となりました。
原因は熱中症だといいます。2022年から3年間、ライオンズのコーチだった僕が見ていた今井はとても真面目で、生活スタイルを含めコンディショニングにこだわる選手でした。
そういう選手ですら急に体調を崩してしまう。それほど、日本の夏場は猛暑に見舞われているのでしょう。
特に西武の本拠地であるベルーナドームは、ファンのみなさんからも「夏は暑い」と言われています。
私の場合、 「暑さ」の一番の敵は直射日光という印象があったので、外周が解放されているとはいえ〝ドーム球場〟であるだけマシに思えていたのですが、確かに選手たちからも「暑い」とよく聞きました。
どうやら熱気がこもってしまう構造に原因があるようなのですが、それに対する選手への影響は、前回配信した松井稼頭央さんの言葉「夏場は1試合で3キロ体重が減った」が象徴しているように思います。
プロ野球界における「暑さ対策」と「管理」
12球団の本拠地では、ベンチやロッカーにクーラーが完備されていますが、それでも一歩グラウンドに出ると暑さと湿気でいつも以上に体力は削られてしまう。
近年、今井のようなケースは増えており、プロ野球の「暑さ対策」は懸案事項のひとつです。球団のトレーナーや栄養士は、チームとして対策をしつつ自己管理の徹底を促しています。これはプロのみならず、アスリート全員に言えることです。
まずは食事。これは大前提です。起床してからタンパク質やビタミンをしっかり摂る。クエン酸など足りない栄養素があればサプリメントで補う。運動前に必須な栄養素をしっかり体内に入れることで、暑いなか運動するための準備を整えていく必要があります。
そして運動中の水分補給。一般的に多くの汗をかく運動後は、塩分や糖分を補うためにスポーツドリンクが推奨されています。ただ、過剰摂取してしまうと急激に血糖値が上昇する、いわゆる「ペットボトル症候群」に陥る危険性があるため注意が必要です。
運動後の対策も進んでいます。環境次第にはなりますが、トレーニングや試合後に、アイスバス(氷風呂)に入ることはリカバリー効果があるとされています。強度の高い運動後に15度以下の冷水に10分程度、浸かることで筋肉の炎症を和らげ、血液の循環をよくする。
そのことによって睡眠効果や免疫システムの向上にも繋がると言われ、サッカーやラグビーなど他の競技の選手も実践しています。
僕に関して言うと、アイスバスは苦手でした。本当に冷たすぎて……(苦笑)。そういう人は、手や足など体の一部を冷やすだけも対策をした方がいいと思います。
食事、水分補給、リカバリー。これらを意識していれば質の高い睡眠を実現でき、前日の疲労を前日に持ち込むことなくスポーツに打ち込めるというわけです。
そうはいっても、やはり暑いものは暑い。だからこそ、最近のプロ野球も「いい」と思った対策は率先して実行しているように感じています。
楽天監督時代に「Tシャツ・短パン」を解禁した理由
「暑さ」に対する課題意識は、実はずっと前からありました。
楽天の監督となったとき、試合前の全体練習における服装を、ユニフォームから「Tシャツに短パン」スタイルでも「OK」と選手たちに伝えたことがあります(聞くところにプロ野球でも僕が最初らしいです)。
あれは2019年の夏。
仙台は酷暑に見舞われていて、選手たちに疲労の色が見えました。「できるだけストレスなく準備してほしい」と考え、球団の許可を得て「ユニフォーではなくTシャツ・短パン、でもいいよ」ということを伝えたわけですが、どのくらいの選手がそのスタイルでやっていたか、その記憶は定かではありません。
当時は「働き方改革」とスポーツ紙で取り上げてもらいました。
今ではこのスタイルもプロ野球界に浸透し、巨人は報道陣にもこの格好を許可しているほどです。
最近「いい試みだな」と感じたのは、DeNAの取り組みです。
屋外の横浜スタジアムで行うバッティング練習の際に、バッティングケージとバックネットでのティーバッティングをするスペースの間に、日差し除けのテントを設置していたのです。
ケージ横で待機している選手や練習を見守る監督、コーチにとってはとても助かる。このように効果がありそうだと思ったら、どんなことでも積極的に取り入れるべきだと思います。
暑さ対策の裏で「失ってはいけないこと」
さまざまなアプローチで暑さ対策が実践されているのはとても好ましいですが、そうした中できちんと検討、考えなければいけないこともあります。
例えば、酷暑の近年、猛暑日など気温が上昇した日は、室内で練習する、あるいは試合前のシートノックをしないことが増えてきました。
コンディション調整のためには致し方ない面があります。
けれど、「シートノック」がとても大事な練習であることも忘れてはいけません。
例えば、シーズン中に選手たちの息を合わせられる機会として。
また、内野や外野との連携を「試合を想定して」行える練習として。
実際に試合を行う球場で、(少ないとはいえ)スタンドにお客さんが入った中、毎日全力でやる(試合ではどんな選手も全力でやるのでそれは当たり前です)ことで、選手一人ひとりにとってとても重要な時間であり、練習なのです。
それだけにとどまらず、バッティング練習やノックを楽しみに球場へ足を運んでくださる子供たちやファンだっている。
シートノックがないとなると、そういった人たちにプロの技を見せられないことへの申し訳なさも感じてしまうわけです。
二軍では、一軍の球場とは違い、環境が整っているとはいえない地方球場での試合も多くあります。そのため、最近では「できるだけ試合に専念させるために、練習をあまりさせないでほしい」と通達を出す球団もありました。
練習をすることで熱中症となっては身も蓋もない――その気持ちはわかります。しかし、一軍以上に練習し、技術などを伸ばさないといけない二軍の選手たちの練習を減らしてしまうのは、果たして彼らにとってプラスなのか? とも考えてしまいます。
日々の積み重ねによって、飛躍へのヒントやコツを掴む。その機会を奪うことになりかねません。アスリート社会にとって「暑さ」とは、それほどの天敵でもあるわけです。
2)どうなる?高校野球、7回制の行方は……?
高校野球「クーリングタイム」のこれから
暑さに歯止めがかかる様子がない日本の夏。
僕は最近、よくこう振り返ります。
「自分のちっちゃい頃って、こんなに暑かったかな? 夏場は扇風機だけでしのげていたような気がするけど」
気象庁のホームページで故郷である大分県杵築市の気温推移を調べると、僕が小学6年生だった1992年は7月の平均気温が24.5度。最高は31.5度で最低は17.9度でした。それが、昨年の24年には平均が27.3度で最高が36.4度、最低が21.8度と、32年間でかなり上昇していることがわかります。
これでは、少年野球をはじめアマチュア野球界が厚さに対して過剰に反応するのも頷けます。
代表的なところで言えば、高校野球の暑さ対策は年々、加速しています。
夏の甲子園などでは5回終了後に10分間のクーリングタイムを設け、ベンチ裏のクーラーや送風機が設置されたスペースで水分補給をし、保冷剤が入ったアイスベストやネッククーラーなどで体を冷やしてから試合に臨むようになりました。
選手と同じ時間、グラウンドに立つ審判員の方たちにとっても、とても助かる時間なのではないでしょうか。
とてもいい取り組みだと思うのですが、アップデートしていく必要もあると思います。
私見のひとつに、クーリングタイムを「5分×2回」とする、というものがります。
10分のクーリングタイム後、冷えた場所からいきなり暑いグラウンドで動くと足が痙攣するなどのリスクがあります。実際、この制度を導入した2023年の甲子園では、6回以降に負傷交代をする選手が続出しました。
聞くと「寒いところから急に灼熱のなかでプレーしたこと」に要因があると言います。そのため、「クーリングタイムの後半数分は、プレーに戻るためのアップをする」チームもあるようです。
これでは結局、体を休める時間が短くなってしまう。
ですから同じ10分でも、回数を分けて取り入れるのはどうだろう、と思うわけです。
7イニング制は妥当なのか?
暑さ対策を巡っては、侃々諤々の議論が巻き起こっているのも事実です。
よく挙がるのが球場問題です。前述したようにドーム球場のほうが身体的負担は軽減されるため、甲子園球場から近隣の京セラドームでの開催を推す声もあります。選手の健康面を考慮すればそれもありでしょうが……やっぱり甲子園球場は特別な場所です。
できれば日程などを最大限に改善して、選手には甲子園でプレーしてほしい気持ちがあります。
また、いよいよ現実味を帯び始めている「7イニング制」です。
試合自体を9回制から7回制にしよう、というものですが、僕個人の意見としては正直、手放しで賛同することはできません。
ピッチャーの継投をはじめとする起用法。下位打順の選手は2打席しか立てなくなることもあり、現在のベンチ入りメンバーが20人である必要もなくなってしまう。ひと言でいえば、野球が変わってしまうわけです。
ならば、地方大会で採用されている「7回7点差」などで成立するコールドゲームを、甲子園でも適用したほうが「まだいい」のでは、と思うほどです。
多くはないでしょうが、20点近く取られてしまうチームもあります。負けているチームにとっては残酷かもしれませんが、猛暑のなか長時間、守備に就かせて体力を消耗させるくらいなら、そちらのほうが建設的なのかもしれません。
スポーツをするうえで、選手の命や健康は何よりも優先されるべきです。
しかし、そこに固執するあまり競技の本質を損なってしまうようであれば本末転倒。「暑さ」だけにとらわれ野球の魅力が失われてしまえば、それこそ甲子園の意義が問われてきます。
練習の質を改善していく
だからこそ、もっと根本的なところから改革していく必要がある。
世間は甲子園など注目度が高い公式戦を基準に考えがちですが、普段の練習にこそさまざまなアップデートをするべきだと考えています。
例えば「1週間500球」の球数制限。公式戦では厳格化されていますが、練習から管理できているチームは果たしてどれくらいあるでしょうか。
ピッチャーがそれだけの数を投げるということは、1球ごとにボールを返球するキャッチャーも同じこと。そこに盗塁阻止や牽制のスローイングを含めると、肩、ひじへの負担はピッチャーと大差ありません。
あるいは練習時間。アマチュアの現場を見ていると「無駄に長すぎる」と感じることがまだ多々あります。
これは練習量を減らせ、ということを意味していません。むしろ、本当にヘロヘロになるまでやり込む(いわずもがな、ケガ・体調へのリスクは考慮してです)経験は、選手にとって重要なものです。
体が極限に近い状態においては、無駄な力が抜けることで、バッティング、ピッチング、守備などにおいて「上達のコツ」を掴むことがよくあります。
また当然のことですが、毎日10回の練習を繰り返している選手と、1000回の練習を繰り返している選手では、その「上達のコツ」を掴む可能性は、1000回の選手の方が高い。
こうした質の高い練習を選手の心身を管理しながら行うことは大きな意味があります。しかし、そうした「きつい練習」を「長い練習」とはき違え、あるいは「長ければ強くなる」と考え、朝から晩まで練習をさせる――つまり「無駄に練習が長い」状態にあるチームをよく見かけるのです。
その点、日本は昔からの慣習で、とにかく練習させたがる傾向にあります。
野球は団体スポーツなので、バッティングや守備、走塁と一つひとつの練習を全員がこなすとなると、どうしても時間がかかります。指導者としては「あれも」「これも」やりたい、と思う気持ちは理解できますが、それは「質が高い」練習になっているのか、という点は、いちど見つめ直してほしいと思います。
プロのように環境が整っているチームならまだしも、少年野球から高校、大学、社会人までほとんどのチームが青空の下で野球をします。試合よりも練習のほうが圧倒的に長いわけですから、ふだんの練習のアップデートは欠かせません。
「どれが正解か」と悩み、立ち止まるのではなく、プロが実践しているように「いい」と思ったら何でも試してみる。豊富に知識を得ることで、やがて効率の良い暑さ対策、選手のパフォーマンス向上へと結びつくはずです。
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