いよいよワールドカップが始まる
2週間を切ったワールドカップ開幕に向け、代表選考や吉田麻也選手のサプライズ参加、選手合流とサッカーに注目が集まった時間でした。
Jリーグもプレーオフラウンドです。こちらももう少し報じらえるといいな、と思いつつメディアとしてこれから頑張っていきます。
そんな中で個人的には、もうひとりの元日本代表でありプレミア戦士の動向が気になって仕方がなかった……そんな5月でもありました。
岡崎慎司さん。
説明不要の日本人ストライカーは2024年にベルギー・シントトロイデンで現役引退をし、日本に戻ることなくドイツでブンデス6部のバサラマインツというチームを率いています。
あまりスポットが当たらない下部リーグでの挑戦、ヒリヒリした異国の地での戦いに思いを馳せていた日々のお話です。
(シンクロ通信、初めて黒田が担当します。編集部のみんな怒ってただろうな……)
代表戦士、16年前のインタビューで見せた声
「うだわぁああ……」
低く、言葉にならない、声というより発散されたような「音」に聞き覚えがありました。
変な表現ではありますが、岡崎さんには心の声が漏れる瞬間があります。
最初に聞いたのは16年前(おそらくご本人はまったく記憶にないと思います)。
2010年4月だったか……静岡で(たしか)16時予定だった取材が大幅に遅れたことがありました。クラブのイベントが推してのことで誰に非があるわけでもありません。
ただ、岡崎さんは疲れていました。
そりゃそうだ、というタイミングでした。初めてのワールドカップを目指す中、若手の注目株。アピールしなきゃいけない立場であり、未来のストライカーでもある。取材も殺到していたことでしょう。
取材現場に着くなり「ふぅ~」……とため息とともに出た音。あれは本当に心の声でした。
もっとも「心の声」を聞いたのがプレミアリーグ1年目のときです。
2015年から16年にかけた1シーズン。サッカーファンならだれもが知る奇跡、「プレミアリーグ優勝」を果たしたレスター。
岡崎さんはレギュラーとして活躍しましたが、2桁ゴールを記録していた過去2シーズンに比べると、自身のプレーには満足がいかなかったようでした。
その取材の集大成はプレミアリーグ1年目を綴る書籍としてベストセラーになったのですが、タイトルはまさかの「未到」。優勝オッズ5001倍の奇跡に導いたレギュラー選手の本とは思えないものでした。
「いやぁ……」
レスターで、電話で、書籍のための取材が始まる前、質問を投げかけて答えようと考えている間、終わってからの一言……。
何か言いたいけど、どこかで我慢をするんだけど、その一端がちょっとだけ漏れる。
それが岡崎さんの心の声で、そこにはだいたい「自分に対するふがいなさ」や「現実に対するもっとこうありたい」という思いが、胸までつかえていて喉を通ってちょっとだけ唇から抜けてくる。
そんな感じでした。
そして2週間前。
毎週配信してもらっている岡崎さんのコンテンツ「dialoguew/」について相談があって電話をしたときのこと。
あいさつした瞬間の一言目。それが冒頭の「うだわぁああ……」でした。
本当にそう言ったのかはわかりませんが、僕にはそう聞こえました。
胸のつかえが漏れた、というより、はっきりと出ていたかもしれません。
うだわぁああ……の理由
実は僕自身も同じ気持ちだったので、同じように言いかけたのですがそこは編集者として感情移入しすぎてはいけない……と(そもそも僕にそう聞こえただけかもしれないですし。苦笑)予定していた質問をいったんやめて、聞きました。
――リーグ戦は残念でした……可能性としてはギリギリありますかね……。
「いやー……。そうですけど。切り替えていますけど、悔しいですね。今も試合の映像見ていますけど……」
ドイツ6部。岡崎さんが監督を務めるバサラマインツは5部昇格を目指し、激しいプレーオフ進出争いを続けていました。
残り12試合の時点で3位。1位は自動昇格、2位がプレーオフとなるレギュレーションの中、バサラマインツはここから一気にギアを入れます。怒涛の8連勝。しかもその8連勝目は2位のチームを相手に4対0の完勝で2位に浮上したのでした。
6部はプロではないので日本からリアルで試合を見ることはできません。サイトの速報を何度も更新してスコアを見続けた2カ月でした(直近の数節はバサラマインツのサポート会員向けに配信もされていて、試合を見ることができました。またハイライトやフルマッチは「dialoguew/」でご覧になれます)。
そんな中で迎えた27節。残る4試合すべてに勝てば自力でプレーオフ進出という試合で痛恨の引き分け。そして28節も再びドローで3位に後退。プレーオフ進出の可能性が大きく遠のいた瞬間でした。
電話はそんなタイミングのこと……。
心の声は、思いや思慮、戦略だけでは到達できない「現実の壁」と戦っているようでした。
取材を続けさせてもらって感じる岡崎慎司というサッカー選手あるいは監督、指導者の強みはこの未到に代表される境地にあると思います。
(岡崎さん自身は大変なことも多いでしょうが)とにかく「現実の壁」をどうやって打ち破るか、ということだけにフォーカスをし続ける。
面白いのはその「現実の壁」を選んだのは自分だ、ということです。
欧州に残るという選択、クラブを立ち上げるという選択(これは12年前のこと山下喬さんという滝川二高の先輩がその道を作ってきました)、日本代表監督を目指すという選択……誰が見たってものすごい高さだと想像できるほどの壁を彼は、上ろうと決断します。
現役のころも同じ。
レスターが優勝し、翌シーズンはチャンピオンズリーグベスト8を遂げています。
結果を出すチームにあって間違いなく必要な「主力選手」であったにもかかわらず、「プレミアリーグでシーズン二けた得点」(当時の日本人選手でそれを成し遂げた選手はいませんでした)「ヴァーディーやマフレズに負けない」という判断基準で自分を評価し続けました。
ひとつの見方ですが、もしレスター1年目のころの役割をより極めようとしていれば、「得点」以外の形でその名を残したかもしれません。でも、それは岡崎慎司の「現実の壁」として選択されなかったのです。
「うだわぁああ……」
冒頭の心の声。
それは今なお「未到」を抱く岡崎慎司さんの声であり、つまり現役のころと変わらず「現実の壁」と戦っている証でした。
結局、今シーズンは3位でフィニッシュ。昇格は来シーズンに持ち越しとなりました。
とはいえ、この感情こそが真骨頂。
選手時代と同じ気持ちで戦っている、その驚異的なメンタリティーに驚くばかりです。
この壁を乗り越えられるかどうか――。
来シーズンも「Dialogue w/」で配信を続けていきます。
岡崎慎司さんが日本に帰ってきます
「Dialogue w/」のリアルイベント「「Dialogue w/ Forum」が6月27日に開催されます。バサラマインツの話はもちろんですが、同じくドイツで活躍された元日本代表の高原直泰さん、選手はもちろん監督しても一時代を築いた恩師・長谷川健太さんをお招きして、ワールドカップ期間中に「サッカー」を徹底討論します。
ファンのみなさんはもちろんのこと、指導者の方、お子さん、そしてライトなサッカーファンの方も大歓迎です。たくさん、話し合いましょう!