街を歩いていると、不意に耳に入ってくる言葉がある。誰かの会話、カフェのBGM、看板の文字。芸人・鈴木ジェロニモが、日常の中で出会った“ちょっと気になる言葉”に耳をすませて、思考を巡らせます。連載の詳細はこちら

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鈴木ジェロニモの耳の音 #38「クリエイティブの総力を挙げて」

 

 カラコルムの山々のライブ『カラコルム・ハイウェイ』を観た。

 転換。次の演奏のために楽器が並べられていく。ドドドドドンドンドンスタラカタツースドドン。ドラムが音を確かめる。おっ、と思う。音が、いい。何がとかは全然分からないけれど、何というか、その演奏者が生きているということとドラムの音が約束のように手を結んでいる。いいですねいいですね。ふと見渡すと客数がぐんぐん増えている。波頭の白さが陸を追うように客席の熱気が演奏を待ち望む。

「戻れメロス」。そういうタイトルの曲の中で、戻れメロス、と連呼される。イヤホンで聴いていたものが今、目の前で演奏されている。あれ、この音って本当にキーボードで弾いてたんだ。ああこれもそっかギターで。おおおベース。そうだよなドラムも。かっこいい曲のかっこよさを、なぜか勝手にDTM的な、PCから流れる音であるかのように認識していた自分に気づく。でも今、そうじゃない。うおおおお。私の気持ちが涙のように集まって、体が熱くなる。

 ステージにいるカラコルムの山々。そのメンバーが、彼らの手を動かさなかったら、声帯をふるわせなかったら、ここに音楽は現れない。人間の意志と身体が、動いてくれて、音を呼ぶ。それを信じて音を重ねる。無限の会話が同時に積み上がる。

 高い高い塔をPC画面に出現させるにはGoogleで「塔」と検索して画像を開けばそれでいい。しかし現実は違う。考えて手を動かしてそれをいくつも繰り返して、ようやく塔は建つ。建ち上がった塔を見て、その一瞬じゃなさに圧倒される。一瞬じゃなさ。カラコルムの山々のステージにそれがある。だから私たちは客席から、高いところへ手を振るように、その音楽を見上げる。まぶしさを果実のように掴もうとする。

「私たちのクリエイティブの総力を挙げて、お迎えします」。次のワンマンライブの情報解禁。ボーカル・ギターの石田さんが客席に呼びかける。クリエイティブという言葉に、かつてない手触りがある。クリエイティブ、と聞くとどこかインチキというか、作ってないのに作ったと言ってる、とか、作るという行為のかっこよさだけを過剰にひけらかす、みたいな、品を見せつける下品さを思うことがある。

 しかし石田さんの言葉には、そのような余計な味付けを一切感じない。考える。体を動かす。言葉を交わす。そういう人間の脈動のようなベーシックな行いに、魂を伴って向き合う。誠実さが骨を触るように伝わってくる。

 今日、カラコルムの山々を観た。そのことを私はもういいよってほど言っていくし、あの場にいた私たちはみんなそうすると思う。クリエイティブという言葉が嬉しそうに、ようやく照れて笑ってくれた。

▼以下、写真2枚+キャプション▼

『カラコルム・ハイウェイ』を観た私。髪型を忘れるほど良かった。綿密に作り込まれたステージの中に所々アドリブのようなライブ感がある。私がラーメンズさんのコントを観てお笑いを志したときの気持ちはこういう昂りだったと思い出す。
ボーカル・ギターの石田想太朗さんとおがわもみじさんのユニット「ミジンコ論争」の「いちご味味」という曲に私はフィーチャリングとして参加させていただいたことがある。夏のような秋だった。

【次回更新は12月20日(土)正午予定】

 
鈴木ジェロニモ
芸人、歌人

プロダクション人力舎所属。R-1グランプリ2023、ABCお笑いグランプリ2024で準決勝進出。第4回・第5回笹井宏之賞、第65回短歌研究新人賞で最終選考。第1回粘菌歌会賞を受賞。YouTubeに投稿した「説明」の動画が注目され、2024年に初著書『水道水の味を説明する』(ナナロク社)を刊行。文芸誌でエッセイ掲載、ラジオ番組ナビゲーター、舞台出演など、多岐にわたり活躍。>>詳細

 

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