【ELSI News Update】パブコメ異常件数／AIにかける言葉／捏造画像訴訟

毎月末にメール配信する「ELSI最前線 Newsletter」では、ELSI（最先端技術に関する倫理的・法的・社会的な課題）に関連する国内外の動向から、注目のニュースをピックアップ。キュレーション担当者のコメントと併せてお届けしています。（上記の「目次」を開くとニュースの見出しを見られます）

【2025年6月30日(月)18時まで無料公開】

ELSI News Update

ELSIに関連する国内外の動向から、注目のニュースをピックアップ。キュレーション担当者のコメントと併せてお届けします。

今月のキュレーション担当

長門裕介
大阪大学社会技術共創研究センター講師。専門は倫理学、特に幸福論や人生の意味、先端科学技術のELSI（Ethical, Legal and Social Issues 倫理的・法的・社会的課題）。最近の業績に”Addressing trade-offs in co-designing principles for ethical AI”, AI and Ethics, vol.4-2, （A. Katiraiとの共著、2024)、R.ハルワニ『愛・セックス・結婚の哲学』（共訳、名古屋大学出版会, 2024）など。　プロフィール詳細

パブコメ「異常件数」相次ぐ　SNSで動員、かすむ民意

日本経済新聞（2025年3月24日）
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA128RU0S5A310C2000000/

　生成AIなどを利用した大量の件数のパブリックコメントが送られており現場では想定外の対応を強いられているというニュース。江戸時代にも役所の前に自分の意見を書いた文を打ち捨てて置く人が多くいたという（いわゆる捨て文）。所詮は不満のはけ口に過ぎないと言ってしまえばそれまでだが、政策に関する自分の意見を公的な立場の人に聞いてもらうための適切なルートを見いだせない人が多いということでもある。

ChatGPTに対する「ありがとう」や「お願いします」といった礼儀正しい言葉が数十億円分の電力消費につながっているとOpenAIのサム・アルトマンCEOが発言

GIGAZINE（2025年4月21日）
https://gigazine.net/news/20250421-politeness-could-be-costly-ai/

　Chat GPTにどんな態度で接しているかを学生に聞いたところ、多くの学生がこのニュースと同様に丁寧な口調で話しかけていると話していた。機械にあまり思い入れを持つべきでない気もするし、機械だから手荒く扱ってもよいとも思えない。かつて動物に話しかけるのを奇人・変人、あるいは魔女の証と考えていた時代もあったようだが、今では動物の感情や知性を認めるのが当然となった。AIに対する私たちの態度も、同じような変遷を辿るのかもしれない。ちなみに「数十億円分の電力消費」というのは大げさなジョークだそうだ。

女子プロレスラー（捏造画像）事件　結果的に捏造された証拠に基づき訴訟を提起してしまった弁護士等の責任が否定された事案

トムソン・ロイター　判例コラム（2025年4月8日）
https://www.thomsonreuters.co.jp/ja/westlaw-japan/column-law/2025/250408/

　女子プロレスラーの遺族が、偽造された画像を証拠に損害賠償を求めて裁判を起こしたところ、逆に相手方から「不当訴訟だ」と訴え返された事件で、裁判所は弁護士の責任を否定した。この判決を読んでいて考えさせられるのは、弁護士に一体どこまで求めるのが妥当なのか、という問題だ。興味深いのは、裁判所が「当時は偽画像による誤った提訴事例が知られていなかった」と述べている点だ。逆に言えば技術が進歩すれば求められる注意レベルも変わっていくということでもある。「オレオレ詐欺」にひっかかるなんて危機意識足りてないんじゃ……と高齢者を内心馬鹿にしていた向きも多かったと思うが、現在の巧妙な特殊詐欺は誰が引っかかってもおかしくない。ディープフェイクも同様で、この弁護士を馬鹿にすることは誰にもできないはずだ。

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