「夫婦生活」と「子育て」、密接に関係するこの二つの関係について、ふたりのスペシャリストに話を聞く。

[前回:夫婦仲が子どもに与える影響は?「夫婦関係」と「子育て」二人のスペシャリストが語る

 新刊『夫は、妻は、わかってない。 夫婦リカバリーの作法』が話題の夫婦カウンセラー安東秀海氏と現役保育士として執筆活動、NHK Eテレ『ハロー!ちびっこモンスター』に出演するなど活躍の場を広げるてぃ先生。

 前回は、子育てに熱心な夫婦だからこそ生じる衝突や、情報提供から始まる対話の重要性などについて話を伺った。

 今回は、現役保育士であるてぃ先生から見た子育て中の夫婦の印象についてお聞きしながら、ママ、パパとしての「子どもとの関わり方」という観点から夫婦のあり方を考える。

てぃ先生
現役保育士 / 顧問保育士 / インフルエンサー

現役の保育士でありながら、フォロワーが160万人を超えるインフルエンサーとして活躍。その超具体的な育児法は斬新なアイディアに溢れていて、世のママパパに圧倒的に支持されている。数多くのテレビにも出演し、「いま一番相談したい保育士」「カリスマ保育士」と紹介される。

 

 
【大反響】『夫は、妻は、わかってない。』
安東秀海・著

長年夫婦で「夫婦カウンセリング」を行い、2000組の話を聞いてきた、LifeDesignLaboの安東秀海先生がその解決策を紹介していく。不倫、セックスレス、借金から「夫が嫌いになった」といった感情の課題まで。9つの代表的なカウンセリング事例とを紹介しながら、自分の人生との向き合い方を提示する、自分を大事にできる一冊。


子どもへの声かけに表れるパパとママの関係——現役保育士からみた「夫婦」

——てぃ先生は、保護者として「夫婦」に接することが多いと思いますが、その中で見て取れる「良い傾向」「悪い傾向」などはありますか?

てぃ先生:保育園に夫婦が揃って「お迎え」に来るケースはほとんどありません。

 なので、夫婦が揃った状態で感じることは少ないですが、それぞれのパパやママを見ていると声のかけ方にひっかかりを覚えることはあります

 例えば、ママの子どもに対する声のかけ方と、パパの声の子どもに対する声のかけ方が明らかに違うとき。ご家庭ではどういう感じなんだろう、と思います。

 例えば、パパ側にありがちな声かけがあります。

 それが「ママを悪者にする」というもの。

 保育園から帰るときに、子どもがなかなか靴を履かないことってよくありますよね。

 そういうときママは「お家に帰ってご飯を食べようよ」とポジティブな話し方で子どもを動かそうとする方が多い。でも、パパって「早く帰らないとママに怒られるよ」みたいな言い方をすることが多々あって。悪意はないんだと思うですけど。

 こういう「パートナーを悪者」にして子どもを動かそうとするのはパパによくみられる傾向だと感じます。ママの口から「パパが怒るから」というのは、あまり聞いたことがありません。

 だから、そうした「パパ側の言葉」を聞くと、あっ、これはママがかなり我慢しているんじゃないかな、とか、我慢まではいかなくてもイライラしているんじゃないかな、と考えたりします。

——これも耳が痛いです。パパはどうするのがいいでしょう。

てぃ先生:ご自身の言葉で伝えないといけないと思うんですよね。「この靴、足が速くなるよ」でもいいし、後片付けをしないときなら、「片付けないとおもちゃが迷子でかわいそうだよ」とか……言い方の選択肢はたくさんあるはずですから。

パートナーへの不満を消化できない男性が多い

安東先生:すごく大事なことですよね。

 夫婦カウンセリングにおいても当てはまる関係改善「基本のキ」とも言えます。

 ご夫婦のどちらかがカウンセリングにお越しになる場合に顕著なのですが、パートナーへの不満や愚痴を延々とお話されることがあります。

 そうやって普段話せない負の感情を消化することもカウンセリングの目的のひとつなので、それが悪いわけではないのですが、カウンセリング時間の大部分をパートナーへの愚痴に使うのは圧倒的に男性が多いように思います。

 女性のカウンセリングではあまりそうはならなくて、夫の愚痴を言うにしても「私にも悪いところはあったと思いますけど」という枕言葉が入ることが多いですね。

 
安東秀海
夫婦カウンセラー

夫婦カウンセラー。妻とともに夫婦専門のカウンセリングオフィス「LifeDesignLabo」を主宰。東京渋谷のカウンセリングルームには不倫やセックスレス等様々な問題を抱える夫婦が日々訪れ、2023年7月現在サポートしてきた夫婦は2000組に上る。機能不全に陥った夫婦の関係性を読み解き、健全なパートナーシップ構築へと導くことを得意とする。心理カウンセラーとして10年以上臨床に携わってきた実績から多彩なアプローチ手法を持ち、心理療法(セラピー)や心理ワークにも精通する。1973年生まれ。


——どういうことでしょう。

安東先生:ある意味女性は、夫のことや夫婦関係について、お友達も含めて第三者に話すことに慣れているのかもしれません。その分、客観的にも見ることができているから、少し冷静に見つめられているのかな、と。

——なぜ、男性はそういうことを口にしてしまうのでしょう。

安東先生:普段、夫婦関係について話す場所がないからではないでしょうか。その分、気持ちも未消化なのでカウンセリングで、一気に出てしまうんだろうな、と。

 なので、男性の初回カウンセリングでは特に、聞くことに徹します。溜まった気持ちを吐き出してもらって、関係改善に取り組むのはそれからですね。

トラブルを減らすには「中立」が良いとは限らない

——てぃ先生のお話も、安東先生のお話も、子どもたちに何かしらの影響を与えそうです。そうした夫婦間のゆがみが子育てにネガティブなものにならないためにはどうすればいいでしょうか。

安東先生:本の中でも書いていますが、それぞれがどんな立ち位置に立って「夫を」、「妻を」見ているか、がとても重要だと考えています。

 てぃ先生のお話に通じるところがありますが、パパは「子ども側に立って」ママを見てしまうところが多いように思います。

——中立な立場になれていない?

安東先生:はい、そうですね。あと、中立が良いとも限らないですね。

 本の中で取り上げた事例に、お姑さんとの間のわだかまりが問題の原因になっていたご夫婦のケースがありました(第1章 過去からのわだかまり 感情の問題 CASE02 どうして妻から避けられているのか理由がわからない夫)。

 そこでも指摘しましたが「中立」は「味方ではない」ということです。

——とすると、どの立場が?

安東先生:まずお姑さんとの関係で言えば、夫は、妻の味方であることが大切だと思っています。間を取り持とうと敢えて「中立」の場所に立とうとしてしまうんですが、それは妻側から見ると「中立」というより「外野」や「部外者」、場合によっては「敵」にすら見えてしまいます。

てぃ先生:確かに。子どもがいる場合の関係も似たようなことが言えるかもしれません。

 多くの場合は、安東先生がご指摘されているように「中立」より「ややママ側」に立つことで、トラブルは減らすことができます。

 なんだかんだで、ママが子育てのほとんどを担っているのが日本の現状ですから。

 僕としては、明らかに子どもが正しい場合でも、「まずはママの視点」に立っていいと思っています。

 例えば、たまに出くわすのが、ママが感情的になっていて、冷静に物事を捉えられていない瞬間です。こういうときも、まずママ側に立った後に、「ママはこういうことを伝えたかったんだと思うよ」と子どもをフォローする、という具合に視点の順番が大事になる。

 一番心配になるのは、パパが都合のいいときだけ中立の立場をとることです。ママに「何もわかってないくせに」と思われるよ……と心のなかで思っています。

【次回は10月15日更新】

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載

夫婦関係の悩みや疑問を募集中!

夫婦関係の改善をサポートするQ&A企画夫婦リカバリー相談室では、皆さまから寄せられた悩みや疑問に、夫婦関係専門カウンセラー・安東秀海先生がお答えします。

相談はこちらから

『夫は、妻は、わかってない。』安東秀海・著。本連載からスタートした「カウンセリング」事例からみるあたらしい夫婦の在り方。7月21日発売。