これまで自己肯定感の低さや回復方法などを人々にインタビューしながら、同時に自分のことについても振り返ってみたエディター澤田。自己肯定感が下がった原因「夢がないコンプレックス」「自分の気持ちがわからない」「人と比べてしまう性格」とどう向き合えばいいのか?自己肯定感に関する著作を多数執筆する精神科医のTomy先生に相談するインタビュー後編。澤田はどこまで自己を肯定できるようになるのでしょうか?

文=松倉和華子

精神科医Tomy
精神科医、エッセイスト、小説家
 

1978年生まれ。精神科医勤務を経て、現在はクリニックに常勤医として勤務する傍ら、著書を多数執筆。Twitterフォロワー数が30万人超の精神科医として知られる。2022年には念願だった小説『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』(ダイヤモンド社)を出版。Twitter:https://twitter.com/PdoctorTomy

 

他者との比較や他者からの評価を気にする限り幸せにはなれない

エディター澤田:前編では、私が自己肯定感を下げた3つの原因について聞いていただきました。Tomy先生のアドバイスを振り返ると、自己肯定感を上げるためには、とにかく自分が好きなこと、楽しいことを見つけてやるだけ、っていうことですかね?

精神科医Tomy(以下、Tomy):そうそう、楽しいってものすごく大事で、それだけでいいと言っても過言ではないの。楽しいことだけを追求していく。それができていれば自己肯定が回復して、そんなことすら考えなくなる状態になるんです。

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エディター澤田:でも、なにか未来に結びつく、成長できることをしていないと焦りを感じてしまうんですが。

Tomy:成長なんてしなくていいんですよ。どうせ人は死ぬんだから(笑)。それより限られた時間の中で、少しでも多くの時間を楽しく過ごした方が得よね。

 だから「今」を楽しく生きることがすべて。「今」に焦点を当てて充実させることが大事なのよ。そもそも、理想的な考え、理想の自分になったら幸せかって言ったら違うから。

エディター澤田:え、そうなんですか?

Tomy:だって理想の自分にならなきゃって思っている時点でまずたいして幸せじゃないでしょ。

 あなたが憧れるスペシャリストみたいな人って、当事者からしたら「こういう私って素敵に見えているはずだ」とか思ってやっていないと思うんですよ。ただそれが好きでやっているから打ち込めて、キラキラしているんですよ。「キラキラさせたい」って思っている人ってキラキラしませんよね、浅いじゃない、ちょっと(笑)。

エディター澤田:それはそうですね(笑)

Tomy:だからそこが根本的にずれているのよ。憧れや成功したい、評価されたい、素敵に見られたいということを目標にして出来ることを探すと、自分がそれを好きか嫌いかという視点が抜け落ちてしまうの。

 それでは本末転倒だから、成功する道を探すのではなく、まずは好きなことを見つけてそれを続けることから。好きとか楽しむって思っている以上に大事なのよ!

エディター澤田:そうか…好きで楽しいことなら、成長できるものじゃなくてもいいんですね。

Tomy:そう。プロフェッショナルになるまで頑張るとかって、最初のモチベーションのつかみとしては悪くないけど、それだけだと飽きちゃうし続かない。

 そもそも自分の人生は、誰かの評価の上に成り立っているのではなく、自分が主体となって見ているだけなんだから、自分が楽しければそれでいいの。人と比べたり、人から評価されたいってスタンスでいる限り、幸せにはなり得ないのよ、だって上には上がいるから。夢中になれるものを探す、今を楽しく生きるという以外の目標なんてないんです。

やりたいことはチマチマでも続けてみる

エディター澤田:…本当にその通りですね。目からウロコが落ちました。

 ひとつ思い出したのは、私自身、どこかで夢って叶わないものだと思い込んでるところがあるんですよね。小さい頃は漫画家とかスタイリストとかいろんな夢があったのに、親に「そんなの無理」「勉強ができるのにもったいない」って否定され続けて、無難に大学に行って就職したので。

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Tomy:…少しわかる気がするわ。ここで初めてアテクシの話をするわね。アテクシは今、精神科医だけど、元は作家という夢があったの。でも作家ってそもそもどうやってなればいいか分からなかった。だからその夢は諦めて、精神科医の道に進んだの。

 でも一方で、自分はこの先どうしたら良いだろうって悩んだりもしたわ。それで、子どもの頃から夢だった書くことをやろうと思ってブログを始めたの。どうせ書くならヒットさせたいと思って書き方を工夫したり、PV数を伸ばすためにあれこれやってみた。そしたらブログをきっかけに本を出せることになったの。

エディター澤田:トントン拍子に、すごいですね!

Tomy:でもね、数冊本を出して、売れない時期もあったの。それでもTwitterを始めたりしながら書くことは辞めなかった。そしたらTwitterから火がついて、初めて重版することができて、ついに最近念願の小説を出すことができた。

 この経験から伝えたいのは、アテクシがもし挫折したときに書くこと自体を辞めていたら、小説は出せなかったわよねって話。だから、やりたいことがあるなら、チマチマでもやってみるって結構大事よ。そうするとどれかは伸びたりする。きっと成功している人って数打ちゃ当たるで当てた人だと思うの。

エディター澤田:そっか。ブログを始めた当初は誰も見ていなくても、楽しいから書き続けていたってことですもんね。

Tomy:そうよ。ブログだって飽きるかもしれなかったけど、とりあえず始めてみた。それで読者がどんどん増えたら楽しいわよね。そしたら続けるでしょ、続けたら結果が伴うの。

「今」に集中して、ワクワクすることを掘り下げていこう

エディター澤田:結局、自分の好きや楽しいを実践していくことしかないってことですね。自分がワクワクすることをやるだけと。

Tomy:そう、ワクワクよ! ワクワクすることってすごく大事で、「今、私がワクワクすることって何かな?」とか、それを探すだけでもワクワクするでしょ。

エディター澤田:そうですね。私は一旦、プロフェッショナルとか、何かを極めている人への憧れや理想は横に置いておくとします。

Tomy:そうね。考えてもいいけど、それを考えることで辛くなったり、自分を嫌いになりそうならやめましょう。自己肯定感だってね、「回復させなきゃ!」って思い詰め過ぎたり、それによって苦しんでいたら本末転倒なんだからね。

エディター澤田:まさに今の私です(笑)。

Tomy:それにね、何かを極めて頂点にいる人やプロフェッショナルな人々も、必ずしも幸せかって言ったらそんなことないと思うわよ? 一度頂上に立ったら、登る楽しみがなくなったり、ピークをすぎることが辛くなったり、キリがないのよ。

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「自分のいいところ」を見つけられれば自己肯定感回復は始まっているのかも!?      

エディター澤田:たしかにそうですね。「自分が楽しいことをする」。色々掘り下げた結果、めちゃくちゃシンプルな答えですが、そう考えると気が楽になるかも…。

Tomy:そうね。あなたは自覚している通り、人と比べたり、「これでいいのか」って悩みやすい人だと思うけど、それって自分の世界の見方の癖なのよね。

エディター澤田:はい、長年の癖になってます。

Tomy:それを理解できたなら、癖だと思って割り切ることも大事よ。あと自分で「ダメだな」って思う部分も、側から見たらそれが長所だったりもするのよ。

エディター澤田:そっか…考えてみたら私、人のいいところを見つけるのは得意なんですよね。

Tomy:それ、自己肯定の第一歩じゃない?

 人のいいところを見つけるのが得意ってのは、上司としてとてもいい能力よね。あなた、過去に編集長もしていたっていうじゃない。部下を伸ばしたりするのも上手だったんじゃないかしら。

 それが分かったなら、周りの人に「あなたはこういうところがいいね、羨ましいな」って伝えてみたら?きっと相手も喜ぶと思うわ。目の前で喜ぶ人の姿を見てあなた自身の肯定感も上がるはずよ。

エディター澤田:本当ですね!

Tomy:そうやって小さなことでもいいから自分のいいところを見つけられれば、肯定感はすでに回復に向かっていると思うわ。

エディター澤田:はい。色々考えすぎてモヤモヤしていましたが、「自分が楽しいこと」をすればいいだけだと思うと気が楽だし、それだけでワクワクしてきますね!深い森を抜けた気がします。ありがとうございました!