これまで自己肯定感の低さを克服した人にインタビューしながら、自分についても振り返ってみたエディター澤田。そこで思い当たったのが、「夢がないコンプレックス」「自分の気持ちがわからない」「人と比べてしまう性格」の3つ。
 自己肯定感が下がった原因と思われるこれらの要因とどう向き合えばいいのか?ついに己の問題に向き合うべく、自己肯定感に関する著作を多数執筆する精神科医のTomy先生に相談をお願いしました。果たして澤田は、「私のままでいい」と思えるようになるのか?

文=松倉和華子

精神科医Tomy
精神科医、エッセイスト、小説家
 

1978年生まれ。精神科医勤務を経て、現在はクリニックに常勤医として勤務する傍ら、著書を多数執筆。Twitterフォロワー数が30万人超の精神科医として知られる。2022年には念願だった小説『精神科医Tomyが教える 心の荷物の手放し方』(ダイヤモンド社)を出版。Twitter:https://twitter.com/PdoctorTomy

 

夢があったほうがいい、という思い込み

エディター澤田:私は28歳で結婚し、32歳でメディアの編集長を経験しました。側から見たら順風満帆ですが、当時は幸せを感じられず。そもそも昔から絶対叶えたい夢がないことがコンプレックスだったんですが、33歳頃に夢探しは諦めて目の前の日々を楽しむようにしたんです。

 結果、幸福感を感じられるようになったんですが、2年前に出産し、自分の時間が激減。産休育休で社会的な繋がりが減ったうえにコロナ禍になり、気付いたら最近、また幸福感が下がってきています。

精神科医Tomy(以下、Tomy):なるほど。

エディター澤田:他にも、SNSを見て他者と比べたり、雑誌やテレビでなにかひとつのことを極めている人を見ると「すごいな、こんな人になりたいな」と思うんですが、目の前の小さな努力を積み重ねられない自分が嫌になります。

 仕事柄、取材で一流の方々に会う機会も多く、本当は自分も何かのスペシャリストになりたいという憧れがあるんですが、そうなれない自分にコンプレックスを感じています。

Tomy:わかりました。でも夢がないって言っていたけど、「こういう人になりたい」ということがそもそも夢よね?

エディター澤田:そうなんですかね。でも誰か一人に憧れるわけではなくて……。

Tomy:こうなりたいという具体性があるのなら、メモしておいて理想の人間像を作るというのもひとつの方法だし、その場のノリで「この人いいな」「羨ましいな」と思うだけであれば、「この人を理想にしたい」という人を具体的に思い浮かべるようにした方がいいわね。

 もしそういう人がいなければそれを探すことからやったらいいと思うわ。自己肯定感の根本は、自分のやりたいことが明確になっていて、それをやれているという状態なの。だからいきなり大きな夢を作ろうとする前に、自分は何が好きか嫌いか、まずはそこからやりたいことを見つけるのが大切ね。

自分の気持ちがわからず、掘り下げるのが苦手

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エディター澤田:自分の好きなことって言われると、ファッションとか音楽ってすぐに挙げられるのですが、それ以外に自分を掘り下げるのが苦手なんです。自分の感情や考えを書き出すというワークをしたときも、「今まで一番腹が立ったことは?」とか「理想の1日とは?」と聞かれると、これというのが思い浮かばなくて。

Tomy:そうなの。それなら無理して書き出さなくてもいいと思うわよ。苦手なのに無理にやろうとしてもできないし。

エディター澤田:た、たしかに。

Tomy:最小限でいいの。一番簡単なのは「これが好きか嫌いか」を常に頭で考えること。読書が好きか嫌いか、散歩が好きか嫌いか、運動が好きか嫌いかとか。イエスかノーで答える練習をしておくと自分の方向性がだんだん見えてきます。

エディター澤田:それくらいならできそうです。

Tomy:それによって思考が整理されるわ。理想とか、難しいことを考えたり、言われた通りにすべて書き出さなくてはと思うのはやめて、シンプルに何が好きか、嫌いか、最小限でいいから書く。人にどう思われるかではなく、素直にね。

 単純になればなるほど、肯定感って回復するんですよ。自己肯定感の低い人って、ごちゃごちゃ考え過ぎて、シンプルじゃないの。例えば何かやろうとしても「これってどう思われるか、成功するか」とか、物事を変な視点で見てしまうの。だからそれをやめることからね。

エディター澤田:うわー、それよく思っちゃいます。

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人の言動に流されて自分を見失いがち

エディター澤田:しかしSNSを見ていると、「好き」もよくわからなくなることがあるんです。

 たとえば、私は海が好きなんですが、最近友人たちが数人海沿いに移住したんです。それを見ていると羨ましくなるんですが、それは本当に自分が海が好きだからそう思うのか、みんなが行くから「移住したいな」と感じているだけなのか、どちらか分からなくなったり……。

Tomy:移住は置いておいて、海は好きなのよね? 海の写真を見ていいなって思ったら、自分の行動にシンプルに落とし込めばいいのよ。「海、いいな!最近行けてないな、行っちゃおう!」って計画したり行動することで消化する。自分が楽しくなる方向に考えればいいのよ。

エディター澤田:そうか…。

Tomy:そもそも、SNSって、いいなと思われるために演出して投稿する場所でもあるから、うまく距離を取ることが必要ね。

 例えば旅行へ行ったり、買い物したり、いろんな人の充実した様子が見られるけど、本当に充実している人はそれを人様に知らせたいと思うこともなく、その瞬間を楽しんでいるものでしょ?演出なのでそれに悔しがる必要はないの。ようは地味な生活であっても人と比べなければ、そっちの方が幸せなのよ。

そもそも自己肯定感が低い「原因」や行動するときの「生産性」に拘らなくっていい!

エディター澤田:この特集をやりながら、自己肯定感が低くなった原因について考えていたんですが、Tomy先生の話を聞いていると、原因なんてわからなくてもいいんですかね?

Tomy:そうそう。そもそも自分探しに有意義なことがあるかと言ったら、アテクシは疑問ね。自分がどうかって考えても、そりゃ自分は自分というだけでそのままだろうって話なの。

エディター澤田:うーん、私もそんな気がしてきました。「なぜ私ってこうなんだろう」ってずっと考えていても、その時間が幸せじゃないというか…。

Tomy:その通りよ。今幸せを感じないのは、たぶん好きなことをしている時間が足りないだけだと思うわ。それを増やしてあげれば単純に自己肯定できる、そんなこと考えなくなると思います。

 好きなことがわからないのなら、本屋へ行っていろんな本を立ち読みして探したりしてもいいし、ちょこちょこと色んなことに手を出して、面白いと思うものが見つかれば続けて、飽きたら他を探すってことをやっていけばいい。

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エディター澤田:私、今までもギターとかカメラとか色々な趣味に手を出してきて、続かないこともコンプレックスなんですけど、それでもいいんですか?

Tomy:問題ないです、飽きっぽくっても。色々やってみて。

エディター澤田:楽しいことするっていうのは、漫画を読むとか、買い物するとか、生産性のないことでもいいんですか?

Tomy:生産性があるかどうかは他者が判断することだから、気にしなくていいの。自分がやりたいかどうかが大事。

エディター澤田:でも、私の理想はスペシャリストみたいな、何かの道を極めている人なんです。ただ、子育ての合間にできることだと、漫画とか買い物くらいで、生産性がないし、続けていってもスペシャリストになれるわけじゃないから意味がない気がするんですが…。

Tomy:そもそも子育てがすごく生産性のあることなんですよ。だから今はその合間に楽しく過ごせる趣味くらいで十分だと思うんです。その中で自然に面白くて続けていくものが出てくればそれはそれでいいし、なければなくていいと思うわよ。

エディター澤田:そうなんですかね…。

Tomy先生の話に納得しつつも、まだ「成長すること」「夢を追うこと」など自分の中の理想を捨てきれない澤田。後編に続く!