吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。
第80回は常総学院高等学校(茨城県)#4
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4年ぶりの全国大会を目指して進んできた茨城県の名門・常総学院高校吹奏楽部。副部長の佐久間暖音(はるね)は、昨年の東関東大会で味わった悔しさを乗り越え、仲間たちとともに「改革」の音を紡いできた。「たとえ結果がどうなっても、最高の演奏を」という願いを抱きしめながら——。
そして、いよいよ東関東大会。暖音たちは運命が待ち受けるステージへ飛び込んでいった。
音に乗り移った55人の思い
55人のコンクールにかける「熱」が上がってこないのが暖音の不安材料だった。
しかし、東関東大会の6日前、「みんなの空気が変わった」と暖音は感じた。なにかきっかけがあったわけではない。演奏をしているときも、していないときも、「熱」が高まってきているのを感じた。
その感覚は日に日に増していった。それと同時に、演奏もさらによくなっていった。一人ひとりが、気づかぬうちに成長していたのかもしれない。暖音が県大会後に感じた懸念は霧が晴れるように消えていった。
9月5日、東関東大会当日を迎えてもそれは変わらなかった。会場に向かうバスの車内には充実した高揚感が満ちていた。静かな自信と決意がそこにあった。
ただ、本番前にチューニング室に入ると、さすがに緊張感が高まりかけた。そのとき、暖音は顧問の片山章先生の言葉を思い出した。
「たぶん、本図先生は緊張していると思うから、それを見て楽しめるくらいだとリラックスできているっていうことだよ」
たしかに、本図智夫先生はチューニング室でひとり落ち着かずにそわそわしていた。暖音や部員たちは密かに先生を指さしたり、目線で「ほら、本図先生!」と示したりして笑みを浮かべた。気づけば、片山先生の言ったとおりにみんなリラックスできていた。
実は、笑顔を大事にしていたのは本図先生も同じだった。気負いすぎずに演奏すること。音楽を奏でる12分間を心から楽しむこと。それが、吹奏楽指導44年目の大ベテランが到達したステージ上の極意だった。
出番が来て、舞台に出た55人の雪組がセッティングをしているときも、本図先生は頬を指先でつつきながら「笑顔だよ」と言い、みんなが微笑んだ。
(最高の空気感だな……)と暖音は思った。
「プログラム11番。茨城県代表、常総学院高等学校——」とアナウンスが流れた。...
