吹奏楽部員たちが部活に燃える日々の中で、書き綴るノートやメモ、手紙、寄せ書き……それらの「言葉」をキーにした、吹奏楽コンクールに青春をかけたリアルストーリー。ひたむきな高校生の成長を追いかける。

第88回は愛知工業大学名電高等学校(愛知県)#2

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「運命の曲」を奏でるソリスト

「全国大会という場所でいちばんのソロを吹きたい。高い目標だけど、プライドと責任を持って——」

 自由曲《白磁の月の輝宮夜》の終盤、トランペットのソロを受けてユーフォニアムで哀愁漂うソロを奏でる3年生の添田ゆらんは全日本吹奏楽コンクールを控え、そんな決意を抱いていた。

添田ゆらんさん(3年生・ユーフォニアム)

 

 吹奏楽の名門として知られる愛知工業大学名電高校吹奏楽部の中でも、ソリストとしての圧倒的な輝きを持ち、高2からソロを任されてきたゆらんだが、高校生活は「個人と集団」の間で揺れ動く葛藤の連続だった。

 ゆらんは5人姉妹の末っ子として育った。姉たちが音楽をやっていたこともあり、ゆらんは幼少期からエレクトーンを習い始めた。「将来はプロになりたい」と考えるほどの腕前で、コンクールでも上位入賞を果たしていた。

 エレクトーンはメロディも伴奏もリズムもすべて自分で奏でられる。音色もコントロールできる。たったひとりで音楽のすべてを支配できる楽器だ。

 だが、吹奏楽は正反対だ。吹奏楽部に入っていた姉たちの影響でゆらんも中学から入部したが、管楽器奏者がひとりで出せる音は1つだけ。目盛りで音を変えることもできない。自分が「こういう音楽を奏でたい」と思っても、ほかの部員たちの技量ややる気によって演奏が左右されてしまう。

 ただ、ゆらんはエレクトーンという楽器を使って音や音量を操作するのではなく、自分の体で音楽を表現することにおもしろさを感じた。中学時代、できないことができるようになるのが楽しくて、ひたすら毎日練習に没頭した。

 進路を考えたとき、名電の体験入部で聴いたユーフォニアムのソリストの音にあこがれを抱き、「私も強豪校でソロを吹いて活躍したい!」と進学を決めた。エレクトーンでは出せない、アコースティックの楽団だからこその豊かな響きにも魅了された。

 ゆらんは中学まではエレクトーンと部活を両立していたが、高校ではエレクトーンを諦め、部活1本に絞った。

 入部後、ゆらんは名電での活動に喜びを覚える反面、不満も感じた。「なんでこうやって演奏しないんだろう」「私だったらこうするのに」「エレクトーンだったら自分がやりたいように演奏できるのに」とつい思ってしまう。負けず嫌いで、音楽では人に譲れない性格。いまから振り返ると、「生意気な問題児」だった。...