不倫、セックスレス、借金から「夫が嫌いになった」といった感情の課題まで、カウンセリング事例を掲載し、夫婦の、そして自分の人生との向き合い方を提示している話題の本『夫は、妻は、わかってない。』。著者である夫婦カウンセラーの安東秀海氏に、「夫婦カウンセリング」について聞く後編。

 「相談内容で最も多いものは?」「夫婦がこじれたとき、してはいけないことって?」「夫婦間のいさかいをお金で解決。これってアリ?」など、夫婦が抱える問題と解決法について、話を伺いました。

取材・文=吉田彰子

安東秀海さん
心理カウンセラー

心理カウンセラー養成スクールの講師を経て2015年に独立、夫婦関係を専門とするカウンセリングオフィス『Life Design Labo』を開設。機能不全に陥った夫婦の関係性を読み解き、健全なパートナーシップ構築へと導くことを得意とする。書籍に『夫は、妻は、わかってない。』がある。
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“不倫”から“不仲”へ。「問題はないけど仲が悪い」夫婦が急増

Q8.相談内容で一番多いものは?

 以前は浮気や不倫に関するご相談がもっとも多かったのですが、現在は「目立った問題があるわけじゃないのにうまくいかない」「ケンカが増えて時に手がつけられないくらい衝突してしまう」というような、「不仲」に悩んでいらっしゃる方からのご相談が本当に増えましたね。

昨年からはじめた「夫婦リカバリー相談室」では、多くの夫婦から疑問が寄せられている。

Q9.最初にカウンセリングに来られる時は、ご夫婦の間でなにか事象(不倫や大きなケンカなど)があってから来ることが多いですか?

 以前は、不倫のように、具体的なトラブルをきっかけに相談に来られる方が多かったですが、現在は慢性的な行き違いや違和感をテーマにお越しになるケースが増えています。また「夫は発達障害なのではないか?」と悩まれて、ご相談に来られる方も多いですね。

 私はそれを診断する立場にないのですが、夫婦関係がうまく機能しない構造的な問題を考える際には様々な要素を考慮しながら見立てを立てていきます。

 夫の発達障害を疑う女性の多くは、共感性の無さや衝動的に怒る、キレる、といった行動に悩まれているケースが多いのですが、それは発達障害が背景にあるのか、あるいは考え方の問題なのか、それとも夫婦間でストレスに感じることが多すぎてただ優しくなれなくなっているのか──そんな風にお話を伺いながら考えていきます。

夫婦カウンセリングに対して後ろ向きでもOK。必要なのは……

Q10. 夫婦カウンセリングに向かない人がいたら教えてください。

 よく「夫はカウンセリングに前向きじゃないので不向きなのでは……」という質問をいただくのですが、カウンセリングに対して、たとえ後ろ向きであっても私は構わないと思うんです。

 ただカウンセリングを進める上でとても難しいのは“無関心”です。夫婦関係の改善に対して「どっちでもいい」「よくするつもりもない」「悪いと思っていない」のように無関心なスタンスを取られる場合はカウンセリングが成立しにくいように思います。

Q11. 例えば、妻(夫)側が問題意識を持ってカウンセリングを受けていて、夫(妻)を誘ってもカウンセリングを拒否するパターンもありますか?

 それは、よくありますね。「無関心」な場合もそうですし、そもそも問題意識がない、というケースもあります。また、問題だとは思っていてもそれを解決しようというモチベーションがないという場合もあります。うまくいかない関係に傷つきすぎて、もうエネルギーがない、ということも考えられます。

 問題意識を持って取り組みたい側から見れば、カウンセリングを拒否するなんてもう関係修復する気持ちがないの? とがっかりしてしまうかもしれませんが、カウンセリングに取り組むも取り組まないも本人の選択次第です。

 もし夫や妻が積極的に取り組んでくれなくても関係改善の道はありますから、まずはカウンセリングに前向きな方がリーダーシップを取って進めていくことが大切ですね。

Q12.本にでてくるケースは、子どもがいるご家庭が多いですが、相談に来る方はお子さんがいるご夫婦が多いですか? また、それはどうしてだと思われますか?

 統計をとったことはありませんが、お子さんがいらっしゃるご夫婦が多いように思います。

 子どもがいるから問題が起こりやすい、とまでは思いませんが、子どもが生まれることで夫婦の関係性が変わるのが大きいのではないでしょうか。夫婦だけなら1対1の関係でシンプルですが、そこに親子関係が入るので関わりが複雑になります。「子どもにキレる夫をなんとかしたい」というのはご相談の定番になりつたあります。

 あと、産前・産後で妻側の負担が大きくなることも夫婦関係に影響しやすいですよね。出産に伴う肉体的な負担はもちろんですが、内面的にも、社会的にも大きな変化を強いられる妻に対して夫側がその変化についていけていないことも行き違いが生まれやすい要因のひとつなのではないかと思います。

 夫が変わらないことにイライラが募った結果、育児や家事のやり方について少し強めに指摘をされる、みたいなことか増えていくのが育児期にはとても多いですよね。「産後妻の機嫌が……」というご相談は男性がカウンセリングを検討する入り口としては多いように思います。

「子どもに何を見せたいのか」夫婦仲が子どもに与える影響

Q13.本の中で、「ママが幸せでないと、子どもたちは罪悪感を抱きやすい」とお話されていたことが印象的でした。子どもを理由に離婚しない夫婦は多いと思いますが、夫婦仲は子どもにどのような影響を与えますか?

 パパとママが仲違いやケンカをしているのは子どもにとっては悲しいことです。でもそれ以上に、「僕が私が、パパとママを仲直りさせる!」と頑張りたくなることでもあるんですね。ケンカしてると間に入ってくれたり、歩いてる時にパパとママの手を繋がせようとしたり。それが成功すれば良いのですが、うまくいかないと「自分のせい?と考えてしまったりします。

 また、両親は子どもにとってもっとも身近な「夫婦」ですから、結婚観や夫婦像に少なからず影響を与えます。それは自然なことではあるのですが、まずは「自分たちの関係が子どもに影響を与えるんだ」という、自覚を持っておくことが大切だと思います。

 両親の仲違いやケンカをしている姿を見せたくない、と離婚を選択するご夫婦も少なくありませんが、様々な理由で離婚を選べばない場合もあるでしょうし、色んな考え方もありますからこれが正解、ということはないと思っています。

 私はきちんと取り組めば夫婦の関係は改善するものと考えています。ただそれが新婚時代のように戻れるということでもありません。今の関係性を起点に、より良い関係を目指すことはできる、と思っているんですね。ただ、時間も大事です。夫婦関係を改善する取り組みにどれだけ時間を使えるのか?は常に意識しておく必要があるのではないでしょうか。

 特にお子さんがいらっしゃるご夫婦の場合、幼少期から思春期に入るまではとても大切です。その時期にどんな夫婦関係を見せてあげたいのか?という視点を持っておくことはとても重要だと思います。私もカウンセリングを進めながらご夫婦の先にいるお子さんの存在は常に意識するようにしています。

Q14.夫婦がこじれた時に、最もやってはいけないことはなんですか?

 浮気を見つけてしまいました、というご相談では「お金で解決するのはダメですか?」という質問を受けることが時々あります。慰謝料みたいな意味合いというより、ケジメとしてちょっと高いプレゼントを買ってもらったり、ということなんですが、これはいいと思います。

 ただし、それがご夫婦で一緒に見つけたやり方で、お互いに納得感があるなら、ですね。

 これが成り立つご夫婦は、前提として関係が良好なんだと思います。だって、落としどころ、つまり逃げ道を用意してあげているわけですから。ベースの信頼関係がないと、こうはいかないですよね。徹底的に追い込みたくなってしまう。

 そういう意味では、夫婦仲がこじれたときに避けたいのは、逃げ道をなくしてしまうような責め方をしてしまうことですよね。追い込まれると、どんなに自分に非があると分かっていても、どうしても反射的に批判的な態度を取りやすいものです。

 大切なのは自分に対しても相手に対しても、納得できる「落とし所」を見つけること。「謝ってくれたらいいよ」でも「バック買ってくれたら」でも、それが落とし所になるならいいと思います。

 ただ、傷ついているときにはなかなか相手に逃げ道を用意する、なんて発想はできないですから、相手を責めてしまうほど傷ついているなら、まずは傷のケアが優先になると思います。逃げ道も落とし所も問題解決の出口としての位置付けであって、こじれが極まって関係性が最悪、という時には逆効果になる場合もあるから注意が必要だと思います。

Q15.『夫は、妻は、わかってない。』はどんな人に読んでほしいですか?

 夫婦の関係が行き詰まったとき、“抜け道”を見つけたい方に、ぜひ読んでいただきたいですね。関係がこじれてしまう前に、ぜひ悩みが浅いうちに手に取っていただけたらいいなと思います。

 また出版後、男性お一人で相談にお越しになるケースが増えました。夫婦関係に悩んでいるのは男性も同じなんだな、とあらためて実感しています。「他人に夫婦の問題を相談するなんて」と悩みを打ち明けにくい男性にこそ、手にとっていただけたら嬉しく思います。

記事:妻に家事育児の一切を任せていた夫。破綻した夫婦関係を修復するため考えるべきことは?