貧困、奨学金、親子関係、病気、自己責任論など様々な側面を原因として生きづらさを抱える人も多い現在。人生の問題を解決するヒントとして「哲学」が注目されている。
そこで『親ガチャの哲学』『恋愛の哲学』など哲学に関する著書を多数出版している戸谷洋志さんに、なぜいま哲学が求められているのか、哲学を学ぶ効用ついて伺った。
今回はその中から、なぜ哲学は難解なのか、加えて「挫折」せずに哲学を学ぶコツを紹介する。(全2回の2回目)
なぜ哲学を学ぶのか?気鋭の哲学者の解は「思考のストレッチ」
哲学書が難しいのは“当たり前”を問いなおしているから
みなさんは“哲学”に対して、どんなイメージを持っていますか?
なかには「哲学に興味はあるけれど、哲学書を読むのは難しそう」や「何冊か哲学書を読んでみたけど、なにを言っているのかわからず挫折した」という印象を持っている人もいるのではないでしょうか。
これは至極真っ当な意見だと思います。
確かに、他の学問に比べて哲学には、理解しづらい部分、難解な言葉が多いです。
ではなぜ哲学が難解な表現や言葉を用いるのか?
それは哲学が“当たり前を問いなおす学問”だからです。
本の表紙を見れば、本の裏側があることを無意識のうちに信じています。
でも、もしかしたら表紙の反対側には“虚無”が広がっているかもしれない。夜空にのぼる月だって、私たちが見ている側面の反対側が存在するかは、実際に行ってみないとわからないですよね。
なのに、私たちは見えている物には、必ず反対側が存在すると信じている。表があるものには裏があって“当たり前”だと思い込んでいるので、疑う余地はないと決めてつけているんです。
しかし哲学はそういった“当たり前”を問いなおします。そのとき私たちが普段使っている語彙だけでは表現が難しい。そこで哲学書は日常で使う言葉とは違う語彙や表現を使っています。
なので、哲学書の言っていることが理解できないからと諦めるのではなく、哲学書の内容がわかりづらいのは、私たちの“当たり前”を問いなおしているからだと、十分に理解する必要があるんです。
逆に言えば、難しい言葉で説明をしないと伝わらないくらい、哲学の世界で議論されている問題は、私たちの日常生活に根ざしているとも言えます。
挫折せずに哲学を学ぶコツ
ここで哲学書を読むのが苦手な人のために、哲学書を読みこなすコツを2つ紹介します。
まず1つ目が、本の内容を身近なものに落とし込んで考えてみることです。
前述した“本の表紙に裏側が存在するか”のように、哲学は事物の存在や人間の認識などについての難しい議論を、私たちの身の回りにあるものに落とし込んで説明することができます。
分厚い本の中で長々と説明されていることでも、実は著者が言っていることの本質さえ理解すれば、身近なことで説明がつくことだったりする。
でも、そのためには“思考のトレーニング”が必要です。難しい言葉で書かれていることでも、最終的には私たちの日常生活に密接に関わっているはずなので、どんなものに置き換えられるか自分なりに考えてみてください。
2つ目は、最初から最後まで“読み通すこと”にこだわらないことです。
小説などのストーリーがあるものは、最後まで読まないとオチがわかりませんよね。でも、哲学書は必ずしもすべてを読破しないと、内容を理解できないものではありません。
特に英米系の哲学書は“論文集”みたいなものが多いので、最初から最後まで読むことが重要ではないことがよくあります。
逆に、読んでいる過程のなかで「この哲学者が言っていることは間違っているのではないか」とか、「最初と最後で言っていることが噛み合っていない」など、疑問を感じながら読み進めることが大切だったりもします。
大学で哲学を専門的に勉強すると、短い文章を何週間にもわたって読み込んだり、数行の言葉について長々と議論したりすることが多々あります。でも、それが哲学を学ぶうえで、すごく重要な思考のトレーニングになるんです。
したがって、難しい哲学書に書いてあることをすべて理解する必要はないので、自分のペースで気になるところをじっくりと読んでみてください。きっと哲学を学ぶことがより楽しくなると思います。(文・坂本遼佑)
(本稿は動画「なぜ今、哲学ブーム?生きづらさの根源に哲学で迫る! 」を編集)