愛し合い、生涯を共にするパートナーとして誓い合いスタートした結婚生活。しかし仕事や家事、育児に追われる中、気がつけば壁があると感じたことはないだろうか。そんな夫婦の危機をどうすれば乗り越えられるのか、“リカバリー力”に焦点を当てた本連載。

 「不倫」について後半は、不倫された側に刻まれた、深い心の傷について。大きく下がってしまった自己肯定感を回復させるには? 引き続き、夫婦カウンセラーの安東美紀子さんにお話伺います。

取材・文=吉田彰子

安東美紀子さん
心理カウンセラー

夫の秀海さん(第4回「夫婦カウンセリング編」※リンク貼ります)とともに、カウンセリングオフィス『Life Design Labo』※リンク貼りますhttp://life-design-labo.com)を開設。浮気・不倫などの問題を越えての夫婦関係の構築や、セックスレス、モラルハラスメントなど、夫婦間のセンシティブなテーマに精通し、行動レベルでのアドバイスを得意とする。

 

自己肯定感が下がる不倫された側

――パートナーの不倫は、夫婦関係の破綻を招くだけでなく、不倫をされた側に大きな精神的ダメージを与える。たくさんの夫婦をカウンセリングしてきた安東さんによると、それは自己肯定感をも傷つけられてしまうそう。

安東美紀子さん(以下、敬称略):パートナーの不貞行為によって「自信」を傷つけられると、「自分が魅力的ではないからだ」「自分がパートナーに冷たくしたからだ」「自分にないものが不倫相手にあったからではないか」と、ひたすら自分を責め、自己肯定感が大きく下がった状態になることがあります

※写真はイメージです Leonardo Laschera / EyeEm/ GettyImages

――このショック状態にあると、たいがい健全な判断はできない、と安東さん。もう一度やり直したいのか、不倫をするような人はもう結構となるのか、この状況では決めるのは難しいそう。

安東:「私なんて愛されるはずがない」と思っているままで、自信つけてというのは難しいですよね。「私を差し置いて浮気するなんておかしいんじゃない?」というくらい自信を取り戻すことがまずは第一だと思います。

――パートナーの不倫によって大きく下げられた自己肯定感。「あなたが私を傷つけたんだから、あなたが私を回復させて」と相手にケアを委ねたい思いもありそうだが、これについて「自分で作った器(うつわ)の分しか、相手は愛情を注げない」と安東さん。

安東:「私はこれだけ愛されるのにふさわしい」という大きな器があったとしたら、そこに相手が愛情を注ぐほど貯金になっていきます。これは共同作業ではあるのですが、「私は受け取らないぞ」と決めていたなら、どんなに注いでも流れていくだけなんです。

――不倫のダメージによって割れてしまった自己肯定感という名の器を再び作り直すことは、二人の関係修復よりも大事なのでは、と続ける。

安東:そういう意味では、再構築だけが選択肢ではないと考えています。再構築が苦難に満ちた茨の道なのであれば、別離の道もあるのではないでしょうか。「この人しかいないと思っているのに裏切られた」と思うと逃げ道がなくなるけれど、「私はどの道に進んでも幸せになれるし、一人でも生きていける」と思えることの方が大事なのでは。

――そのためには、何よりも自分の体を労わり、ていねいに扱うことが大事だと安東さん。

安東:自分の機嫌を自分でとることから少しずつ始めて、自分の魅力を自分で見直していくこと。カウンセリングでは、ご自身の親子関係やこれまでの恋愛関係含め、傷となっている部分や、自分の魅力に対する誤解がないかを心理ワーク等を通して見ていくことがあります。

育児不参加の怒りと、不倫の傷の違い

――「夫婦のリカバリー法 第4回」では、産後クライシスによる夫婦間のわだかまりが大きく影響している話を聞いた。夫による育児不参加や無理解は、「不倫」の激痛と比べると鈍痛のように思えるが、心の傷として違いはあるのだろうか?

安東:「不倫だけはどうしても許せない」「ワンオペが苦じゃない」という個人の価値観だったり、不倫の場合は不倫相手の事情や、関係の度合い、期間などケースによってだいぶ変わってきますが、産後クライシスとの大きな違いは内省的になってしまうことだと思います。

※写真はイメージです Maria Korneeva/Moment/GettyImages

――私になにか足りなかったのか、私たち夫婦関係の何が欠けて浮気に至ったのかと、自省的になることもあり、それはやがて込み入ったわだかまりになってしまうそう。

安東:とはいえ、心の傷としての違いはなく、どちらも傷ついたときの感情がそのまま残っている状態です。そこが解消されず、ひどい場合にはもっと強化されてしまうんです。

――不倫の相談を聞いていくうちに、「あの産後に……」と夫婦問題の火種が産後に見つかることは少なくないそう。

安東:不倫の要因ってなんだろう?と掘り下げて聞いていくと、「産後、自分にアテンションがなかった」「承認されなかった」「冷たくされていた」「子供のことばっかりだった」というのが多く理由に挙げられることが本当に多くあるんです。

不倫の要因、どこまで掘り下げるべき?

――何か失敗が起きたとき、人は同じような失敗をしないように原因を究明することをする。これは不倫においても必要なプロセスなのだろうか?

安東:「不倫する側の性欲と誠実さのバランス」という問題もありますし、「関係性にどれほどのダメージを与えるものなのか、全く想像ができていなかった」ということもありますが、まずは夫婦にとって、それぞれの深層心理でどこかヘルプの声を上げていなかったか、詳しく見ていく作業は未来を構築する上でも重要です。

――不倫をされた側としては、パートナーが不倫に至ってしまった経緯や詳細を知っておきたいと思う気持ちも芽生えるであろう。しかしそこは、カウンセラーにお任せした方がいいと、安東さん。

安東:不倫の詳細についてですが、ほとんどのケースで、知りたい欲求をみなさんお持ちです。とは言え、すべての出来事や気持ちの動きを知ったらラクになれるわけではなく、ある一定ラインを越えたらあとは知っても大概苦しいだけ

 「不倫した時パートナーはどんな心理状態だったのか」については、今後同じことが起きないように向き合っておくことは有効だと思うのですが、カウンセラーに任せてしまったほうが楽なプロセスかと思います。
 そこを突き詰めるのではなく、その時の自分たちの関係性を振り返って、良好な関係でも不倫をしたのか、何か不足感があったのか、そこに向き合うことが重要です。

夫婦が再構築していくには何が必要?

※写真はイメージです Peter Cade/Stone/GettyImages

――不倫によって大きく傷ついてしまった夫婦。もう一度、関係を再構築していこうとしたとき、夫婦にはどんなことが必要となるのだろうか?

安東:一度傷つけた相手と向き合うということは、その傷を超えるぐらい深い関わりがないと、やはり超えられないところがあると思います。ですので、相手にコミットメント(腹決め)できるくらい愛情が深いのか、大切に思えるのか。その決心が必要になると思います。

――「コミットメント」。それは何かの条件が整うかどうかではなく、本当に「決める」だけ。とは言え、その「決める」ことほど難しいものはない、と安東さん。

安東:不倫が発覚した直後に「さあ、どうするか決めましょう!」という言葉ほど辛いものはありませんよね。決められるまで、まずは回復しましょう。そして色々やってきたけど、やり直そうかずっと迷っているのであれば、できることまでやりきましょう、とお伝えしています。

――「できることはやる」これも、気持ちの面で大きく心の支えとなるそう。

安東:喧嘩しないように」「これは言わないように」など、表面的なことだけしかしていないと、結局土台がグラグラなまま。土台ができていないと建物が立ちにくいように、再構築も難しいです。だからこそ、コミットメント、そしてできることをやりきること。この2つが再構築に不可欠となるのではないでしょうか。

――不倫を超えて夫婦が再び向き合うとき、ある種、決意ともなる「コミットメント」が必要と安東さん。そこには「相手を許す」という意味も含まれるのだろうか。

安東:「本当に許せたか」というのはとても哲学的な問だと思います。正直みなさん、何度も何度もこの痛みと向き合っているように思います。でも、それでもこの夫婦関係を選択すると決めて「できることはやっている」と思える方は、再構築というより、新しい素敵な夫婦関係を築いていかれています

――安東さんが言うように、もちろん再構築だけが道ではない。しかし「雨降って地固まる」という言葉の通り、不倫というハードな傷を乗り越え、新たな関係性を作るきっかけになれたら……夫婦はより固い絆で結ばれることができるのかもしれない。

今回のカウンセリングの解説や処方箋も紹介される「夫は、妻は、わかってない。」発売。

夫婦カウンセラー・安東秀海によるQ&A連載