授業でパソコンやタブレットを使用するのも当たり前になってきた。機械が苦手で敬遠していては、学校生活にも支障が出てしまう時代だ。日々進化するテクノロジーについていくためにも、理系への苦手意識を持たない子どもに育ってほしい。理科や算数は難しいという先入観を持たせないため、親はどう接すればいいのか。サイエンスプロデューサーとして、理科を楽しく伝える米村でんじろうさんに、理科好きになる秘訣をうかがった。

文=津島千佳 写真=小嶋淑子

よねむら・でんじろう。1955年生まれ、千葉県出身。 東京学芸大学大学院理科教育専攻科修了後、自由学園講師、都立高校教諭を勤める。広く科学の楽しさを伝える仕事を目指し、独立。1998年「米村でんじろうサイエンスプロダクション」を設立。サイエンスプロデューサーとして科学実験の企画・開発、サイエンスショー・実験教室・各種TV番組・雑誌などの企画・監修・出演など、幅広い媒体で科学の魅力を伝えている。 http://www.denjiro.co.jp/

実験を通じて好奇心を刺激し、理科に興味を持たせる

 でんじろうさんのサイエンスショーに訪れるお客さんの多数は、理科に親しみ始めた小学校低学年のお子さんや保護者。そのため、理科の知識がなくとも楽しめるプログラムを心がけている。実験をわかりやすくショーアップしているからか、子どもたちは好奇心に満ちた目をしているのが印象的だ。

「大多数は理科の専門家ではありません。理科ってなんか楽しいと思ってもらいたいから、僕は実験を通して理屈を見せることで子どもたちの興味をくすぐっているのです」

「人間には食欲と同じように、本来知的好奇心がすごくある」と話すでんじろうさん。電気の歴史を例に取りながら、生活のためよりも好奇心を刺激することが理科に限らず物事の発展には大切だと力説する。

「今や電気はライフラインの一つですが、その発展の歴史は生活の役に立つからではなく、単純に電気を不思議に思い、好奇心を掻き立てられた先人の気持ちの方が大きかったからです。

 平賀源内のエレキテルだって、発生した電気を見世物にして、それが面白いというだけで、もともとはなんの役にもたっていなかったんです。利便性ではなく、人々の興味をそそったから理科は発達したわけです」

コップに静電気を貯めるでんじろうさん。みんなで手を繋ぎ、静電気を流してその衝撃を感じる大人気の実験。

 しかし今、理科を取り巻く環境は、興味よりも利便性を優先する声に溢れている。

「理科の発展の話になると病気は治せるのか、現実的に役立つのか、安全かといった、現実に即した話になりがちです。もちろん必要なことではありますが、理科に限らず、知的好奇心が刺激されないと、ものごとは楽しめません」

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子どもの理解レベルに合った説明で「知ることは楽しい」気持ちを育む

 ふと「子どもから『空が青いのはなんで?』と質問があったら、なんと答えますか?」とでんじろうさんから質問をされた。一般的には「太陽の光は白色に見えるが、実際は七色。地球には空気があり、空気が七色の中から青色だけ散乱させる。だから空が青く見える」という説明になるだろう。

「質問した子どもが太陽光線にはいろんな色が混じっていることを理解していれば、その説明でも理解できますが、小学生ならまだわからないでしょう。ならば詳細な回答よりも、相手のレベルに合わせた説明をして、理解してもらうことが先です」

 でんじろうさんが、理科に興味を持ち始めた子どもにする答えはこうだ。

「空気は地上から10km以上上空まであります。実は空気には青い色がついています。だけど色が薄いから、あなたの周りの空気では色は見えません。でも空には遠くまで空気があるので、わずかな色でも層が重なってはっきりと色が見えます。

 だから青は空気の色。入浴剤も薄い色がつくよね。湯船では色がついているけど、そこからコップ一杯分すくうと色は見えないでしょう? それと同じだよ、と説明した方がわかりやすいでしょう」

 もう一つ、子どもからよく尋ねられる「なぜ虹はできるの?」に対しても同様だ。

「虹はこちらが晴れていて、向こうはまだ雨が降っている時に見えます。虹が見えるところは雨粒が残っていてスクリーンになっています。

 太陽が映写機で、向こうは雨粒のスクリーン。雨粒のスクリーンに太陽光が反射するから虹が見えています。だから虹は必ず太陽の反対側に出ます。本当は虹の形は丸だけど、地面には雨粒がないから虹は丸く見えません」

 理科が苦手な大人が聞いてもわかりやすい説明だ。想像力が豊かな子どもなら、頭の中に説明通りの光景を思い浮かべることができるだろう。

理科嫌いを生む詰め込み授業の弊害

 

 この簡潔な説明すると、正しい情報を過不足なく子どもに伝えてほしいと意見する大人が現れるという。頭でっかちの人が増えたのは、詰め込み授業の弊害だとでんじろうさんは感じている。

「入試のためとはいえ、理科に限らず各教科で教わる量も多いですし、個人的には細かく教えすぎとも思っています。板書を書き写し、とにかく理屈だけを詰め込んでいけば試験には対応できます。でもそれでは生徒の容量がいっぱいになって、理科嫌いになってしまう。マイナスですよね」

 理論を聞くだけの授業と、実験などで「どうなるんだろう?」と頭を働かせながら楽しく取り組んだ授業。どちらが印象に残るかは一目瞭然だ。

 前編で、でんじろうさんが高校の物理教師時代、授業で実験を取り入れたことで生徒が理科に関心を持つようになったと語ったとおり、おもしろい記憶があれば、理科に対してポジティブな印象を持てる。

「みなさん詳しい説明をしたがりますが、必要なのは相手の理解レベルに合わせた説明。相手に合った説明をしないと、何も受け取ってくれません。

 だから質問の本質を捉えた答えならば、簡単な答えでもいいじゃないですか。もう少し知りたがったら、その時に次のステップに進めばいい。最初から詳しく教えようとするから相手はチンプンカンプンになって、理科に苦手意識を持つのです」

 正確な説明よりも大事なのは、自分でやってみることだという。

「自分で気づいて発見した体験は、人から教えられたこととまったく違う。自分でやってみて、『あぁこうなってるんだ、面白い!』と思った体験をしておくと、勉強嫌いにならずに大人になっていくんです。そうすると、その人が子どもを育てるときにも勉強を楽しいものとして教えられますよね」

理科に親しめば、生活が豊かになる

空気砲を撃つでんじろうさん。人を楽しませたいというサービス精神旺盛な人柄が滲み出る。

 だからこそ、実験やショーを通して、科学の不思議や楽しさを伝えてきた。さらに、理科が好きになると生活が豊かにもなるとでんじろうさんは信じている。

「夜空を見上げてただの星だと思うより、具体的に星座の名前がわかると楽しいし、生活が豊かになりますよね。僕は理科も音楽のように生活を豊かにするもの、楽しいものだと思っているんです」

 理科に親しむことは視点を増やすことになり、視野が広がることでもある。子どもの選択肢を狭めないためにも、子どものワクワクを引き出し、自分で発見する喜びを知ってもらうアプローチに努めたい。

 著名な教育法はたくさんあるけれど、理想通りにはいかないのが子育て。だからこそ聞きたい、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩パパママたちの“本当のところ”。