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 コロナ禍をきっかけに、免疫力や環境問題について考えるようになり、以前から興味があったオーガニックを本格的に生活に取り入れていきたいと思っているライター齊藤。

 エビデンスのあるオーガニック情報を発信している専門家のレムケなつこさんに学ぶ講座第4回のテーマは、一般的に高いとされているオーガニックの価格づけについて。オーガニックを取り入れてみようと思っている人が必ずぶつかるこの問題について、レムケさんに解説していただきました。

レムケなつこ
オーガニック専門家

ドイツ法人オーガニックビジネス研究所代表。20代の頃、JICAで途上国の生産者支援に関わった経緯から、オーガニックに目覚める。慶應義塾大学経済学部を卒業後、オーガニックの最先端であるドイツの大学院と食品研究所にて研究開発。2019年にはオーガニックセクターの国連IFOAM欧州本部リーダーシップ研修に日本人初で選抜。オーガニックスクールの運営、企業研修、講演、執筆などで活躍する傍ら、自身でもYouTubeやInstagramなどでオーガニック情報を発信している。


 

オーガニックの価格にはリスク回避のコストが含まれている

 オーガニックというと、高くて毎日生活に取り入れるなんて無理、結局は意識が高い人や富裕層だけのものでしょという意見もよく聞きます。若干面倒くさいイメージを持っている人もいるのではないでしょうか?

 しかし第二回で教えていただいた通り、オーガニックの価格設定は決して高くないというレムケさん。

「世の中にある商品は、それを作る際に何かを犠牲にしているっていうことがあるんです。その犠牲にしているものが、人権だったり環境だったり健康だったりするんですけど、その犠牲や代償をお金に置き換えるとどのくらいになるかが研究されていて、“コスト”と表しています」

 商品の値札に含まれない、隠された4つのコストを詳しく教えてもらった。

①健康コスト

「オーガニックではない農薬や食品添加物が過剰に使用された商品を食べることによって、今は元気でも数年後・数十年後に例えばガンやパーキンソン病などになるリスクがあります。子どもはより農薬や添加物の影響を受けやすく、精神障害や発達障害、IQ低下、ADHDなどの病気にかかりやすくなるという研究結果もあります。

 EUの研究によると、子どもたちのIQ低下によってEUが背負うコストは、年間約15兆円と換算されているんです。治療や薬などの医療費に加え、子どもは次世代の国を支える資産ですから、失われるであろう生産力も含まれています。オーガニック食品の場合、リスクの高い農薬や食品添加物への曝露は極めて低いと報告されていますので、将来の医療費が安く抑えられる可能性があります。

 オーガニックではない一般食品が安い理由の1つは、健康維持が難しくなるかもしれないリスクやそうなった際に支払わないといけない治療費といった健康コストを消費者に押し付けていることにあるんです。EUでは、上記のコスト試算をもとに、その分をオーガニック農業の推進に当てるべきだと論理的に考える人が多く、それが政策にも反映されてきました。」

②環境コスト

「農薬や化学肥料を大量に使用されたものは、その生産製造過程で土壌や水を汚染し、同時に有限の土や水を枯渇させています。汚染された自然環境では生物が生きていくのが難しく、生物多様性の喪失や生き物の大量死につながっています。

 また、大規模な畜産のエサを栽培する農地を作るために熱帯雨林などの森林伐採も世界中で行われています。森林喪失によってかつては土壌に固定されていた炭素が大気に拡散され、地球温暖化が進み、同時に生き物が絶滅に追いやられているという状況です。

 自然は役に立つから人類に使用されていますが、値札が付いているものではありません。でも実際には後々誰かが支払わねばならないコストがかかっているんです。例えば汚染した水は誰が浄化するんでしょうか? それが行政だとしたら国民が支払う税金によって支払われる。つまり、汚染した張本人ではなく、市民がコストを背負っているということになります。」
 

③社会的コスト

「実は世界には、自分の命を犠牲にして他人のために商品を作っている、あるいは作らされている人たちがたくさんいます。例えばドイツでは、オーガニックではない一般的なお肉がとても安く売られています。その肉は外国人労働者が劣悪な環境で働かされているから安くできているということが、コロナ禍に食肉処理場で感染者が出たことで発覚しました。

 また日本だと、海外産の魚介類が安く手に入りますよね。国際的な価格競争率をつけるために、東南アジアの一部の組織で行われてきたのが、児童労働や人身売買、監禁、暴力、脅迫といった強制労働や搾取の下に漁業を行うというものなんです。いわゆる現代奴隷と呼ばれている方々です。誰かの苦しみの上に生産されるコストは、一般的な商品には含まれていないことが多いんです」

④次世代コスト

「次世代コストは、①〜③のすべてのコストが次世代にとってさらに大きなコストとなって受け継がれてしまうこと。現代のコストを私たちの子どもやその子どもたちに、すべての費用を押し付けていくのはあまりにも不公平だと思いませんか」

オーガニック製品をもっと安く手に入れる6つの方法

 私たちが意識せずに買っていたものには、たくさんのコストが含まれていないことがわかりました。とはいえ、例えばスーパーマーケットで3本100円で売られている人参と、1本200円の有機人参では、なかなかオーガニックに手が出しづらいのも事実。そこでレムケさんに、少しでも安く手に入れられる方法を教えていただきました。

①有機農家さんから直接購入する

「いわゆる直販であれば、仲介を通さないので安く手に入れられる可能性が高くなります。特に旬で鮮度の高いものは栄養価がより高く、味がいいものが多いです。低予算という観点では、有機認証を取っていない農家さんを選ぶというのも手。実は有機認証を取るには結構お金がかかるんです。そのため、有機農法を行っているにもかかわらず、認証をあえて取っていない農家さんも多くいます。家の近くで有機農法や自然農法を行なっている方を探してみてください。『食べチョク』などのサービスで有機農家さんを探すのもいいと思います」

②プライベートブランドを購入する

「大手のスーパーマーケットなどで見かける、プライベートブランドのものは比較的手頃な値段であることが多いです。例えばイオンならトップバリューグリーンアイオーガニック、首都圏や近畿地方で展開しているライフではライフナチュラルというオーガニックのプライベートブランドがあります。お近くのスーパーをチェックしてみてくださいね」

③ネットショップを調べる

「近年オーガニック商品がネットでも手に入る時代になりました。それでも欲しい商品がなくて購入できないこともありますよね。そんな時は個人輸入することも気軽に取り入れてみてはいかがでしょうか。最近はアメリカの大手通販会社iHerbなど、海外オーガニック商品をリーズナブルなお値段で売っているショップがいくつもあります」

④安い時にまとめ買いする

「行きつけのスーパーマーケットやお店にセール品があったら、まとめ買いすることをお勧めします。特に良いのは、洗剤やコスメなど消費期限がある程度長い日用品。ものによっては生鮮食品でも冷蔵、冷凍、天日干し、発酵など保存方法に工夫を凝らすことで、数カ月から数年保存期間を長くできるものもあります」

⑤未加工の冷凍食品を買う

「生鮮食品よりも冷凍のほうが安い時があります。冷凍すると栄養価が下がるんじゃないかと心配する方もいますが、現在の冷凍技術は非常に高いので、輸送時間が長くなるような生鮮食品と比べたら、冷凍食品の方が栄養価が高くなるケースもあると言われています。冷凍食品もうまく活用してみてください」

⑥行きつけのお店で有機食品を入れてとお願いする

「近所のお店で取り扱ってはいるものの、商品の品数が少ないということでしたら、具体的に“この商品のオーガニックのものを取り扱ってください”と依頼してみることをおすすめします。経営者の方も企業努力を日頃から行なっているので、顧客がどのような商品を欲しがっているのか知りたいはずです。受け身で待っているだけでなく、消費者としてのニーズをきちんと伝えることも大事です」

「オーガニック=高い」は間違いだった

 資本主義における競争社会のなか、なんでもかんでも安く手に入れることが当たり前となっている現代。私はこれまで、表向きの価格だけを見て「オーガニックって高い!」と思っていましたが、価格付けにはそれなりの理由が存在し、安いからラッキーではなく、なぜ安いのか?と考えることも大事だとわかりました。

 全4回にわたる企画を通してたくさんの学びがあり、やはりオーガニックを積極的に生活に取り入れよう!と決意。まずはレムケさんが教えてくれた、「有機農家さんから直接購入する」を実践中です。これまでスーパーマーケットで購入していた野菜も、近所の方から直接購入することで、顔も人柄もわかり、有機野菜を買う以上の価値を感じています。しかもお値段はすべて100円。調べること、知ることも重要ですが、行動してみるとわかることもあるなと実感。自分のために、社会のために、そして地球のため、未来のために自分ができることから行動して行こうと思いました。

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