Andriy Onufriyenko/Moment/gettyimages

 コロナ禍をきっかけに、免疫力や環境問題について考えるようになり、以前から興味があったオーガニックを本格的に生活に取り入れていきたいと思っているライター齊藤。

 エビデンスのあるオーガニック情報を発信している専門家のレムケなつこさんに学ぶ講座第3回のテーマは、今話題のSDGsとの意外な関係に迫ります。 

文=齊藤美穂子

レムケなつこ
オーガニック専門家

ドイツ法人オーガニックビジネス研究所代表。20代の頃、JICAで途上国の生産者支援に関わった経緯から、オーガニックに目覚める。慶應義塾大学経済学部を卒業後、オーガニックの最先端であるドイツの大学院と食品研究所にて研究開発。2019年にはオーガニックセクターの国連IFOAM欧州本部リーダーシップ研修に日本人初で選抜。オーガニックスクールの運営、企業研修、講演、執筆などで活躍する傍ら、自身でもYouTubeやInstagramなどでオーガニック情報を発信している。

 

そもそもSDGsとは?

 毎日あらゆる場所で目にするようになった、今話題のSDGs。私のまわりでも、コロナ禍のステイホーム中に地球環境を考える人が増えたように感じます。そもそもSDGsとはどんなものかというと、

 
 SDGsとは、2015年9月にニューヨーク国連本部で行われた国際サミットで決まった、持続可能でよりよい世界を目指す国際目標のこと。17の目標と169のターゲットから構成され、すべての国連加盟国が2030年までに目標を達成することを目指しています。

ということ。これがオーガニックとどう関係するのでしょうか?

 「国際機関や世界の著名な科学者たちは、“食”こそがSDGsの中心のテーマであると主張しています。つまり私たちの食のあり方を変えれば、世界が抱える問題を解決しうるかもしれないのです。食べ物を変えるだけで世界がそんなに動くのか?と疑問を持つ方もいるでしょう。でも、私たちにとって身近な食はさまざまな社会・環境問題と結びついてるんです。オーガニック食が浸透すれば、それらの問題を解決できるというエビデンスも出てきています」

なぜ「食」がSDGs中心のテーマとなるのか?

 SDGsの17の目標は、人から環境までさまざまな内容が含まれていますが、実際に「食」がどのように影響しているのか、代表的な4つの例をエビデンスとともに教えていただきました。

①現代農業が気候変動を加速させている(SDGs目標13)

「ここ100年くらいで出来上がった現代の食の生産スタイルは、気候変動や土壌汚染、森林破壊など、数多くの環境問題の要因となっています。イギリスオックスフォード大学の研究者によると、農林水産業が原因で排出される温室効果ガスは世界全体の1/4以上、そのうち80%以上が農地などを開拓するための森林伐採に原因があると報告しています。また、かつて土壌に貯蔵されていた炭素も、人類の食糧生産のための農地開発が進んだことで、50%〜70%が大気中に放出されたと推定されいます。これが地球温暖化などの気候変動を加速させていると言われています」

②合成農薬・化学肥料がもたらす陸と海の生物の大量死(SDGs目標14&15)

「世界の食料の9割は、蜂などの飛行昆虫が受粉を行うことで生産されています。しかし、近年全世界でこれら昆虫の大量死や失踪が報告されているんです。

 イギリスのサセックス大学やスティアリング大学の研究者たちが共同で行った研究によると、蜂や蝶などの昆虫がここ10〜20年の間に、最大約60%以上減少したことが明らかになっています。その主な原因は、ネオニコチノイド系合成農薬。日本でもお米などに使用されている農薬です。農薬の大量使用により“100年後には世界のすべての昆虫が消えているかもしれない”と推測する学者もいます。

 生物の大量死は陸の生き物だけに限ったことではなく、水辺でも多くの生き物が世界各国で死に至っています。原因となっているのは、近代農業で使用される大量の化学肥料だと指摘されています。土壌から流れ出る過剰な栄養分により藻の大量発生が促されると、藻が死んで分解する際に水中の酸素が大量に消費されます。結果酸欠状態になり、水中の魚貝類などの大量死につながっているのです」

③近代農業による水資源の汚染と枯渇(SDGs目標3&6)

「国連FAOは水質汚染の主たる原因は農業であると指摘しています。農薬や肥料の使用に加え、畜産や養殖で大量に使用される抗生物質なども汚染の根源となっていると言われています。国連UNICEFによると、現在世界には安全な飲み水を入手できない人が22億人いると推定され、不衛生な水しか得られないために年間約180万人の子どもたちが亡くなっているほど水不足は深刻な問題です。しかし、飲み水となる塩分を含まない淡水の70%がじつは農業で使用されているんです」

④農村は貧困と社会的不平等の根源(SDGs目標4&10&16)

「農林水産業には、社会的・経済的弱者と言われる人が多数従事しています。発展途上国における農業就業者の2/3は女性なんですが、その数は年々増加しているんです。彼女たちは農業機械化や効率の過程で疎外されて経済的機会を失ってしまい、意思決定権を持たず社会的地位が低いといった、ジェンダー格差が生まれてしまっています。

 女性だけでなく、国連ILOによれば、農林水産業には多くの子供も従事していて、児童労働の70%が集中しています。子どもたちは教育の機会を失い、生涯にわたり搾取、虐待、差別を受けやすく、大人になっても貧困から抜けられず、さらにその子供たちも貧困になるという負の連鎖が生まれてしまっているんです」

オーガニックこそSDGs全項目を達成する手段

 先述したのはほんの一例にすぎないというレムケさん。国連は世界の食のシステムを抜本的に変革するには「持続可能な農業」を推進しているといいます。持続可能な農業とは?

「世界にはさまざまな持続可能な農業スタイルが存在します。例えば、日本で有名な自然農法、他にもパーマカルチャー、 アグロフォレストリー、再生型農法など、人と自然が共存できる持続可能な循環型農業が世界で注目を浴びています。

 中でもとりわけ世界で市民権を得ているものが、まさに“有機農業”や“オーガニック”と呼ばれる農業スタイルなんです。そもそもオーガニックの発祥は、近代農業に反発する形のムーヴメントとして起こり、地球上のすべての生命が豊かで幸せになれる仕組みを市民が切望して誕生したものなんです。貧困削減、不平等是正、人権擁護、動物愛護、環境保護、生物多様性の保全、地球温暖化防止といった地球規模での社会課題の解決策であり、これこそまさにオーガニックがSDGsの全項目を達成するのに寄与すると考えられる所以となっているんです」

オーガニックでサステナブルな未来の実現は可能になる

 現代農業がいかに、地球規模で環境や社会問題を引き起こしているのかわかりました。しかしこれらは、今を変えれば解決するということにもつながります。プラスチックを使うのをやめる、マイボトルを持ちあるく、寄付をする、など個人レベルで気をつけていくこともSDGsの達成にとっては大事だけれど、もっと抜本的に世界を変えるには「食」のあり方を変える、つまりそれはオーガニックを選択して、オーガニックが当たり前である世界を目指すのがよいと感じました。

 最終回となる第4回は、そんなオーガニックを生活に取り入れやすくする方法についてご紹介します。