『戦国大変』(小社刊)著者・乃至政彦と、書籍の執筆のほか大河ドラマ『麒麟がくる』等に資料提供として参加した歴史研究家・小和田泰経が対談。前回に続き、大河ドラマでは描かれていない、今川義元と徳川家康の関係に光を当てる。人質として義元の下で過ごした幼少期と、家康が現代にも影響を与えた偉大な功績とは──。

文=シンクロナス編集部

前編はこちら👉今川義元はどんな人物? 大河ドラマ『どうする家康』を歴史家が読み解く!

小和田泰経(以下、小和田) 人質として今川義元の駿府にいたことに対して、家康はそれほど悪く思ってなかったのかもしれないですよね。その後、家康がのしあがっていく段階で重要だったのは、やはり“学問を身につけていたこと”が大きいと思います。

 何にも知らないで育ったのと、学問も身につけて育ったのは大違いなんで。幼少期に今川家の下で育てられたことは、結果論からすると家康にとって良かったのかもしれないですよね。

 

乃至政彦(以下、乃至) 駿府で育てられることは、当時としたら先進的な都市で育てられることですよね。ちゃんとした書籍も読める環境の中で、エリート教育を受けていた。

 それが後に、天下人となるぐらいのポテンシャルを備えるための、いい経験になったのかなと。

小和田 今でいえば、留学みたいなものですよね。行った先で先進の文化を身につけることができた。だからこそ、その後に秀吉も圧倒することができたし、天下人になれたんですよね。これで学問がなかったら、結局はそこまで行かなかったんじゃないですかね。

乃至 「義元の教育の賜物」みたいな考え方ができそうですね。

家康が作った江戸時代は、義元が考えていた未来図?

小和田 とはいえ戦国時代ですし、人質なのは間違いないのですが。(家康の)父である松平広忠が裏切ったら、家康は殺されてしまう。もしくは、殺すという圧力をかけているわけですよね。

 それが大河ドラマ『どうする家康』では、義元の王道として描かれているわけです。

 家康自身は、「軍事力が圧倒する社会ではダメだ」という考えのもと、江戸時代は軍事力によらず支配できる体制を目指していますので、そう考えると義元の考えていた世界が、家康によって花開いたとも言えると思います。

 だからこそ、儒教を取り入れているんです。儒教の本を幼少期から読んでいるから、それがもう身に沁みているわけですよね。

 

もしも家康が信長の人質であり続けたら……

乃至 もし家康が今川家のある駿府に置かれずに、織田家に一時的に捕らわれまま織田家で育てられていたら、こうはなっていないですよね。読む本もなさそうですしね。

小和田 こうはなっていないでしょうね。

乃至 「三河の荒武者がいるぞ」と言われて、万が一天下を取った日にはどうなっていたことかわからないですよね(笑)

 

小和田 秀吉のあとを受けて「再び朝鮮に行くぞ!」とか、していたかもしれないしね(笑)

 今でもそう、子どもの教育は大事じゃないですか。その大事な時期をやはり、駿府のような文化的なところで学んだことは大きいんじゃないかな。

 のちに駿府に隠居した時、本が好きだったので、日本で最初の活版印刷で本を出版しているわけじゃないですか。当時は本を作るとき筆で筆写していましたが、それを活版印刷にすることによって大量に本を出すことができて、普通の人でも本を読むことができるようになった。これが、江戸時代に日本人の識字率を高めたといえると思うんです。

 現代の日本がこれだけ発展しているのも、やはり学問のおかげですよね。資源がない国でも豊かになっているのは、学問の賜物だと思うんです。

 それをいち早く導入したのが家康だったことを考えると、日本の歴史にとって家康さんは欠かせないですが、その家康を人として一番大事な時期に育ててくれたのは義元だったのかな。

 『どうする家康』でも、家康に対して無下に扱っていないし、敬意を払っていますよね。厳しくはしていましたけれど。そのまま義元さんが生きていたらどうなったのかなぁと、想像は尽きないですけれどもね。

 

現代人が家康から学ぶべきことは多くある

乃至 今の日本は、活字が読みやすい環境にあり、S N Sなどのやり取りも活発ですけど、その識字率の高さのもとは江戸時代にあって、さらにその源流を辿ると、家康とその家康を育てた今川家があったのかな、と。

 そう考えると、家康が駿府で育ってくれてありがとうという気持ちになりますね。

小和田 そうだよね。今の日本があるのも、そういうおかげなんですよね。

乃至 そういうところも色々想像力が刺激される、第1話だったなと思います。

小和田 能や和歌、連歌、茶の湯なども学んでいたはずなんです。結局、戦国武将は武力だけ強かったら尊敬されるわけではないのでね。それこそ、文武両道じゃなきゃいけない。

 最終的に豊臣政権が崩壊したのは、やはり歴史に学んでなかった部分が多かったと思うんです。その点家康は、「吾妻鏡」を愛読していて、源頼朝を尊敬していたという記録があるので。本を読んでいたからこそ、あれだけ成功したわけですね。

 残念ながら現在の出版業界は大変に厳しく、本が売れなくなっているんですけど、もっと本を読んで勉強して、もっと自分を磨いてやっていけば、今は元気がないけれど挽回できるんじゃないかなと思うんです。

乃至 我々は読もうと思えば、いくらでも読める本がたくさんありますよね。だからみんな家康になろうと思えば、なれるのかなと。みんなが家康になれば、日本はより力を出せるのではと思います。

※この記事は2023年1月に収録した動画を記事化したものです。

この記事を動画で見る👉名君・今川義元が家康に与えた影響。「天下人」を育んだ今川家の思想とは?

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