昨年の5月までプレイヤーとして一線で活躍し続け(このときなんと49歳である)、同時に経営者としてもチームの先頭に立った折茂武彦。昨年10月に上梓し話題となった初の著者99%が後悔でも。には、バスケットボールから学んだこと、やんちゃすぎる半生、そして何より経営者として会社の立ち上げから現在に至るまでの壮絶な日々がある。

 今回はその「はじめに」を特別公開する。

変わるものと変わらないもの

 年齢を重ねるごとに知ることはたくさんある。それによって、人は大きく変わる。

 一方で、変わらない大事なものにも気づく。

 過去をどう捉えるべきか。例えばいま、充実した日々を送っていたとして、過去に対して後悔をすることはあるだろうか。過去があったからいまがある、と思う人のほうが多いのではないか、と思う。

 一方で、いまとてもつらい思いを抱いていたとして、過去に後悔の念を覚えていても、それを解決するために未来を待ち続けるのはもっとつらい。何か、手を打たねば、つらいいまは変わらないからだ。

 正解はわからない。

 ただ、もしそうだとすれば、「いま」にフォーカスし続けるしかないのではないか。

 わたしはいま、経営者をしている。

 レバンガ北海道という、その名のとおり北海道をホームタウンとするBリーグ——男子プロバスケットボールリーグに所属するチームの社長だ。2011年にチームを率いることになり現在にいたるまでジェットコースターのような日々を経験してきた。

 この本を書いている現在(2020年7月)も、新型コロナウイルスの感染拡大という未曽有の事態に直面し、経営の課題は山積だ。

 ただそれでも、未来に対して思い悩むことはそれほど多くはない。

 そもそもの性格もあるし、いまに必死だからだ。

 データや情報があふれる現代は、それを緻密に精査していけば、「そうなるであろう」可能性の高い未来を予測できるのかもしれない。

 ただし、それが本当にそうなるという保証まではしてくれない。

 もし想像もしないようなことが起きて、それが外れたとき、その未来にかけた人はどうやって自分に折り合いをつけるのだろうか。

 事実、想像もしないようなことは起こり得る。それをわたしは自分自身の人生で身をもって知った。

折茂武彦(おりも・たけひこ)B.LEAGUE(B1)レバンガ北海道の代表取締役社長。1993年にトヨタ自動車(現アルバルク東京)でキャリアをスタートし、2007年にレラカムイ北海道へ移籍、その後経営難によりチーム消滅。2011年にレバンガ北海道を創設し、選手兼代表を務める。2019−20シーズンで引退した。190センチ77キロ。(写真:AFLO)


 チームを率いる覚悟を決めた2011年に東日本大震災 27年続けた現役を引退しラストシーズンと宣言した——わたしはプロバスケットボール選手でもあった——2020年には新型コロナウイルスによるパンデミック。

 コントロールできない危機はいつだって、いきなりやってくる。

 それだけではない。

 バスケットボール選手として49歳までプレーすることも、リーグ通算10000得点という記録(※帰化選手が2名達成したのみ)を達成することも、北海道で最後を迎えることも想像すらしたことがなかった。

 ましてや経営者になることなんて……そこからとにかく頭を下げて「お金を貸してください」と歩き回る日々が来ることも、2億を超える借金をすることも、(寂しがり屋の自分が)誰にも会いたくないほどの苦しみを味わうことも。

 すべては「いま」にフォーカスをし続けて、現在がある。

 そして現在のわたしを客観的に見れば、その内面性すら大きく変わった。それこそがもっとも想像できなかったほどの変化。

 北海道に移籍してきたのは2007年のこと。当時、37歳。

 すでにベテランでバスケットボール選手として、14年の経験を積んでいた。その間、生活の拠点は東京。チームは日本を代表する企業・トヨタ自動車のバスケットボール部。いまもっとも人気のあるBリーグチームのひとつ、アルバルク東京の前身である。

 14年間、自分で言うのは憚られるが、日本バスケットボール界のトップを走り続けてきた。その自負もあった。

 一方で、人としては相当な「やんちゃ」でもあった。バスケットボールができればいい。チームが強くなればいい。他人は関係ない。朝までお酒を飲んだって結果さえ出せば、なんでもOK。

 それがいま、まったく違う思いを抱いている。過去の自分を恥じたくなるような、そんな思いを持ち、そして他人への感謝を忘れず、チームが勝つことを優先するようになった。その思いについてはこの本の中で触れていきたいが、大きなきっかけは北海道に来たことだった。

 ただ、冒頭の疑問に思い至る。

 過去をどう捉えるべきだろうか。恥じたくなる、と書いたけれど、そうでなければ良かったのか。それとも、あの経験があったからいま他人へ感謝できるわたしがいるのだろうか。

 答えはわからない。

 過去を否定したくはない、という思いがある。

 ただ、若い選手にあれだけのことを勧めるかといえば……「度は過ぎないように」とは言うだろう (つまり、わたしは度が過ぎていた)。

 結局、この答えがどうであれ、重要なことは「いま」にどれだけフォーカスできるかにかかっている。やっぱりここに行き着く。

折茂武彦・著「99%が後悔でも。」

 ずいぶんと変わったわたしではあるけれど変わらなかったこともある。

 そのひとつに「勝ちたい」「バスケットボール界を変えたい」という思いがある。これだけは北海道に来る前も、来てからも変わらない。

 この本では「いまにフォーカス」し続けたわたしが、どう変わり、どう変わらなかったかをストーリーの軸にしながら、「いま、信念としてもち続けていること」を綴っている。

 バスケットボール選手として27年。

 バスケットボール選手兼経営者として9年。

 ひとりの経営者として、1年目。

 あったことだけを振り返ると、よくもまあこんな人生を送ってきたものだな、と我ながら思う。

99%が後悔でも。折茂武彦・著より再構成)