起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちの連載「INDEPENDENT WOMAN!」。第8回は、自身もフリーランスとして様々な仕事を複業し、その経験からフリーランスの支援を行うプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会を立ち上げた平田麻莉さん。後編では協会を立ち上げの背景やフリーランスの醍醐味を語る。

文=吉田可奈 写真=小嶋淑子

平田麻莉 プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会代表
慶應義塾大学総合政策学部在学中の2004年にPR会社ビルコムの創業期に参画し、戦略的PR手法の体系化に尽力。その後大学院に進み、ビジネス・スクール委員長室で広報・国際連携を担いつつ、同大学大学院政策・メディア研究科博士課程で学生と職員の二足の草鞋を履く。出産を機に退学、専業主婦を体験。現在はフリーランスでPRプランニングや出版プロデュースを行う。2017年1月にプロボノの社会活動としてプロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会設立。https://www.freelance-jp.org/

協会立ち上げのきっかけは、仲間とのランチ会

「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」代表の平田麻莉さん。フリーランスのインフラとして保険や福利厚生制度、自己PRデータベース「フリーランスDB」などのサービスを提供するほか、政府と連携してフリーランス関連政策の検討や制度設計に協力している。

 いまや多くの会員を抱えるほど成長した協会だが、その一歩目のきっかけを聞くと、驚く答えが返ってきた。

「フリーランス仲間とランチをしているときのノリで作ったんです(笑)。経産省がフリーランスや副業の検討会を立ち上げたニュースについて話していたんですが、その会議に呼ばれているのは、クラウドソーシングの会社だったんですよね。

 でも、実際にフリーランスで活動している人でクラウドソーシングを使っている人は今でも15%しかいない。それぞれで課題も違いますし、そこだけの意見では不十分な気がしていたんです。

 でも、その時にフリーランスはみんなバラバラで働いているから、政府が話を聞きたくても誰に聞いたらいいかわからず、結局業者に聞くしかないんじゃないかという結論に至ったんです。それなら、“窓口、作っちゃおうか”って」

予想外の大きな期待の声に膨らむ責任感

 当時の協会のメンバーからも、「バーベキューの幹事くらいのテンションで協会立ち上げていますよね?」と言われるくらいカジュアルに始まったという「プロフェッショナル&パラレルキャリア・フリーランス協会」。しかし、実際に立ち上げた後に、大きな責任感がのしかかってきたと話す。

「一応PRのプロを名乗っている手前、気合いを入れて設立記者発表を開催したら、多数のメディアで取り上げていただけたんです。そのお陰で、設立後3日くらいで1500人のメルマガ登録があったんですよね。

 ただ、当時は何のサービスもなく、大風呂敷をひろげて、“こういうことをしたいです”と宣言をしただけだった。でも、メルマガの登録の備考欄に、みなさんがぎっしりと要望と“待っていました!”という言葉を書いていただいたのを見て、“これは頑張らなくちゃ”って思いました」

 勢いで立ち上げたとはいえ、無料では作れない。必要資金は多くの人たちに声をかけ、23社から支援金を集めた。

「設立前に、費用を集めるために賛助企業を募りました。当時は、2人目の子どもが待機児童だったため、抱っこ紐で抱っこをしたまま、いろんな企業を周ったんです。

 そこで法人会費を集め、運営をスタートし、半年後には個人会員を募集し、年会費を頂くことで団体を運営できるようになりました。それでも最初の1年は、私を含むほとんどのメンバーがプロボノだったんです。

 ただただ、善意で支えられている団体だったんですが、次第に会員が増え、私や理事以外のメンバーには2年目から段階的に報酬支払を始め、そして2021年の4月からは、私自身を含め、みんなに月額固定のお支払いをできるようになりました」

広報は自分にとって“作品”みたいなもの

 好きな仕事とはいえ、なかなか無報酬では働けないもの。事務局スタッフのモチベーションは一体どこからでてくるのだろうか。

「協会のビジョンや活動内容に共感してくれているというのは大前提でありますね。さらに、自分がフリーランスの労働環境に課題を感じていて、それを解決したいという気持ちもあるでしょうし、シンプルにみんなでワイワイやるのが楽しいと言ってくれるメンバーもいます。

 ここでの出会いがまた違う仕事に繋がっている光景もしょっちゅう見かけますし、楽しく、意味があることが出来ている実感があることが嬉しいんですよね」

 これは平田さんが仕事をするときの軸にも通じている。

「自己満足かもしれないですが、アーティストって、誰に頼まれなくても、路上で歌っていたり、絵を描いたりしていますよね。それは創作意欲があるからだと思うんです。

 私の創作意欲は広報であり、新しい価値観を世に提示すること、新しい文化やライフスタイルを作ること。それで社会がちょっとでもよくなったと思えることが、私にとっての作品なんです。

フリーランス協会では、フリーランスや副業という柔軟な働き方に光を当てて、会社に縛られる人生、会社に左右される人生を変えていきたいなと思っているんです。その“キャリア自律”という考え方を広めていきたいからこそ、誰にも頼まれていないのに勝手に広報をし続けています(笑)」

みんなのなかにある固定概念を壊していきたい

 広報を通して次々と常識を変えていくのは、平田さんの中に“ロック魂”ともいえる不屈のマインドがあるから。

「私、すごくあまのじゃくなんです。実は、高校生の頃から反逆児と呼ばれていたほど、ロックな性格なんです(笑)。校則が厳しい女子高に通い、“こうあるべき”という思想が強くて、すごくイヤだったんですよね。

 だからこそ、いまのフリーランスの働き方は、すごく気に入っています。もともと掛け持ち癖があるので、組織の枠に縛られず、いろんな仕事ができて、何も諦めなくていいというのはすごく私に合っているんですよね。

 それに、この世の中には正社員が一番安泰で幸せという固定概念があるけど、現実は全くそんなことなくなっていますよね。さらに子どもが生まれたらキャリアを諦めなくちゃいけないと思っている人たちもいますし。そういう人たちに、“そうじゃない生き方があるよ”って示したいんです」

 今後の悩みとして多くあげられる、50代、60代のフリーランスの働き方も、しっかりと考えている。

「フリーランスは生涯現役だと思われることが多いですが、それは幻想。体力面や、市場価値、発注者の年齢が下がると年上に頼みづらくなるなど、いろいろな問題があります。だからこそ協会では、会社員と同じく働き方に中立な社会保障を受けられるように行政に訴えかけています」

 

自己肯定感は、自分に合った場所に身を置くことでうまれるもの

 のびのびと、とても楽しそうに仕事について話す平田さん。そこには、たしかな自己肯定感の高さを感じる。その自信は、どこでつけていったのだろうか。

「自信がない人は、今いる場所や比較対象を間違えていると思うんです。どんな人でも、何かしら強みがあると思います。それをうまく発揮できるお仕事をしていればどんどん自信がつくし、結果が付いてくるんですが、否定ばかりされる環境にいると、自信って無くなっていくんですよね。

 もし、今会社員なら、自分が必要とされたり、喜ばれることを見つけ、副業でチャレンジしてみるのもありだと思います。副業をすることで本業のモチベーションが上がる人もたくさんいます。フィールドを変えて、視野を広げてみると大きな変化があると思いますよ」

失敗したくないという気持ちは、ほとんどない

 そんな彼女が大事にしていることは、“近い目標を立てる”ということ。

「人間って、欲深い生き物だからこそ、“何になりたい”、“これが欲しい”と言い出すときりがない。なので、毎日温かい布団で寝られて、3食ご飯が食べられたら、幸せという感覚で生きていると、それだけで満足度がすごく高くなるんです。

 そもそも、自分が仕事でこうなりたい、これをしたいということがあまりないんです。意外とリアクティブな人間なんですよね。

 もともと“人事尽くして天命を待つ”という言葉が大好きで、いつも誰かの相談を受けて答えているうちに、活動が広がってきました。取り組む対象はなんでも良くて、与えられた場所で咲くことを大事にしているので、あまり悩みもなく、自己肯定感が高いんだと思います(笑)。

 あとは、失敗したくないという気持ちは、ほとんどないですね。自分が失敗だと思えば失敗になりますが、時間をかければ、何かしらのどこかにはたどり着くと思っているので、たとえ方向転換したとしても、それは成功ってことで良いんじゃないでしょうか」

フリーランスは魂が自由だと思っている

 とてもポジティブに、楽しみながら仕事をしている平田さんが大事にしているのが、“なりたい姿”より“ありたい姿”。最後にフリーランスの良さを聞くと、こう答えてくれた。

「具体的にこうなりたいと決めると、現実とのギャップで悩むことが増える。それよりも、フレキシブルに自分を生きることで、より楽しい未来が待っている気がするんですよね。それに、フリーランスは魂が自由だと思っているんです。“この人たちと働きたい”、“これをやる意味がある”と信じられるものに力を注げるのは、フリーランスの良いところですよね」

平田麻莉さんてこんな人! ご本人のリアルに迫る一問一答

――仕事における座右の銘は?

人事を尽くして天命を待つ。

――耳を傾けてよかった、人からのアドバイスは?

ビルコムの上司に言っていただいた、「できない自分を認めよう」。

――仕事をする上で絶対に譲れないことは?

公正中立。

――大変な時に助けられたものや人は?

家族、友だち。

――自分の強みはなんだと思う?

幸せだと思えることが多いこと。小さなことに感謝できること。

――逆に直したいところはある?

文章や資料への細かいこだわり。

――独立・起業したことで犠牲にしたことはある?

ないですね。

――悩みの種は?

アラフォーになり体力が落ちてきたこと。

――ビジネスを始めたことで得た気づきは?

フリーランスは一人で仕事をするイメージがありますが、フリーだからこそ、様々な会社とお仕事ができて、仲間や拠り所がたくさんできることは意外でした。

――ストレス解消法は?

友だちとワイガヤすること。

――毎日必ずやることはある?

1日1回、子どもたちと大笑いすること。

――自分らしさを失わないために意識していることは?

自分にも他人にも正直であること。

――落ち込んでしまう時の対処法は?

あまり落ち込まないんですよね。でも、その時は家族や親友に話して解決します。

――独立・複業したい人になんていう?

自分の価値を信じてあげられるのは、自分だけなので、自信をもって、いろいろやってみて下さい。会社員の方は、まずは副業で始めてみることをオススメします。

 フリーランスにとっては、仕事を通じて身近な人の期待を超えて、信頼されることが何よりも大事なので、“まずはSNSのフォロワーを増やそう”とか“珍しい肩書を考えよう”と試行錯誤することに時間を使うのは、方向性が違うかもしれないなと思います。

――どんな世の中になって欲しい?

働き方の選択肢がたくさんあって、自分にあった働き方を選べる社会にしていきたいですね。

――あなたにとって成功とは?

昨日より、今日がちょっと良くなっていたら、成功ですかね。

独立前と独立後の環境や気持ちの変化をチャートで分析!

 

「会社員時代も楽しかったですが、時間の余裕は今の方がある様に思えます。収入は相対的には独立後の方が増えていますが、満足度でいえばどちらも100点。

 自己肯定感は高い方ですが、今に甘んじてはいけないという根拠のない不満足がつねにあるので、いつまでも100点はないかなと思います。

 さらに、会社員時代にくらべて、帰属する組織の数が何倍にもなっているので、人間関係の広さや多様性は広がりました。仕事として成果に自信があるものしか受けないので、プレッシャーは、ほとんどないです(笑)」