起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちのストーリーを追う連載「INDEPENDENT WOMEN!」。
 女性起業家応援プロジェクト「DISCOVER MYSELF」総合プロデューサー・井本達也さんにインタビューするスピンオフ企画。ビジネスをどう形づくっていくのか? 女性起業家が陥りやすい失敗とは? 成功する女性とは? プロジェクト参加者も「他のメンタリングとは全然違う」と絶賛する独自のメソッドを語っていただいた。 

文=小嶋多恵子

井本達也さん

公益財団法人大阪産業局フェロー
女性起業家応援プロジェクト総合プロデューサーsaturdays株式会社代表取締役

1977年生まれ。岡山県出身。株式会社ワールド、デザイン事務所、独立行政法人中小企業基盤整備機構等を経て、2017年フリーランスに。ファッション×デザイン×行政サービスの経験をベースに、大阪、東京、岡山、大分で事業プロデュースを中心に活動。2021年4月に“遊びをきっかけに躍動する経済を”をコンセプトにSaturdays株式会社を設立。その他、助産師のサポート事業を展開するWith Midwife Inc. ブランドマネージャー、別府市の地域活性化事業を展開するB-biz LINKアドバイザーなど多彩な肩書きを持ち、様々なフィールドで活躍の場を広げている。

 

お金をもらう方法はひとつではない

――起業するアイデアが見つかったら、次はそれをビジネスとして成り立たせるためにどうブラッシュアップすればいいのでしょうか?

井本:重要なのはブランディングと売り方です。

ブランディングと売り方 ©︎DISCOVER MYSELF

①ブランディング

 今の世の中、あらゆるモノやサービスはどこで買っても一緒じゃないですか。でも“あなたから買いたいわ”と思わせるストーリーがあれば、途端にオンリーワンになる。ブランドになる。そうなれば商品が高くても売れるし、そういうモノやサービスほど口コミで広がっていく傾向にあります。

 前編でお伝えした、事業内容とこれまでのキャリアが重なっていることが大切、というのも、ブランディングに関わってくるからです。重なってないと、その人が起業する強い動機にならない。

 たとえば、コンサルタントをやっていた人が急にラーメン屋を開いてもおいしそうじゃないですよね。でもその人が、「ラーメンが好きすぎて年300杯食べています」というストーリーがあり、そこに味やファッション性が加わってブランディングができたら最高の一杯になるかもしれない。そしてコンサルタントというキャリアを活かして、その最高の一杯を世界に拡大していけるかもしれない。そんなイメージが自然と湧いてくるのは、ブランディングできているからです。

「なぜ自分がやるのか」を突き詰め、情報を整理して、どうしたら伝わるか、魅力的かを考えることが重要です。

②売り方

 お金をもらう方法はひとつじゃない。コミュニティを作って課金してもらうのも手だし、売る相手もB to Bだったり、B to Cだったり、いろんな角度からキャッシュポイントをつくれる事業になるようアドバイスしています。

 逆に一個のモノやサービスで売り上げていくことにこだわるほうが危険。

 起業したいという人って、売り方がひとつしかないと思いがちなんですよ。それがビジネスを展開する上でいちばんダメなこと。多くの人は、いいものをつくれば、おいしいものをつくれば売れると思っている。でも売れないんだよね。どれだけいいものでも販路がないと売れない。その前提の中で売っていくのが戦略です。そのためにもあらゆるルートを考える必要があります。

――なるほど。客観的な目線で自分のビジネスを見つめ直す必要がありますね。

井本:はい。この“ビジネスをプロデュースする視点”でサラリーマンが働きだすと本当に会社や社会がよくなると思うんですよ。以前、大手広告代理店の社員向けに、講師としてビジネスプロデュース講座をやらせてもらったのですが、それをきっかけに転職した方もいるし、出世した方もいるし、大きな成果がありました。

一歩下がってプロデュースする ©︎DISCOVER MYSELF

 営業マンだったら、自社製品を営業することに目一杯になっているけれど、一歩下がってプロデュースする視点に立ってみると、全然違う景色が見えてくる。たとえば通信会社の社員であれば、競合他社の背中が見えてくる。社内の課題だけではなく、業界全体の課題を解決しようと発想できる。

 起業って前のめる印象がありますが、実は一歩下がってみるということがすごく重要。一歩下がって、自分のサービスってどうなの?あれと比べてどうなの?と考えてみることです。

女性は“儲ける”ことへの抵抗感をなくすこと

ーー女性起業家が陥りがちな失敗や課題はありますか?

井本:女性独特の“儲ける”ことに対するネガティブなマインドは変えてあげる必要があるなと感じます。いざという時に自信のなさ、臆病さみたいなところが出てしまう女性が多いんです。

 例えば300円で作ったモノがあったとして、女性起業家の場合、それを500円で売ろうとする人がほとんど。僕からしたら、200円の儲け!?って驚くわけです(笑)。でも女性は“そんなに儲けたら申し訳ない”と思ってしまう。自信がないから、売れなかったら怖いから安売りしようとする。これはいけない。300円のモノだったら、3万円で売るんです!

――3万円!? なかなか思い切った金額ですが、そこに自信を持たなければいけないと?

井本:同じ時間、労力を費やすんです、金額に遠慮する必要なんてない。そこで300円のモノを3万円で売るためのブランド作り、価値やストーリーを作る。そこがないと成立しないんです。あらゆる角度から付加価値をつけて3万円で売る。その方法を僕たちがレクチャーしています。

 あとは、身内に相談しないことですね。

起業したい時ほど知り合いを頼ってはいけない

――知り合いに頼ってしまうのはよくないと?

井本:彼氏、夫、家族に相談するのが一番やってはいけない(笑)。親しい人ほどリスクがあることをやれとは言わないですから。

 ビジネス、特に起業においては“第三者”がキーワードです。視野を広げるためにも何のフィルターもない、知らない誰かの視点こそ聞くべきです。行政がやっている起業相談会などでもいいし、オンラインサービスを使うのもいい。とにかくアドバイスを得るなら“知らない第三者”、ということを覚えておいてください。

ーー起業ではなく、複業やフリーランスを目指している人にアドバイスはありますか?

井本:私も大阪産業局をはじめ、いくつもの会社で仕事をしていますが、前職はデザイン事務所にいました。デザインがわかる行政サービスって他にいないんですよ。だから競合がいないのが強い。起業も同じですが、これまでのキャリアと真逆のスキルややりたいことを掛け合わせたら世界が一気に広がります。

 例えば、ライターなのに絵が描けるとか、ライターだけどデザインもしますとか。ライターですって言うとライターの仕事しかこない。でもいろんなビジネスをプロデュースしますって言ったらいろんな仕事がきます。ひとつのスキルを強みにして、他にもできることを広げていくと、人材価値が上がり、単価も上がりますし、面白いと思います。

人の痛みが分かるから、分かち合える ©︎DISCOVER MYSELF

気持ちに寄り添える人はすべてを超えていく

――さいごに、成長する女性起業家ってどんな人でしょう?

井本:人の痛みがわかる人です。一緒になって悲しんだり、嬉しいことは自分のことのように喜べる。結局、周りがあっての自分、周りのことがわからないと自分なんて成立しないんです。独りよがりではいけない。周りを思う気持ちですよね。それが欠けている人は、仲間にされない、選ばれない、だから成長もしない。自分もふくめて他人を思いやれる、そんな人が成功するな、と経験から感じます。

 そしてそんな人は、すべてを超えていく。企画的にも数字的にも、すべてを圧倒的に超えていくんです、そして信頼を手にしている。その人自身にファンができるんです。

女性のアイデアや柔軟性が必要とされている時代に

――ありがとうございます。起業を考える女性も、副業や兼業、フリーランスを目指す女性にとっても参考になりました。

井本:今までは男性主体の日本社会の構図が、女性の働き方を狭めてきました。妊娠、出産でキャリアが中断されがちな女性は、ツテがなく、自信をなくす人も多い。でも、実際は本当にしなやかで柔軟な発想やアイデアに溢れていますし、それが必要とされている時代です。女性性特有の視点やアイデアが世界を救うんじゃないかなって、最近よく考えるんです。

 起業は誰でもできます。掛け合わせ方、世の中をキャッチするセンス、自分を信じる力、それらがうまく重なり合えば、絶対にチャンスはある。女性にとって働くことを諦めない、ポジティブな世の中はもうすぐそこまで来ています。