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文=小嶋多恵子 写真=小嶋淑子

 行政のサポートや無料ビジネスツールなど、独立・起業へのハードルはどんどん下がっている昨今。起業(=法人化)に向けてのリスクや起業家に必要な資質とは?女性のキャリアコンサルティングをおこなう〈Waris〉代表取締役・田中美和さんと女性起業家を支援する〈女性社長.net〉代表・横田響子さんに「自分軸」の働き方を聞く、後編。

起業に向いている人の資質とは

――独立や起業への意欲があっても、どうしてもリスクに対して臆病になってしまう面もあると思うのですが……。

横田:起業といっても規模はさまざま。自己資金0円からコツコツ始めるタイプの方もいれば数百万円規模の方もいます。ですが、例えば自己資金10万円で始めた事業であれば、もし廃業になってしまっても10万円の損害です。よく講演で女性起業家についてお話させていただくんですが、そんなにたいそうなものじゃないんだ、と拍子抜けされることも多いんです。

 男性女性問わず会社を起業したり、また廃業したりすることは世の中の新陳代謝ともいうべき自然なことではないでしょうか。私の知る女性起業家のみなさんは、例え失敗してもそれをマイナスと捉えることなく、試行錯誤しながら乗り越えていかれています。むしろ2、3回失敗して3度目で上手くいく、くらいが感覚として丁度いいような気がします。実際、経営者として続けている方々は、失敗した記憶はないんじゃないでしょうか(笑)。失敗しても、その経験を糧にリカバリーすればいいんです。

 

――様々な女性起業家を見てこられたと思いますが、向き不向きの基準はありますか?

横田:うまくいく、いかないは、経験値があるとか、タイミングがいいとか、人脈に恵まれるとか、さまざまな要因はありますが、結局のところはやってみないとわからないものです(笑)。

 ただ向いている人でいうと、想像力のある人です。“あの人は何に振り向くんだろう?”“あの人はどうやったら買ってくれるんだろう?”“私の商品は誰が手に取ったら笑顔になるんだろう?”そうやって世の中にアンテナを張りながら、常に目の前の人の気持ちを想像できる人は向いているといえます。決して自分の気持ちだけで商売はできませんから、対お客様、すなわちファンでいてくれる方へ常に想像力を働かせることは当然必要なことですし、もっとも大事なことですよね。

 あとは、人から可愛がられる人間力ですね。人から相談された時でも、“この人なら何度でもアドバイスしてあげたい”っていう人っていますよね。“この人ならいつかお礼は言ってくれるだろう”とか“いつか後輩に返してくれるだろう”とか。そう思える人には、何度でもアドバイスしてあげたくなる。そういった人づき合いのセンスは必要かと思います。

 逆に自分のビジネスに必死になりすぎて周りが見えていない人は、周りも助けたいと思えなくなってしまいます。
 

劇的に変わりつつある女性起業家への視線

――起業家として、女性ならではの強みもあるのでしょうか。

横田:まず金銭面で几帳面な方が多いですね。無駄遣いをしません。

 また、女性はストーリーづくりがとても上手です。パッケージや顧客カードのネーミングなど、自分がもらってうれしいものに対する経験値がとても豊富。例えば商品ブランドのコンセプトから始まり、最後お客様のアフターサービスまで一貫して自分の世界観を表現することに長けている。ものづくりをはじめあらゆるサービスなど、女性ならではのきめ細やかな気遣いやストーリー性のあるビジネスが世の中に評価され、ここ最近では女性起業家の数は飛躍的に伸びています。

――最近のニュースで社会改革と連動して女性起業家に新たな需要が生まれているとも。

横田:実は今、女性起業家の人材ニーズも非常に高いんです。

 なぜかというと、来年から東証一部上場企業(※来年4月にプライム市場に名称変更)は役員の3分の1を独立社外取締役から起用しなければならない。中でも女性を起用したい声は大きく、女性の社外取締役の需要がものすごく高まっているんです。そういった背景もあり、女性起業家たちの中から東証一部上場企業の社外取締役になる方が続々と出てきています。中には30代前半の方もいます。正直、女性起業家の奪い合いともいえる現象も起きているんです。

 彼女たち女性起業家にとっても大きな組織がどう動いているのか知る機会になりますし、自分のビジネスの世界観をもっと広げることにもつながる。まさにお互いにハッピーな結果といえるわけです。独立して自分で事業を立ち上げ広げていった、その延長線上に副業として上場企業の取締役のポストがあるなんて、ひと昔前では想像もしなかったこと。面白いことが起こっている。新型コロナウィルスによる働き方の変革含め、時代の変化とテクノロジーの発達でチャンスが訪れているなと感じています。

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不安を置き去りにせず、キャリアを見つめ直そう

――独立、起業することのメリットや魅力はどんなところでしょう?

横田:資金の多寡にかかわらず誰にも共通するのがすべてを自分で決められるということ。結婚、出産、育児、介護など女性としてのライフステージが変わっても、自分のその時々のスタイルに合わせて働き方をシフトしていけます。組織に属していると仕事や異動など、自分で決められないケースが多いですから。その点、独立という働き方は仕事や時間など、すべてを自分でコントロールできる、これに尽きるのではないでしょうか。

 それともうひとつ。会社員時代には出会えなかった人たちにたくさん出会えることです。強く志を持って頑張っていると、お互い高い目線の仲間と出会えたり、時に目上の方から貴重なチャンスをもらえたりと自分も会社も成長する機会に恵まれます。私も、尊敬する先輩の女性リーダーや女性起業家の方々からそうしてもらっています。だから、今度は後輩の女性起業家たちにチャンスを与えられる人になりたい。そうやって女性同士、世代や年齢を超えてバトンを回していけたらいいなと思っています。

――最後に、キャリアに悩む女性たちにお二人からアドバイスをお願いします。

田中:起業に興味があるけれどいま一歩踏み出せない方には、チーム起業もおすすめです。〈Waris〉という会社は私をふくめた女性3人で立ち上げたんですが、共同創業メンバーとは共通の知人を介して出会いました。“女性が生き生きと働き続けることを直接支援したい”という思いを持った3人でした。チームならば、知恵やネットワーク、実行力が何倍にもなる。それぞれの得意なことや好きなことにフォーカスできるのもメリットです。それと、さみしくない(笑)。精神的にも支えあえるのが何より強みになります。

横田:副業、フリーランス、起業と働き方にいろいろな選択肢が増えている分、悩みも増えますよね。でも自分に選択する力があれば選び取ることができる世の中になってきています。

 みなさん、学生時代は将来を思い描きますよね。けれど思い描いた分、それに絡め取られてしまっている面も。結婚や、妊娠、出産は巡り合せだったりしますし、就職した会社が20年後にしか管理職になれないという古い体質だったり、自分が思い描いていた設計とずれる瞬間ってたくさんあると思うんです。

 そういう時は不安な状態を置き去りにせず、自分の気持ちに素直になることです。今何が不満なのか、何に不安を感じているのか、書き出してみるのでもいい。その中で、自分でコントロールできること、できないことを仕分けて、コントロールできるほうを心地よく変えていくことにフォーカスするんです。

 人生の様々な局面で価値観は変わるものなので、キャリアを選び取る優先順位を定期的にシフトさせて、自分の計画に寄り添わせていきましょう。選び取る力があれば、キャリアも人生設計ももっと自分らしくいられる。健全に悩めるようになれば、それはいい悩みになり、幸せの循環につながっていくのではないでしょうか。