渡部陽一が撮ってきた「戦場の写真」をベースに、争いの背景、現実とその地域の魅力について解説するコンテンツ、渡部陽一【1000枚の「戦場」】。今回は、今年の10月7日に起きたアフガニスタン地震について。その日は、イスラム組織ハマスがイスラエルへ侵攻し、世界に衝撃を与えた日でもある。渡部陽一がその目で見た中東、そして現在のアフガニスタンとは?

文=シンクロナス編集部

 こんにちは。戦場カメラマンの渡部陽一です。

 アフガニスタン西部ヘラート州で大きな地震が繰り返し発生し、数千人単位の死傷者が出ています(2023年10月16日時点)。

 

世界の無法地帯となったアフガニスタン

 アフガニスタン、現時点でイスラム組織タリバンが暫定政権を管理しています。世界中の国々が政権として認めていないイスラム組織タリバンがアフガン全域を管理していく中では、司法、立法、行政というものは事実上存在しないという状況です。

 そんな混乱を外部から見ると「無法地帯」ともいえるアフガニスタンの中で、マグニチュード6.3の大規模地震が繰り返し発生しています。

 この写真を見ていただくとよくわかるのですが、もちろん首都カブールであったり大都市に関しては違うのですが、アフガニスタン全域の住居環境というものは、このように粘土のような土を乾燥させて組み上げた、土壁の街並みがずっと続いているんです。

 

耐震性がない、昔ながらの土づくりの家

 乾燥している地域では、石や木材という資源がそもそも手に入らない。その地域で何千年もの昔から伝えられてきている建築技法、その土地に根付いた、環境に寄り添ったこの土壁の家で、ほとんどの方が暮らしているんです。

 その中では見ての通り、電線や電柱というものもありません。自給自足、ケロシンランプというわずかなろうそくのような火で夜は暮らしていく。100年前、200年前から変わっていない生活環境が、今もそのまま続いている状況なんです。

 その中で大規模地震が起こり、やはりこの住居環境では耐震免震はなく、ほぼ壊滅の状況に陥ってしまったんです。

死者の90%が女性や子どもたちだった

 さらに、イスラム組織タリバンの国内の統治体制というのは、厳格なイスラム思想を全域に落とし込んでいく。女性が自由に学んだり、女性が仕事に就いたり、子どもたちが自由教育を受けたり、外に出て何か娯楽を楽しんだり、ファッションを楽しんだり、音楽を聴いたり、そういったことは事実上禁止されています。

 それ故、地震が起きた時、家の中にいたのはほとんどが女性・子どもたち、小さな命だったんです。男性は外で農業に従事していたり、外で様々な物資を運んでいたり。ほとんどの犠牲者は女性や子どもたちだった。

 

 2021年に、約20年間駐留したアメリカ軍が、アフガニスタンから完全撤退しました。

 この写真は、イスラム組織タリバンの最前線拠点です。このタリバンが管理している街の中に、北大西洋条約機構(NATO)─今もウクライナと向き合っているNATO─このアフガニスタンにもNATOは展開していて、そのメインがアメリカ軍だったんです。

 アメリカ軍がタリバンの集落に入っていき、タリバンの戦闘状況やその地域を管理している状況を確認しながら、前線のタリバン掃討作戦を展開している。

生きるため、麻薬の原料ケシの栽培も

 電力、水、ガスの供給というものは、地方都市にはもうほとんどありません。その地域では農作業を続けたとしても、過酷な自然環境の中で、安定した収益という生活の糧を得ることができない。

 だから、この前線の地域のたくさんの家族は、生きるために麻薬の原料である芥子(ケシ)、これを栽培することによって収益を得て、その収益で暮らす。そしてタリバンや過激派が麻薬の収益を軍資金として、テロ攻撃を拡大させていく。

 こうした貧困だからこそ選ぶことができない中で、生きる最後の術としてもそうせざるを得ない。貧困で麻薬を栽培せざるを得ない、貧困によって武器をとって過激派に入らざるを得ない。そういった状況がアフガニスタンの今の状況です。

夜の砂漠の交戦をNATOが制した理由

 

 これは、タリバン最前線、地雷が埋まっている前線を確認しながら進軍している状況です。この写真は、一日ずっと行軍し日が沈む直前のころ。この周辺はタリバンが前線地域として潜伏をしています。

 タリバンと言っても軍服を着て兵士のように動いているわけではなく、その地域の農業に携わっている若者、パッと見るとちょっと気さくな、髭を伸ばしている若者。そういった若者が貧困から武器を取り、イスラムの思想に引っ張られて過激になり、このアメリカの若者たちと前線で銃撃戦をしている状況なんですね。

 この兵士のヘルメットの上に何かカメラみたいものが付いています。これはナイトビジョン。

 

 日が沈むと真っ暗になるんですけど、星や月がない日の真っ暗というのは、真っ暗すぎて20cm先や自分の手との間隔も分からないくらい真っ黒なんです。音も距離感がつかめなくなる。

 その時、このナイトビジョンというものを目の前につけると赤外線で自分の手、相手、遠くの動き、すべての動きが見えるんですね。

 このナイトビジョンがあることで、NATOの軍隊は前線で夜間行軍を広げることができたんです。ウクライナやガザとイスラエルもそうですけど、こういった装備がもう違いすぎる。最新の戦力はもう太刀打ちできない近代兵器であり、人間が持っている思想、軍事力、力ではもう太刀打ちできないんですね。

 

 これもアフガニスタン前線。地方都市の集落です。見ると手前にある集落や右奥にある集落、さらにその奥にもある集落に緑があります。灌漑施設が作られていた地域なんです。土漠地域が続いていく中で、突然この緑のオアシスのような場所がある。

 この地域には支援でできた灌漑施設が作られていて、水の管理が一帯に広がっています。水であると緑が広がるんですね。緑が広がると、住民が暮らすことができる。安定した暮らしができると、雇用が広がっていき、子どもたちの死亡率も低くなっていく。

 水は、アフガニスタンの中で最も大切なライフラインの一つなんです。ただ、この周りの山々を見ても分かるとおり乾燥している地域なので、この環境で何ができるのか。

 何百年、何千年と暮らしてきたアフガニスタンの人たちが、イスラム組織タリバンによって管理させられた──管理したと言っても、事実上は放置させられたと言っていい。支援もない、電力もない、ガスもない、雇用もない。

 タリバンは政権が取ったといっても、都市部だけを管理して地方はまるで中世のようなイスラム教の国々を再興させているような状況なんです。

 アフガニスタン地震が起こって被害が拡大した背景というのは、このようにも手付かずの厳しい環境で、イスラム組織タリバンには事実上も放置されていて、犠牲者は女性と子どもたちばかりだった。教育や世界中の方々の医療支援を受けたくても、受け入れ体制が壊れてしまっている。

イスラエル問題で隣国イランはどう動くのか?

 約20年間のアメリカ駐留で作られたアフガニスタンが自分たちで自治をしていく行政システムが、またゼロにひっくり返された。その中で、大地震が起こった。大地震が起こった中で、支援体制はない。これが今のアフガニスタンの情勢です。

 ヘラートに近い国境はイランです。アフガニスタンの西側がイランの国境に近いので、世界支援が入っていく入り口はあるんですけど、このイランも中東情勢で大きく荒れている。

 

 特にエルサレム、ガザで虐殺が起こった場合、イランは支援をすると言っています。そうなると、国境封鎖の可能性が高くなってくる。

 世界情勢がうねっています。アフガニスタンの中からS O Sのメッセージが発せられていることに気づいていただけることが、大切だと僕は感じています。

 アフガニスタンの現状を、ご報告させていただきました。

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