渡部陽一が撮ってきた「戦場の写真」をベースに、争いの背景、現実とその地域の魅力について解説するコンテンツ、渡部陽一【1000枚の「戦場」】。今回は、渡部氏が戦場カメラマンを目指すきっかけとなった、アフリカ・コンゴでの体験について。大学生だった渡部氏が体当たりで挑んだジャングル走破、川下り、そして “ゲテモノ料理”とは?

文=シンクロナス編集部

 こんにちは。戦場カメラマンの渡部陽一です。

 実は僕、戦場カメラマンになってから、30年という歳月が過ぎ去りました。そこで、今回はすべての原点となった僕の取材の場所。アフリカ中央部ザイール、現在のコンゴ民主共和国についてご報告いたします。

 今回は、政治的な関わりやアフリカがたどってきた歴史というよりも、僕がカメラマンになった背景、リアルサバイバルな状況をお話ししたいと思います。

時速2kmで進むトラックに乗って、ジャングルを行く

 まずはこちらの写真について。ジャングルの中で、奥の方にトラックが停まっていますね。これはドイツ製の「MAN」というメーカーのトラックで、これに塩魚を積んでジャングルを3ヶ月近くかけて越えていくんです。

 

 このジャングル、光の加減でちょっとわかりづらいかもしれませんが、高さ30〜40mの尋常じゃない高さの木が周辺のジャングルを覆っています。その原生林の中をトラックに乗って、時速2km程度のゆっくりした速度で進んでいきます。

 なぜそんなに遅いのかというと、道に直径3mぐらいの大穴が空いてそこに泥水が溜まっていて、その穴は10m間隔であちこちに空いているんです。トラックがこの穴に埋まってみんなで押してあげて。また10m先で穴に埋まって掘って押しあげていく。

 熱帯雨林のジャングルの中、他に道はなく、この穴を避けようと道の横に逸れようとしても、原生林の大木やトゲノキが続いて、とてもトラックが通れそうにない。それゆえ、泥沼に入るしか進む方法はありませんでした。

 泥沼に入る時、トラックに積んである大きな板で穴を塞ぎ、トラックが空回りしないように突き進んでいくので、とにかく歩いたほうが早いんです。それでも、ジャングルの奥地に暮らしている人たちに塩魚を届けるため。3ヶ月〜半年ぐらいかけて、ジャングルの中を突き進んでいきました。

 この究極の長距離トラックに、僕が乗せてもらってジャングルを越えていったのが、戦場カメラマンになったひとつの入り口なんです。当時はまだ学生で、20代前半の頃。

 アフリカのジャングルに入っていた一番の理由は、少数民族の方々、狩猟民族の方に会うことでした。しかしその地域で、戦争に巻き込まれた子どもたちと出会い、その声を届けたいと思ったことが、30年前に戦場カメラマンになるスイッチだったんです。

罠でワニを捕獲も!? ジャングルの村にホームステイ

 ジャングルを超えていくと、当時のザイールという国を北東部分からちょうど南西部にかけて弧を描く形で縦断する海のような川、ザイール川が流れています。このザイール川は2500〜3000kmほどもあり、アフリカ中部を流れる大河なんですけど、その大河を「ピロッグ」と呼ばれるカヌーを使って、僕は何ヶ月もかけて越えていきました。

 

 右側の男性の足元に、細い木がありますね。これカヌーなんです。一本の木をナタのようなもので中を削っていくんです。長さはおおよそ6〜8mぐらい。現地の方はこのカヌーに乗って釣りをしたり、物を運んだり、罠を仕掛けたりするんですね。

 僕は写真に写っているご家族に、長い間お世話になっていました。左側には、高床式の家がありますね。雨季になるとザイール川の水位が上昇して、家が飲み込まれてしまう可能性がある。雨も頻繁に降る。自然の猛威が激しすぎて、地面に家を建てると飲み込まれてしまうので、高床式なんです。これは昔からの人類の知恵ですね。

 この周囲はジャングルです。動物が入ってこないように、周辺の木々を取り除き、視界をオープンにさせていました。これで罠を作ったりして。大きな集落ではワニを、延縄で獲ったりしてたんですね。

 この漁師さんは、よくナマズを捕まえて食べさせてくれていました。完全な自給自足、というより、自然に向き合って自然の恵みでサバイブしていく。ジャングルでどのように暮らしていくのかを、このご家族に教わりました。

「ウォークマン」と交換して手に入れたカヌーで川下り

 この川がザイール川です。これは支流の一部なんですが、ザイール川自体は本当に海のようで、水平線がどこまでも見えます。漕いでも、漕いでも、景色が変わらない。

 

 

 そして、これが僕の愛用していたカヌーなんですが、長さが7mぐらいあります。写真では分かりづらいのですが、実は船底に穴が開いているので、粘土状の泥で穴のある場所を固めて、一時的に補強していたんですね。このカヌーで2ヶ月間ほどザイール川を下っていったんです。

 このカヌー、当時は愛してやまなかった携帯型音楽プレーヤー「ウォークマン」と物々交換して手に入れました。

 カヌーの漕ぎ方ですが、この写真から見ると、先側に石みたいなものが置いてあるんです。モーターボートじゃないですけど、カヌーの前方を上げるような形にして、基本は後ろに座ります。

 でも座って漕ぐとスピードが出ないので、立ち上がって漕ぐんですね。現地の人に教わった、その立ち漕ぎというものがすごく難しくて、長い間できなかったんです。立ち漕ぎするたびに何度も川に落ちて、また登ってまた落ちての繰り返し。でも立ち漕ぎができるようになると、体重を乗せてスピードが出せるので、川を上っていくことができるんです。

川での強敵は、刺されると昏睡状態に陥る恐ろしい「ツェツェ蝿」

 川でカヌーを漕ぐときに大切なこと、それは岸辺に近寄りすぎないこと。岸に近寄りすぎると、眠り病を媒介する「ツェツェ蝿」がいます。僕の大好きな漫画「ゴルゴ13」のデューク東郷でさえ、命の危険にさらされたあの「ツェツェ蝿」。「ツェツェ蝿」に刺されると、眠い病に落とされて、そのまま長い間昏睡状態に陥り亡くなってしまいます。

 岸に近寄りすぎると「ツェツェ蝿」が来る。それに刺されないギリギリのところで、船をひたすら漕ぐ。少しでも沖合に出ると、川の流れが速すぎて船のコントロールを失ってしまう。この「ツェツェ蝿」に近づかないように船を漕ぐ、これが難しかったです。

見た目は最悪、でも極上の味で貴重なタンパク源の食べ物

 さて、これは何だと思いますか? なんだか得体の知れないものが写っています。実はこれ、長さ10cm、太さ3cm、トゲの長さが1cm近くある、真っ赤な毛虫なんです。ずばり、皆様がイメージされた通り、食べます。

 

 アフリカは食べるものが自然の中で限られていて、動物をハンティングして食べたり、様々な木の根っこやフルーツ、川の恵——そしてこの毛虫は重要なタンパク源となります。

 先ほどご紹介した、川辺に暮らしていた家族や、大きな集落の川辺の家族の子どもたちは僕をジャングルの中に連れて行ってくれて。木をみんなでゆすったり叩いたり蹴ると、ボトボト上から何かが落ちてきました。

 「なんだろう?」と見ていると、この毛虫が山ほど落ちてきて、動いている毛虫を子どもたちが集めて、大きなたらいに山盛りに入れて、お母さんやお父さんのところへ持って行きます。それをヤシの油を沸騰させた中に入れて、カラッと素揚げにするんですね。

 これは素揚げにする前、収穫した虫なんですけど、まだ動いているこの毛虫をカラっと揚げると、紅色だったものが赤茶色に色が深まります。それをかじるとカリッとした感触で、中から旨みの液体が出てくる。この液体の味は、まさに日本の焼き鳥のつけダレの味。ちょっと甘くて、深みとコクのあるソースの味。食感は小海老の素揚げで、中から焼き鳥のタレが出てくる感じです。

 これ一匹食べるとやめられない。このタンパク源のおいしさは、アフリカで気づかされました。食べられるものを、食べる。これがジャングルの中で息をつなげていく大切な入り口です。お腹が空いたら、何でも食べる。もてなされたものは、何でも大切にいただく。

 初めての時は一瞬怯んだんですけど、それ以来、毛虫を手に入れた時は「やったー!」と喜びの声をあげる。アフリカで食べていた様々なものの中で、僕はこの毛虫が極上の味でした。

 アフリカのジャングルのサバイバル。少数民族の方に会いに行ったことが、戦場カメラマンの入り口でした。今でもアフリカの旅、アフリカの皆さん、愛してやみません。またぜひ、アフリカに戻りたいです。

 母なる大地、戦場カメラマンの原点、ザイール現コンゴ民主共和国をご報告いたしました。

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