著名な育児論や教育法はたくさんあるけれど、理想通りにいかないのが子育て。だからこそ、机上の空論ではなく、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩たちのリアルな声が聞きたい。そんな思いから、独自の育児をしてきた先輩パパママたちの“子育て論”を聞く本連載。今回は当時、小学生の似顔絵師として話題となったモンドくんのご両親、ボギーさん&ベイビーさんご夫妻に話を伺った。子どもの個性への気づきや一緒に伸ばしていくヒントを探す前編。

編集・文=石渡寛子 写真=齋藤弦(ACUSYU)

ボギーさん(写真上)・ベイビーさん(写真中)夫妻
画家・奥村門土(もんど)さん(写真上から二番目)、俳優デビューを果たす次男・天晴(てんせい)くん(写真下から二番目)、モデルもこなす奥村家マスコット的存在の長女・今(いま)ちゃん(写真下)のご両親。

ボギーさん:福岡を拠点に音楽活動を行うかたわら音楽レーベル「ヨコチンレーベル」を主宰。1996年から続く音楽イベント「ハイコレ」「ラウンジサウンズ」を主催しつつ、「nontroppo」 「東京ノントロッポ」「ボギー家族」などのバンド活動も精力的に行う。イベンター、テレビ・ラジオへの出演、雑誌のコラムニスト、DJなど、肩書きにとらわれない活躍は多岐に渡る。
ベイビーさん:バンド「ボギー家族」ではピアニカを担当。全国ツアー時にはすべての運転をこなし、生活全般、子供たちの散髪まで、ボギー家を裏から支える真の大黒柱。

 

天才画家と呼ばれ、脚光を浴びた長男。そのきっかけは?

 当時、小学生の似顔絵師として話題となった“モンドくん”をご存知だろうか?

2014年には画集『モンドくん』(PARCO出版)を発表。その後も雑誌や新聞の挿絵、谷川俊太郎氏とのコラボレーション、瀬戸内寂聴氏著『死に支度』(講談社)、鹿子裕文氏著『ブードゥーラウンジ』(ナナロク社)などの装画を担当し、国内外で個展を開催するなど、画家として注目を浴び続けている人物だ。

 彼の画家としての才能開花には、ご両親との関係が切っても切り離せない。

4月1〜10日まで福岡で行われた展覧会場には、幼少期からの門土さんの写真が並ぶ

ボギーさん(以下ボギー)「門土のプロフィールには、3歳から絵を描き始めたと公表しているんですが、それはまぁ子どもが本当にお絵かきを始める感覚だったです。画用紙にぐるぐるっと丸を描いたりとか、そのレベルで。ただひとつ違ったのは、使っていた画材が色鮮やかなサインペンやアクリル絵の具だったんです」

 子どもにお絵かきの画材として渡すのは、クレヨンや色鉛筆が主流。あえて本格的な画材を与えたのには、きっとご両親なりの狙いが……。

ボギー「ないです(笑)。たまたま、僕がイベントのポップ制作で使うために用意していたものが家に転がっていて、それを使い始めただけの話なんです。

 でも、そういうビビットな色の画材で描く子どもの絵って、おもしろいんですよ。クレヨンや色鉛筆は、優しい色合いなので、少しぼんやりすることがあるんですが、マジックや絵の具だと、すごくダイナミックな線を描くし、色使いも斬新で。

 門土って、小さなころは本当に落ち着きがなくて騒がしかったんです。でも、絵を描いているときだけはすごく集中しておとなしくなる。その様子を見て、積極的に絵を描く時間を作るようにしていました。今日はなにを描こうか? って声をかけてみて」

ずっと愛用している画材たち

ベイビーさん(以下ベイビー)「でも普通におもちゃで遊んだり、外で走りまわる時間もあるんです。門土が描きたくなったときに、絵の具や水なんかをすぐ用意してあげたくらいで」

ボギー「やりたいときにそのタイミングをちゃんと逃さないようにしていたんです。子どものやりたい気持ちって、その瞬間じゃないですか。それで画材が揃うと、すごく一生懸命描いていました。細かいタッチも好きみたいで、無数に線路を描いてみたり、見ていておもしろかったですね」

 そうして好きに描いていた絵が、ボギーさんの仲間内で話題となり、弱冠5歳で初の個展が実現する。ここでモンドくんは、生まれて初めての経験をすることになる。

ボギー「個展で得た収入を、門土にも渡したんです、1500円くらいだったんですけど。初めて自分でお金を稼いだ瞬間ですよね。そしたら目覚めちゃって(笑)」

ベイギー「ちょっと目がギラついてたもんね(笑)。確かお菓子かなにかを買っていたと思うんですけど」

ボギー「これが原体験となって、追々自分でお小遣いを稼ぎ出すんです。結構たくましいところがあるんですよね。絵へのモチベーションも上がったように感じたんですが、小学校に入った途端、門土の描く絵からおもしろみがなくなってしまったんです」

 

止まった制作意欲。そのとき親ができること、かけた言葉

 小学校入学と同時に、それまでの鮮やかな色使いが消え、みんなと同じアングルで見た景色を描くようになったモンドくん。自宅で絵を描くこともほとんどなくなってしまう。

ボギー「授業参観に行ったときに、同じ景色を同じように描いた絵がたくさん並んでいましたね。子ども同士で真似しあっているのか、先生のお手本なのかなぁ……と。だから、小学1〜2年生の間は、絵を描かなくなった空白の期間があります」

小学生似顔絵師として話題となった当時のポートレート

 花開く直前だった才能の芽。親としてはさみしさを感じてしまいそうだが、ボギーさんとベイビーさんは、それに対して口を出すことはなかった。静かに様子を見守り続け、ある日、ボギーさんはモンドくんに語りかける。

ボギー「一緒に出かけた帰り道に見た夕焼け空がきれいで。

“空っていろんな色があるでしょう?

夕焼けで太陽が赤いときは、空って青じゃないやろう?

よく見てみ。オレンジとか赤とか、紫、茶色……いろんな色が大空の中にあって、雲の形によっても変わってくる。

だから、空は青って決まってないし、太陽が赤って決まっているわけじゃないんだよ。自分が好きな色で塗っていんだよ”

そう、伝えました。それまで門土が描く絵に対して指導したりすることはなかったんです。これはいいとか、これはお父ちゃんあんまり好きじゃないなという感想を伝える程度で。

 でもこの話をしたら、すごくいい風景画を1枚バーンと描いてきて。夏休みの宿題だったと思うんですけど、福岡県の賞をいただいたんです。それが自信につながったようで、また絵を描くようになりましたね」

 待つことの大切さ、伝えるべきタイミングと言葉。ボギーさんとベイビーさんの口から語られたエピソードから、その重要性を強く感じる。そうして改めて絵を描き始めたモンドくんは、ちょっとしたお小遣い稼ぎを始める。

きっかけは仲間たちとの遊び。そこから世界が広がる

ボギー「僕が出演しているライブハウスの片隅で、大人を捕まえて似顔絵を描き始めたんです、1枚100円で。当時、お小遣いを渡していなかったので、自分で稼ぎ出したんですね(笑)。

 そしたらそれが“よく似ている、味がある”とバンドマンの間で話題になり出して。似顔絵だけではなく、“ビートルズ描いてよ”“岡本太郎は?”と、僕からもどんどんお題を出すようになりました」

 似顔絵を描いているモンドくんの姿を見て、それをおもしろいと感じたボギーさん。一日ひとつ、お題を出して仕上がった絵を「モンド今日の絵」と題したブログで発表することを始める。

ボギー「僕がただただ楽しいことやおもしろいことが好きなんで始めたんです。親子でやる大喜利の感覚。すげぇ〜って褒めたり、感動したり、似てねぇって笑ったり。

 僕は元々アーカイブ癖があるので、失敗作だとしてもとにかくアップしていました。そうすると、絵を見るだけで本人の精神状態がなんとなくわかるようになってくるんですよね。赤ちゃんの便を見ると体調がわかるっていうじゃないですか。あの感覚です」

ブログ「モンド今日の絵」にアップされていた作品たち

ベイビー「この線は、絶対眠いだろうとか、やる気が出てないなとかすぐにわかるよね(笑)」

ボギー「そうそう(笑)。一応僕もベイビーもデザイン系の学校に行っていたので、これはいいねとか絵を見ながら話したりするんですが、アドバイスはしてなくて。そしたらそのブログがいろんな方の目に留まって、出版社や美術関係の方からご連絡をいただくようになって。気づいたら門土の名前が広がっていましたね」

 ついに画家としてのキャリアが本格的にスタートしたモンドくん。後編では、その経験がもたらした変化、そしてボギーさんとベイビーさんが大切にしている子育ての考え方を伺う。

「奥村門土展 in 東京」〜モンドから奥村門土へ〜
日時:2022年5月13日(金)〜5月22日(日)
場所:JINNAN HOUSE(東京都渋谷区神南1-2-5)
入場無料(ワンドリンク制)

奥村門土さん約8年ぶりとなる東京での個展開催が決定。幼少期の作品から似顔絵少年時代の作品に加え、新たな境地に挑戦した風景画、抽象画、ポップアートなど近年の作品を多数展示予定。会期中は、トークライブや音楽ライブ、似顔絵ワークショップなど、展示以外のイベントも目白押し!
ヨコチンレーベル:http://yokotin.xyz/
モンド今日の絵:http://mondo-art.blog.jp/
ボギー家族MV『TOY TOY』『はじめてのうた』 https://youtu.be/9xlyPOFP7EE