起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちの連載「INDEPENDENT WOMAN!」。女性のバイオリズムや体の変化に寄り添い、快適な生活をサポートするブランド「WRAY」を立ち上げた谷内さん。商品開発の裏側や経営者になってみて初めて感じた苦労に迫る後編。

文=吉田可奈 写真=小嶋淑子

谷内侑希子 株式会社WRAY代表取締役

2007年にゴールドマン・サックス証券に入社。2011年にメリルリンチ日本証券に入社。2012年からイギリスに在住し、帰国後、YCP Japanに参画し、スキンケアブランドのマーケティング、商品開発を担当。同傘下のN&O Life(現SOLIA)で取締役に就任。2017年、ステディスタディにて経営企画室室長に就任。2020年に「WRAY」を創業。プライベートでは二児の母。

 

答えを持っているのは、お客さま

 「WRAY」の商品開発には、マーケティングの経験が役立った。商品やブランドへ忌憚のない意見をくれるモニターやフォロワーとはかなり近い関係を築いているという。そこでプロダクトの内容もブラッシュアップされていく。

「私、どんなこともオープンに話すタイプなんです。プロダクトを作る時も、ブランドを立ち上げる時も、すべてアンケートから吸い上げてきました。最初の商品を決めるためのアンケートでは、悩みの1位が肌荒れ、2位がイライラ、3位が冷えだったんです。その結果があったからこそ、プロダクトは決めやすかったですね。
 もともと、すべてにおいて私(経営者)が決めるものではないと思っているんですよ。人に使ってもらいたいものを作るのだったら、使う人に聞くしかないと思っているんです」

 決してひとりよがりにならない、人々のニーズから商品を作ることを大事にしているからこそ、つねにモニターのコミュニティやフォロワーに意見を求めているんだとか。

「モニターさんには、“AとBどちらがいいですか”“色はどれがいいですか”と聞いたり、“この商品ならどっちが欲しいですか?”ということも良く聞いています。
 これは、今までの経験から、答えはお客さまが持っていることを確信したからこそ。もちろん、核となるブランドのビジョンやミッションだけはしっかり持っておく必要はあるし、ある程度ブランドとしてのセンスも必要です。これからもお客さまの意見を聞きながら、柔軟に求められているものを作っていきたいなと思っています」

財産は今まで作り上げてきた人間関係

  起業から2年経たないうちに、多くの人から支持を受けるブランドへと成長した「WRAY」。しかし、谷内さんは「まだまだ軌道に乗っているとは言えない」と断言する。

「この1年で、やっとお客さまにブランドの輪郭が伝わり始め、そこからお客さまがうちのブランドに求めているものがわかってきた気がするんです。とはいえ、ようやくブランドが認識されたレベルだと思うので、まだまだです」

 ブランド認知がスムーズに広がった理由には、Instagramを挙げる。

「Instagramをやっていたことが大きかったと思います。立ち上げ当初はそこで繋がっていたインフルエンサーのみなさんが拡散してくれて、本当に感謝しています。そこからコラボ商品やイベントの企画が生まれることもあったので、今までの人間関係すべてが財産だったんだなとあらためて実感しました」

 起業した今、一番幸せだと感じる瞬間を聞くと「人の役に立っているという実感ができること」と即答する。

「例えば証券会社での仕事は、一般ユーザーとは遠い業務だったんです。いまはユーザーとの距離が近いので、うれしい感想やストーリーを聞くと“やってよかったな”と思います。さらに、ブランドが認知されることによって、女性のキャリアプランニングについても発信できるようになったのもよかった。インタビューや私のInstagram、WRAYの記事を見て、『自分のキャリアについて考えるようになりました』と言われると、人生に何かいいきっかけを提供できた気がしてすごく嬉しいです」

ゆらぎが気になる女性のために、黒豆やルイボス、ラズベリーリーフなどをブレンドしたハーブティー。(WOMEN’S TEA バランシングブレンド30包入り ¥2,600)

いつかキャリア開発の仕事も手掛けたい

 起業時からキャリア開発にも興味があったと話す。

「私は日本の女性の雇用やキャリア形成に対して、大きな課題を感じているんです。雇用制度や家事分担など習慣からくる問題もあると思いますが、日本の女性って、キャリアに対して貪欲であることにネガティブな印象です。給料を上げたいと周囲に話すことや交渉することに抵抗があったり、もっとキャリアアップしたいということを友達に話さなかったり。
 それから再就職に関しては本人の気持ちも弱くなってしまっていると感じます。育児や介護、転勤などによるブランクを経て、復職をしようとしても、“私なんて”と思ってしまう女性が本当に多いんです。この大きな問題はどうにかしなくちゃいけないのに、どうにもなっていない状態がすごく気になっていて…。今は個人レベルでDMや座談会で相談に乗れることは乗っています。いつか、この問題にも対峙したいなと思っています」

課題はプライベートと仕事の切り替え

 自分が経営者になってみて、昔母から言われていた言葉を思い出すことも多いという。

「たとえば、“仕事で何かあっても、プライベートと仕事でメンタルを混同してはいけない”という言葉は、今になって本当にそうだなって思うんですよ。家族や周りのためでもありますが、主に自分のメンタルコントロールのために、とても重要だと感じます。
 忙しいと、どうしてもプライベートに気持ちを持ち込んでしまうことがありますよね。でもそうすると24時間しんどい時間になってしまって、そこで“自分はしんどい人生を送っているんだ”って思っちゃうと、本当に弱ってしまう。それでは悪循環なので、自分を客観視して、どんなに仕事でしんどいときも、プライベートは充実させるなど、公私混同しないようにしないといけないと思っています」

 仕事はしっかりこなし、プライベートも充実。そんな生活が理想とは思いつつも、実際はその線引きがなかなか難しい。

「社長業って所定勤務時間がないから、いわば一生裁量労働。放っておくと区切りなく24時間仕事のことを考えてしまうんですよね。会社員時代以上に、仕事での焦りがプライベートにも波及してしまうし、逆もまた然り。自分がしっかりして、オンオフを区別するしかないのですが、これがなかなか難しくて…。今の大きな課題だと思っています」

 だからこそ、Instagramのフォロワーから届く“私も起業したいです”というDMに、真剣に返信する。

「もちろん社会的には女性もどんどん自立して、いろんなことに挑戦した方がいいと思うのですが。会社経営に関しては、仕事の山も谷も、社員への責任も、資金繰りも、すべて自分が背負うことになるので、キラキラした話だけにはできない(笑)。応援はしたいけれど、“その覚悟が必要ですよ”とは伝えたいと思いますね。
 私も、祖母や母が会社の経営で大変だったのをそばで散々見ていたのに、本当に何を見てたんだろうと思うくらい、実際にやってみたら大変で、見聞きするのと実感するって違うなと思いました」

 とはいえ、最後に今の満足度を聞くと、すぐに「高いです」と答えてくれた。

「今、仕事もプライベートもつねに一生懸命なので、充実感という意味ではすごく高いですね。ただ、いつも目の前にタスクがあって、そのことを考えてしまう状態。会社のこと、子どものこと、家庭のこと、自分のこと…。本当は将来のもっと先のことを見据えながら進めたいので、今後はもっとひとりの時間を作り、整理しながら前に進みたいなと思っています」

(左)泡で出るオーガニックデリケートゾーン用ソープ。(ナチュラルインティメイトウォッシュ ¥2,910)(中)100%天然由来成分のオーガニックデリケートゾーンオイル。(ナチュラルインティメイトオイル ¥4,600)(右)バスタイムで体を芯から温め、保湿効果もあるバスソルト。(エプソマグソルト ¥3,500)

 

谷内侑希子さんてこんな人!ご本人のリアルに迫る一問一答

――仕事における座右の銘は?

誠実であること。
七転八起。

――耳を傾けてよかった、人からのアドバイスは?

母からのアドバイスだった「公私混同をしない」。

――仕事をする上で絶対に譲れないことは?

自分が納得していないものを世に出さない。

――大変な時に助けられたものや人は?

友だちです。コロナ禍になる前は、友だちと定期的にご飯を食べに行き、仕事の話抜きで話す時間がすごく励みになっていました。

――自分の強みはなんだと思う?

経験。

――逆に直したいところはある?

物忘れがひどいところ。脳のキャパオーバーなんだと思います(笑)。

――独立・起業したことで犠牲にしたことはある?

ありません。できるようになったことの方が多いかもしれないですね。

――悩みの種は?

今後の事業の方向性。

――ビジネスを始めたことで得た気づきは?

過去の経験も人間関係も、すべてが自分の力になっているということに気付きました。

――ストレス解消法は?

疲れた時は甘いものを食べています。ただ、ほぼ毎日食べているので太ってしまうんですよね(笑)。お気に入りは豆大福です。

――毎日必ずやることはある?

むくみ取りの体操と、子どもとの交換日記をしています。家にいない時間も多いので、宿題の進捗や、どうでもいいようなことをイラストにしたりして書いています。

――自分らしさを失わないために意識していることは?

一人の時間を作って自分に向き合うこと。今の悩みだけじゃなくて将来の展望や夢、ほしいものまで棚卸しします。

――落ち込んでしまう時の対処法は?

友だちや夫に話を聞いてもらうこと。ヘコむととことん落ち込むこともあります。でも、その時間を超えると、もういいやって思って起き上がります。

――起業したい人になんていう?

規模にもよると思いますが、今までの経験を活かすには集大成としてすごく良いことだと思います。ただ、覚悟は必要。

――どんな世の中になって欲しい?

友人が言っていて本当にそうだと思ったんですが、キャリアもライフスタイルも、自由に選べるようになったらいいなと思います。出産後、復帰したいときに復帰ができなかったり、専業主婦の方が仕事をしようとするのはすごく難しいことになっていますよね。それが自由にできるようになったら、すごくいいなと思うんです。そのライフデザインができるようになったらいいなと思っています。

――あなたにとって成功とは?

成功の定義は自分で決めるしかないと思うんです。私もこのブランドだけをやっていくつもりはなく、「WRAY」を育てながら様々な事業をやっていきたいと思っているんです。なのでいつまでたっても成功したとは思えないのかもしれないですね。

独立前と独立後の環境や気持ちの変化をチャートで分析!

 

「独立前も、独立後も自己肯定感は変わらないですが、時間も気持ちも余裕はほぼなくなりました(笑)。ストレスも、独立後はかなり増えましたね。でも、圧倒的に成長ができているのが独立後なんです。精神的充実はかなり高くなったので、いまはすごく満足しています」

掲載商品の購入やお問い合わせはこちらから
WRAY https://wray.jp/