「本当はあそこのピッチにいないといけない選手だね」
私がそう話しかけると、彼は照れ笑いを浮かべながら言いました。
「いえいえ、まだまだ僕なんて……頑張ります」
今から9年前の2017年11月10日。場所はフランス・リールのスタッド・ピエール・モーロワ。ロシアW杯を半年に控えた日本代表が、ブラジルに1-3で敗れた強化試合のスタンドでした。
当時、オランダのフローニンヘンへ移籍し、海外挑戦を始めたばかりだった19歳の堂安律選手。挨拶を交わした彼の、その謙虚な言葉以上に強く記憶に残ったのは、剥き出しのギラついた目でした。かつて本田圭佑選手と初めて会った時と同じオーラ、そして衝撃がそこにはあったのです。
試合後、一緒に観戦していた藤田俊哉さん(当時VVVフェンロコーチ)に堂安選手の印象を聞かれ、私は本田選手との出会いを引き合いに出しながらこう断言しました。
「次の代表の10番になりますね」
藤田さんは「多くの選手を見てきたコス(私の愛称)がそう言うなら、きっとそうなるんだろうね」と応じてくれました。
あのスタンドの会話から、彼の歩みは加速していきます。
2022年、カタール。世界の舞台でドイツ、スペインからゴールを奪いました。
2023年、日本代表。伝統の背番号10をその背に宿しました。
そして迎えた、日本のW杯開幕戦。
グループリーグ第1戦、優勝候補オランダと2-2で引き分けた激闘。テレビ画面の向こうには、腕にキャプテンマークを巻いて、チームの絶対的エースとしてプレーする彼の姿がありました。
2度追いつき、総合力で食らいついたオランダ戦。大黒柱の姿を画面越しに見つめながら、あの日、フランスのスタンド席で交わした小さな会話の記憶が蘇り、深く感慨に耽っています。
日本の10番を背負う彼の目がギラついているかぎり、チームはベスト8の壁を突き破り、その先の優勝へと突き進むことができるはずです。
