芸人として仕事は順調、周囲から見れば「うまくいっている」と思われる状況だったが、円形脱毛症などの不調をきっかけに芸能活動を休止したティモンディ前田裕太さん。

休止期間を通じて見つめ直したのは、自分を追い込み続けていた「100か0か」の思考だった。活動休止の裏側と復帰までの道のり、そして人生を少し軽くした考え方の変化について語った。

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「60点でも90点でも、100じゃないから全部だめ」完璧主義という名の呪縛

――芸能活動を休止することになった背景を教えてください

前田裕太(以下、前田) ご飯が食べられるようになって、仕事もいただけて、傍から見たら「順調じゃないか」という状態だったんですよね。でも、少なくとも今の自分は幸せと言えないな、という状態になっていた。

ストレスを抱えきれなくなって、体に円形脱毛症などの不調が出てきたことが、休むきっかけとして一番大きかったです。

――精神的にはどういう状態だったのでしょうか。

前田 結局、ずっと野球をしていたなという感じでした。絶対プロ野球選手になるぞ、プロになれなかったら意味がない、という100か0かの思考が、芸人の仕事にもそのまま持ち込まれていたんです。例えば、今回の収録が60点、70点、90点だとしても、100じゃないから全然だめ、価値がないという考えでした。

それだけじゃなく、周りの人に対しても「今チームでここを目指しているんだから、同じくらい頑張ろうよ」って思ってしまっていましたね。

いろんな背景がある人に対して、自分基準で求めてしまう。そういう自他の境界線の問題もあったし、100か0かという思考も重なって、もうちょっとしんどいな、続けるのは、という状態になっていきましたね。

不調のサインに気づいたのは、もっと早くてよかった

――休止を決めたタイミングについて、今振り返るとどう思いますか。

前田 正直、遅すぎたなとは思います。もっと手前から向き合っていれば、もっと早く復帰もできたし、うまく向き合い方を見つけられていたかもしれない。休まなくても済んだ可能性があった。

心の不調で休むのは、社会がだいぶ寛容になってきたとはいえ、やっぱり「病院に行くほどのことか?」って躊躇してしまいますよね。でも今の自分から見ると、ちょっと不調が出たら全然病院に行っていい、そのほうが早く対処できるし、より自分がハッピーになれる向き合い方を模索できると思っています。

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――休止期間中、自分とどう向き合いましたか。

前田 まず思ったのは、人間って動物なんだということですね。しっかり寝てしっかり食べたら、脳みそも含めて回復する。それをずっとおざなりにしてたんです。

しんどいから息抜きにグランピングしようとか、温泉に行こうとか、そういうことより先に、ご飯をちゃんと食べてちゃんと寝ることのほうが、生き物としての回復には確実なんだって。

あとは、自罰的な思考のパターンですね。何か悪いことがあっても、巡り巡って「俺の考え方が悪いだけだよな」と自分を責めてしまうクセがあって。性格を変えるというより、考え方の傾向に対して、ハッピーに生きやすい向き合い方を探していきました。

等身大の自分を受け入れるということ

――休止中に影響を受けたものはありましたか。

前田 休止中にビリー・アイリッシュのライブを見に行ったんですよ。前座が藤井風さんで。ふたりとも着飾る感じじゃなくて、等身大というか、良くも悪くも「こういう私を見て」という感じで表現していて。うわ、俺ビリー・アイリッシュになりたいって思ったんですよ(笑)。

そこで気づいたんですけど、僕がずっとやってきたポリシーって、好きでやっているというよりも、自分の人格が許さないからマイルールにしていただけで。誰かのためじゃなく、自分の中のルールに自分が縛られていた。

必要のないルールがたくさんあったなって。条文を減らしても、守れるものはちゃんとアイデンティティーとして守れる。

気づいたら1人で自分をぐるぐる縛っていたような状態(笑)。それを最低限の縄にした感じです。

考え方の断捨離が生んだ軽さ

――休止期間を経て、何がチェンジしましたか。

前田 考え方の断捨離ですね。仕事でも、例えば過去回を見返したり、台本をしっかりチェックしたりというのを「仕事なら当然やるべき」というスタンスでやっていたんですけど、それを「したくてする」くらいの感覚に変えていく。その若干の力の入れ方の違いが、大きな歪みになっていくんで。

僕の中の野球を、一回手放そうって感じです。チームでもっとやろうよって引っ張り続けてきたあの感覚を、ようやく手放せるようになった。

自分という形をルールで先に作るんじゃなくて、気楽に生きていたら外の環境に削られて、その塊が最終的に自分になっていく。彫刻というより、転がって削られていく石に近い考え方です。そっちのほうが自然で、軽くなれる気がしています。

 
前田裕太
お笑い芸人

1992年8月25日生まれ、神奈川県出身。済美高校から駒澤大学を経て、明治大学法科大学院中退。2015年1月に高岸宏行とティモンディを結成。著書『自意識のラストダンス』(左右社)を刊行。