起業、独立、複業など「自分軸」に沿った選択をすることで、より理想にフィットした働き方を手に入れようとした女性たちのストーリーを追う連載「INDEPENDENT WOMEN!」。

 第5回はいま話題のリノベーション業界において老舗的存在、株式会社Style&Decoの代表を務める谷島香奈子さん。自身が自由に生きたいという思いから辿り着いたビジネスは、リノベーションというその人らしさを形にした暮らしの提案。異業種から不動産、建築業界へ、業界の垣根を越えながらも、自分軸を貫いた起業までのプロセスに迫る前編。

文=小嶋多恵子 写真=小嶋淑子

株式会社Style&Deco代表取締役 谷島香奈子

1978年佐賀県生まれ。福岡大学卒業後、株式会社ノエビア(佐賀支店)に入社。販売実績は全国トップクラス。2004年ネット広告代理店に入社後、2005年トレンダーズ株式会社にて商品プロデュース、広報・PR活動に従事するほか、人材紹介の立ち上げに参画。2006年、28歳で「不動産」と「デザイン」で新しい暮らしを創造する株式会社Style&Decoを起業。業界に先駆けて中古マンションのリノベーション・ワンストップサービス「EcoDeco」をスタート。プライベートでは小3の男女双子のママ。

私もいつか女性経営者として生き生きと働きたい!

 中古リノベーション会社の代表を務める谷島さんは、ユニークなキャリアの持ち主。最初は新卒で入社した地元、佐賀県の化粧品会社の営業からはじまる。ここで早くも生き方の目標、理想の働き方と出会った。

「営業でお会いする方々に女性経営者が多くいらっしゃったんです。みなさんすごくかっこよく、生き生きとしていて、キレイで輝いて見えました。自分もこうなりたい、いつか起業して自由に生きたい!って、強く心に思いましたね」

 でもこの時はまだ入社したての20代前半。

「とりあえず起業の仕方なんてわからないけど、“30歳までに起業する!”ってことだけ勝手に決めました(笑)。じゃあ、それまでの数年間でどんなスキルを身につけたらいいのかを考えはじめたんです」

 振り返ってみると社会人になるまではコンプレックスが強かったと谷島さん。“自分は何にもできない”というマイナス思考から脱却したかったとも。その思いを突き動かしたのが、周りで輝く女性経営者たち。そんな環境に触発され仕事に没頭、結果全国でトップセールスを記録するまでに営業成績を伸ばした。

「かっこいい女性たちへの憧れから、自分も頑張ればできるんじゃないかっていう思いが込み上げてきました。そうしたら結果がついてきて、出世したいなっていう欲が湧いてきました」

 同時に悩みもあった。出世するためには今の会社では全国転勤が必須。当時付き合っていた彼(現在の夫)との将来も考えていたと谷島さん。

「彼のほうも全国転勤の仕事だったし、このままこの会社で頑張っても出世はできない、ここで働き続けることは難しいなと思っていました」

縛られない生き方を探してWEB広告代理店へ転職

 悶々としていた中思い浮かんだのは、周りの女性経営者たち。起業すれば場所に縛られない生き方ができるんじゃないかと考えた。そんな折、付き合っていた彼の東京配属が決まる。

「彼も東京へ行くし、だったら私も東京へ行こう!って、迷いはなかったです。当時はパソコンの黎明期。会社でもメールを使える人なんていなくて、顧客とのやりとりはFAXで、という時代です。ずっとアナログな会社だったから、次はパソコンを使って仕事ができれば場所に縛られない生き方が実現できるかもしれないって思いました。彼からは、“東京にくるのは、君がやりたいことがあるからだよね?自分の責任でくるんだよね?”って何度も念を押されましたけど(笑)」

 新卒から4年半勤めた化粧品会社を退社。起業への思いを抱えて2004年上京、インターネットの広告代理店へ転職する。「どんなビジネスで起業するかは決まっていないけど、IT企業に就職すれば何か見つかるだろうと思っていた」という。転職先の“一人ひとりが社長で”という社訓にも心惹かれたという。しかし現実はちがった。

谷島さんの会社Style&Decoのビルの前で。中古物件探しからリノベーションまでをワンストップで手がける「EcoDeco」がメイン事業。

 

小さくていい、0から1を生み出す仕事がしたい

「歯車のような働き方でした。上場企業だったのですが、出来上がった仕組みの中でずっと同じことをするといった業務内容。0から1を生み出す仕事はここじゃできないって思いましたね。それにこれまで営業で飛び回っていたので、パソコンの前でエクセルの表とにらめっこしているのも正直キツかったです、向いてない(笑)」

 転職したWEB広告代理店を数か月で退社。次の転職先では歯車にならないこと、そして脳裏にあったのは、前職で出会った生き生きとした女性経営者たち。

「小さなベンチャー企業でいいから、女性経営者のもとで働こうと思いました。男性経営者だと、とにかく資金を集めて、上場して、華やかな生活を手にして、って当時はそんな話が多かったんですけど、自分はそういうのを求めていない。それだったら、小さくていいから女性経営者で0から1を生み出している人のもとで、しっかりと学びたいと思いました」

 転職したのはマーケティング、広報をはじめ、女性起業のサポート事業を主とする会社。業界でもカリスマといわれる女性経営者が率いていた。

「いま考えるとよく採用してくれたなと思うんですけど、面接の時から起業したいと言って受けていましたね。でもこの会社に採用されたことは本当に運がよかったです」

起業、女性としての生き方、あらゆるロールモデルが間近に

 仕事に関しても自身の学びに直結した。女性が起業するプロセスを間近で見ることができた。

「女性の経営者って最初に大きな資金を投じない人が多いんですよ。自分ができる範囲で小さく小さく始めて、それを子育てするように大事に育んでいくスタイル。そこに共感しましたね。起業するからっていきなり何千万円借りて、なんて怖すぎるし実際無理な話で(笑)。大きなお金を動かすことは、そんなに興味がなかったです」

 女性としての生き方も影響を受けた。

「業界では有名な敏腕女社長だったんですが、事業でしっかりと稼ぎながらプライベートでは二人の子どもがいて、自分の時間をきちんとコントロールしている。会社という自分の城と家庭、両方を築いている姿を傍で見ていて、“自分もこういう風にやればいいのか”って」

 この女性社長が自身のロールモデルになったと振り返る。働き方、生き方についても刺激を受けて、頭の中ではますます独立後のライフスタイルを具体的に描くようになっていた。当時26歳。

ひらめきを得たマッチングサービスの立ち上げ

 そんな女社長のもと、仕事では新規事業を任された。

「女性社長や女性管理職と企業をつなぐ人材紹介サービスの立ち上げです。今でいうマッチングサービスですよね。当時、社内に人材紹介サービスをやったことのある人は誰もいなくて。私も未経験ながら、社長の指示のもとで試行錯誤し、どうにかこうにか推し進めました。一言でいうと、とにかく大変!(笑)。でもこのプロジェクトのおかげで0から1を生み出す楽しさを経験できたんです。それもお給料をもらいながらできたことは大きかったですね」

 ここで起業するビジネスイメージに辿り着く。今の会社の原形だ。

「自分も起業するならユーザーさんとそれを希望する専門家のマッチングサービスがいいって、この時初めて思ったんです」

建築家とお客さんの気持ちに寄り添うサービスがしたい

 会社で働きながら、並行して起業するビジネスを模索していた谷島さん。その種が見つかったのは、友人と食事をしていた時の何気ない会話だった。

「たまたま友人のご主人が建築家で、飲みながら色々と話すうちに“営業代行やってみない?”って話になり、そこからです」

 降って湧いたような話だったが、漠然としていたものがクリアに見えた気がしたという。直感もあった。事業内容は建築家と一般ユーザーをつなぐマッチングサービス。

「建築家の先生が出す写真って大々的なかっこいいものばかりなんですよね。でも素人から見たらどれも一緒、素敵な建築物としか見えない。それを設計した建築家の人となりはわからないし、逆にお客さんの思いもどこにあったのかまで汲み取れない。なので、建築家とお客さんの両者の気持ちや建物をつくるまでのプロセスを丁寧に取材して、両者に寄り添ったサービスがやりたいと思いました」

谷島さんの会社で手がけたリノベーション物件を紹介するカタログ。それぞれの生活動線や好みにフィットした個性豊かな住宅が並ぶ。

“30歳までに!”自分に誓った区切りでとにかく突き進む

 今でこそ耳慣れたリノベーションという言葉だが、当時はまったく認知度がない。中古やリノベーションに対する世間のイメージ、いわゆる偏見にも谷島さんはとまどい、気持ちが奮い立った。

「当時家を買うっていうとみんな新築マンションなんですよ。中古っていうと“お金がない人が買うもの”っていうネガティブなイメージ。でも古い物件でも内装次第でこんなにもオシャレでかっこよくなる。それを知ってしまった私は、“リノベーションの素晴らしさをもっと世間に知らせなくちゃ!”って。一気に使命感みたいなものが沸いてきたんです」

 “リノベーションの認知向上”という使命感に駆られた谷島さんは、いよいよ独立を決意。女性社長のもとで働きはじめてからおよそ1年半後。起業へのスキルはもう身についていたのかとの問いに「いいえ、でも30歳までには起業しないといけないんで!」と笑う。

「結婚して、出産してってなったら、逆算してそれくらいポンポンポンって進めないと、達成できない」

 独立を決意したものの、固定給のない生活はやはり心もとない。そんな時に付き合っていた彼との結婚も気になっていたという。

「独立したいし、そろそろ結婚もしたいと彼にいいました(笑)。そうしたら彼も心を決めていたようで、“出産とかも考えると男性のタイミングより女性のタイミングで決めたほうが物事は上手くいくよね”って結婚も独立も快諾してくれました」

 20代前半に掲げた“30歳までに起業する”という目標を結果、28歳で達成した谷島さん。まさに有言実行。仕事と家庭、公私同時に人生の新たなスタートを切った。