著名な育児論や教育法はたくさんあるけれど、理想通りにいかないのが子育て。だからこそ、机上の空論ではなく、実際に日々悩み、模索しながら子育てに向き合ってきた先輩たちのリアルな声が聞きたい。そんな思いから、独自の育児をしてきた先輩パパママたちの“子育て論”を聞く本連載。記念すべき初回は、天才と呼ばれる松丸四兄弟の父、松丸 悟さんにインタビュー。後編では、松丸家で実践していた勉強法について伺います。

編集・文=石渡寛子

松丸 悟さん
 

日本で唯一のメンタリストとして活躍する長男・DaiGoさん、独学でプログラミングを取得し、月8億円を稼いだエンジニアの次男・彗吾(けいご)さん、薬剤師の資格を持ち、調香師、ドラマーとマルチな才能を発揮する三男・怜吾さん、東大生の謎解きクリエーターで謎解きブームの仕掛け人でもある四男・亮吾さん。四人の息子たち全員が各方面で活躍する松丸家の父。その子育て論をまとめた著書『松丸家の育て方』(repicbook社)が話題。

 

「勉強しろ」は禁句! それでも机に向かわせるには?

 将来のことや親のエゴは一切押し付けない。それでも勉強にしっかり取り組んでいた松丸家。その根本にはひとつの考えがあったという。

「子供から“なんで勉強するの”と言われたときに、真剣に答えることが大事だと考えていて。よく言ったのは、中学で得た知識、高校で得た知識、大学で得た知識、また違った専門的な勉強したとき。勉強して得た知識が多ければ多いほど、自立するときの考えの裾野が広がる。それが大事だと伝えました。

 勉強のできる、できないではなくて、経験したことによって、自分の考えで生きていく。そのほうが将来を見据えた目標をはっきりと持つことができるんじゃないかという想いがありました」

写真提供:『@松丸家の育て方』

 さらに、「勉強しろ」と直接的に言うことは、逆効果になることもあるという。

「亮吾がよく言っていたんですけどね。“勉強しろ”って言われると、やろうと思っていたのにやる気がなくなるそうです(笑)。それに、言いすぎるとそれが当たり前になって、まったく反応しなくなってしまう」

 そのため、言葉で言うのではなく、勉強に意識が向くような仕組みを作ってあげることに注力した。

勉強するための「やる気スイッチ」を探すこと

 ひとつは、大人が率先して本を読んだり、問題を解いたりする姿を見せること。

「子どもが小さいころは、妻がよく食卓でクロスワードをやっていて。それを見た子どもが近づいてきて一緒に机に向かって解いたりしていましたね」

 子どもたちが勉強をしない時期はどうすればやる気が出るかを考えた。

「小学生のとき、ゲームばかりして勉強しない子どもたちを見かねた妻が、“2時間勉強したらゲームし放題”という提案をしました(笑)。それを日々続けて内容が理解できてくると、勉強が楽しくなってくるんですよね。逆転の発想といいますか、そういう作戦です」

 子どもそれぞれの性格を考慮して「やる気スイッチ」をオンにすることも効果的だと語る。

「これは亮吾の話なのですが、小学4年生のときに長男・大吾の大学受験の結果が出て、東大に行けなかったという電話を横で聞いていたんです。負けず嫌いで大吾への対抗心の強い亮吾は、この話を聞いて“僕が東大に行く”と宣言をしたそうです。そこで妻は、“東大に行くには、まず中学受験に成功しないと”とうまく誘導し、受験勉強へ火がついたようです」

 しかし親が手助けせずとも自らスイッチを見つける場合もあるという。

「亮吾は子どものときから、ゲーム感覚の算数問題を作って塾の友達に出題して遊んでいたのですが、みんながそれを楽しそうに解いているという噂が他のクラスにまで広がって。当時亮吾より下のランクのクラスにいた親友が仲間に入りたくなったそうです。その子は勉強を頑張って亮吾と同じクラスにまで上がってきたという。これもひとつのやる気スイッチですよね。

 妻は、せっかく入ったスイッチが切れないよう、勉強の波に乗っているときは無理に中断せず、食事の用意ができても声をかけずに食事の時間を遅らせる、ということもやっていましたね」

写真提供:『@松丸家の育て方』

 

子どもを責める前に、親が反省する

 “天才四兄弟”と呼ばれる松丸家でも、学生時代は常に満点というわけではなかった。そんな時は、できなかったときこそ繰り返し解くことで克服できると指導し、励ましたという。

「妻がよく子どもたちに言っていたのは、“満点よりもとにかく間違えた時が大事だよ”と。亮吾のときは間違った問題だけを一冊にまとめた〈過去問ノート〉を作り、問題が解けるまで繰り返しやらせていました。

 また、テストの点数が悪いと、妻はかなり落ち込んでいました。自分の接し方、教え方がいけなかったのだと反省する。決して子どものせいにはしなかった。そして先ほどお話しした〈過去問ノート〉のように勉強法を考えて実践していました。この姿を見て亮吾は、“母親の反省している姿が子どもながらに心に響き、勉強を頑張らなくてはという気持ちになった”と話していました」

松丸家の壁に鎮座する、子育ての「ハヒフヘホ」

 松丸家のリビングの壁には、「子育てのハヒフヘホ」を書いた紙が貼ってある。四兄弟の育児の末辿り着いたこの言葉には、松丸家の子育てに関する方針が集約されている。

ハ=励ます
ヒ=引き出す
フ=奮発させる
ヘ=へこたれない
ホ=褒める

「ここには、“勉強しろ”という言葉を入れていないんです。ダメだったときも間違えることが大切なんだと“励ます”。興味のあるものを一緒に探して “引き出す”。東大に行きたいと言う子どもをうまく誘導して勉強を“奮発させる”。弱点が克服できるよう“へこたれない”仕組みを考える。うまくいったときにはとにかく“褒める”。中でも褒めることはよくやっていました。間違えたとしてもここの過程まではよかったねとか、最近頑張っているなぁと声をかけたりもしていました」

 一貫しているのは、我が子としっかり向き合い、性格、興味、思考に気づき、その子らしい成長をただサポートする姿勢。“こうなってほしい”というエゴではなく、ありのままを受け入れること。とはいえ、このままでいいのか?と不安になることはなかったのだろうか。

「もちろんありました。特に彗吾の暗黒期には(笑)。彗吾は高校を卒業してからの数年間、バイト以外は部屋に引きこもっていた時代がありました。新しい環境に馴染むことが苦手な彗吾は大学に馴染めず、中退したいと言い出しました。

 最初はかなり反対しましたが、最終的には“彗吾の人生なんだから、彗吾の好きにしなさい”と退学を認めました。当時は心配しましたが、その後彼女(現在の奥さん)との出会いで大切なことに気づかされ、奮起してエンジニアの道へ進んだので、今となってはこの時間は無駄ではなかったのだと感じています」

 まさに紆余曲折。最後に、今子育てに悩む親御さんへのアドバイスを伺った。

「今回お話ししたことは我が家で実践していたことであって、すべてが正しいとは考えていません。ただ、やはり大切だと思うのは、子どもを信じることですね。よく“うちの子は勉強できなくて困る”とおっしゃる親御さんがいらっしゃいますが、その時点で子どもの価値を下げてしまっていると感じます。一生懸命やっているのに、親が勉強できない子とレッテルを貼ってしまうのは絶対だめなんです。

 頑張ればできる子だと信じてあげることによって、子どもはそれを感じます。小さいときに勉強できなくてもスイッチが入った途端にバーンと伸びる子もいるわけで、それを後押しできるような雰囲気を作ってあげる。だからもう、子どもを信じることですね。今は大変だと思いますが、ひと段落して振り返るとね、子育てしていたときって一番楽しいんですよ(笑)」

 松丸 悟さんの著書『松丸家の育て方』は、親と子の対談という新しい方式で子育て論が展開されている。親の気持ちも子の気持ちも理解することで、自分なりの子育てのヒントが見えてくるかもしれない。

好評発売中!

松丸 悟、メンタリストDaiGo、松丸彗吾、松丸怜吾、松丸亮吾著
天才といわれる松丸四兄弟が父と対談し、松丸家の教育方針や教育環境を余すところなく語る。幼少期の秘蔵写真も満載。