2025年10月シリーズで日本代表がブラジルを相手に劇的な逆転勝利を収めた。前半だけで0-2とリードを許しながら、後半に3点を奪い試合をひっくり返した。この「バスケのような展開」を、サッカージャーナリストのミムラユウスケ氏はどう読み解くのか。勝利の構造から北中米ワールドカップに向けた戦い方の青写真まで、徹底的に語り尽くしてもらった。
ミムラユウスケ「森保ジャパンW杯観戦術」
【動画16】森保ジャパン・ベストバウト vsブラジル
【INDEX】
・ブラジル戦の印象
・前半の0-2をどう評価する?
・なぜ引いて守る戦術を採ったのか?
・ブラジルと再戦したらどう戦うべき?
・前線からのプレスの使い方
・日本は引いて守るべき?前から行くべき?
・戦術を落とし込むコーチ陣がいない?
・ブラジル戦の戦術は指示?選手主導?
動画時間(24分23分)
「バスケに似た試合」——前半の0-2が必然だった理由
――今回の(2025年)10月シリーズ、とりわけブラジル戦の逆転勝利について振り返ってください。あの試合、率直にどんな印象を持ちましたか?
ミムラユウスケ:なんかバスケットボールの試合を見ているようだな、って感じましたね。バスケは積み重ねのスポーツで、番狂わせが比較的起きづらいと言われているんですけど、実力が拮抗したチーム同士でも前半に15点、20点の差がついてしまうことはある。でも、そこから意外と最後は接戦になることが多いんです。なぜかというと、大差がついてしまうと追う側はもうやることが一つしかない。どんどんリスクを犯して攻め込んでいくことで、大きな力となって違う展開が生まれる。あのブラジル戦はまさにそれを思い出させるような試合でしたね。
――前半の内容はどう見ていましたか?
ミムラユウスケ:前半はミドルゾーンにブロックを作って、そこからのカウンターやボールを持ってからの仕掛けという形で、悪くない内容はしていたんです。ただ相手にトータルシュート3本のうち2本を枠内に打たれて、その2本ともゴールを決められてしまった。失点の原因を突き詰めていくと、日本では本職がサイドバックではない選手——堂安と中村の2人がウィングバックとして出ていたわけですが——守備時は5-4-1のサイドバック的な動きをしないといけない中で、ディフェンスラインに入ると彼らの強さがなかなか生かしづらい。その2人とも失点に関与していた。だからああいう状況であれば、0-2になるのはあり得ることだったかなとは思います。
――では前半の0-2という結果自体はやむを得なかったと。
ミムラユウスケ:極端な話をすれば、2失点目はフォーメーションとそこに配置した選手についての監督の決断のミスかな、とは思います。ブラジルの前線の選手たちのポテンシャルを考えれば、あの2人があそこに入る以上、ああいう形で失点してしまうのは試合の能力的に仕方がない部分はある。もし橋岡選手と瀬古選手を両サイドバックにスタメン起用して、後半から堂安と中村を投入する形にしていたら、0-0の状態から得点を奪いにいく展開もできたかもしれない、とは思いますね。
「選手の質では負けていなかった」——逆転の必然性
――それでも逆転したわけですが、後半に3点が生まれた背景をどう分析しますか?
ミムラユウスケ:前半も後半も日本はゴール期待値で相手を上回っていたんです。そういう中で、追いかけないといけないという状況になって、日本がやることがもうはっきりした。どんどんリスクを犯してハイプレスをかけ、ボールを取れなくてもゲーゲンプレス(ボールを奪われた直後に即座に奪い返しに行く守備)で近いところから追いかけていく。そういう形から3点が生まれたというのは、試合を通して日本のほうが選手の質では実は上回っていたとも言えると思っています。スタメンの11人を比べたとき、日本は選手の質で負けていなかった。むしろ勝てるぐらいの状況だったということですよね。
――ブラジルのメンバー構成も影響していたのでしょうか?
ミムラユウスケ:大きいですね。ブラジルは韓国代表戦からスタメンを8人も変えていたんです。1点目につながったミスをしたブルーノも代表キャップ4試合目で、しかも国内組。これがミリトンとガブリエルの2人だったら、あんなミスは起きなかったし、日本がハイプレスに行ってもかわされるだけだったと思います。ヴィニシウスやマルティネッリ、パケタあたりは能力が高かったけれども、トータルで見ると個の質でまったく負けていないぐらいのレベルにはあったかなという気がします。
アリソンがいたら、と考えると話は変わっていて、あの3点のうちいくつかは止められていたかもしれない。それだけの能力を持った選手ですから。ガブリエルに関しても、アーセナルでガブリエルが出るとビルドアップの質がまったく別物になるぐらい貢献度が高い選手なので、日本の1点目のようなゲーゲンプレスからの得点は生まれなかった、とは明確に言えますよね。
なぜ前半は「引いて守る」戦術を選んだのか
――それまでの3試合では前から行くスタイルでしたよね。なぜブラジル戦だけ慎重な入り方になったんですか?
ミムラユウスケ:いくつか理由があると思っています。メキシコ戦とパラグアイ戦は最初の15分から20分の間はハイプレスをかけるという意思統一があった。ただその2試合で勝てなかったというのが一つ。もう一つは、パラグアイと試合をしたとき、ハイプレスで行くとどうしても最終ラインが数的同数で守らないといけない局面が生まれる。パラグアイもブラジルも4-1-2-3のような形なので、ハイプレスに行くと日本の3センターバックと相手の3トップが数的同数になってしまう。そこで誰かが足を滑らせるだけで失点につながるようなクオリティが相手にはある。パラグアイ戦の前半途中からも「ハイプレスをかけすぎるのを修正しよう」という声があったし、それを踏まえてブラジルはパラグアイよりさらに前線の個の能力が高いんだから、最初からそれをやるのはリスクではないかという意見が選手側から出て、みんながそうだなということで最初の15分から20分のハイプレスをやめた、ということですね。
――ハイプレスを完全にやめたわけではなかった?
ミムラユウスケ:そうです。例えば相手がゴールキーパーにバックパスしたようなときはハイプレスに行く、というコンセプトは試合を通して持っていた。ただトータルとしてハイプレスをかけ続けるのはやらなかった。前半のゴールキックのシーンを映像で見返すとハイプレスに行っていないので、そこは明確に違いが出ていましたね。
――前後半でボール支配率のデータも興味深いですよね。
ミムラユウスケ:前半が31%、後半が35%なんですよ。数字は近いけれど意味がまったく違う。...
