スポーツライターとしてほぼすべての日本代表戦を現地取材してきたミムラユウスケ氏が、2023年の日本サッカーを二人のリーダーの発言から振り返る。森保一監督がこの一年で発した言葉には、カタールW杯の反省から北中米W杯への明確なビジョンの転換が凝縮されていた。キャプテン人選の迷い、WBCから学んだ目標設定の哲学、そして「ヘッドコーチ型からマネージャー型へ」という自己革新の宣言——現場で拾い上げた生の声をもとに、単なる試合結果では見えてこない日本サッカーの深層に迫る。

【テーマ】
ミムラユウスケ「森保ジャパンW杯観戦術」
【動画11】指揮官の言葉で振り返る「森保ジャパン8years」(1)

【INDEX】
・リーダー名言①「キャプテンはすごく大切ですか?笑」
・リーダー名言②「野球(侍ジャパン)のように世界一を本当に狙って世界一という目標を持って……」
・リーダー名言③「村上(宗隆)選手を監督が信じたという美談。その一部だけを見られているけど……」
・リーダー名言④「試合のメンバー、打順を少しずつ変えている……」
・リーダー名言⑤「これまではヘッドコーチ型、コーチ型の監督で現場を指揮しながらやっていた。今はマネージャー型の監督をやろうと思っています……」
動画時間(14分55分)

「キャプテンはすごく大切ですか?」――二月、成田空港での問答

 

――2023年の日本サッカーを振り返るにあたって、どのような切り口で見ていくのでしょうか。

ミムラユウスケ:今回は二人のリーダーの発言を軸に一年を時系列で追っていこうと思っています。こういうことを言っていたから、ああいう結果につながったんだ、という流れで見ていただくと面白いと思います。まず森保監督のコメントから始めましょう。

最初に取り上げたいのは、2023年2月のヨーロッパ視察です。森保監督はカタールW杯後に欧州に渡り、W杯を経験した選手たちから直接意見を聞いて回りました。そのなかで特に印象的だったのが、堂安律選手が所属するフライブルクを訪問し、クリスティアン・シュトライヒ監督と意見交換をした場面です。シュトライヒ監督は当時のドイツ最優秀監督に選ばれた方なんですが、森保監督が聞きたかったのは「どうしたら選手に厳しいことを言えるのか」ということだったそうです。

――それはどういう背景から生まれた疑問なんですか。

ミムラユウスケ:堂安選手がフライブルクを選んだ理由が面白くて。他のクラブはみんな「あなたにはこういう素晴らしい点がある、ぜひ来てくれ」という売り込み方をするんですが、シュトライヒ監督だけは「お前にはまだこの部分が足りない。その部分を伸ばしてあげるからうちに来い」と言ったそうです。堂安選手はその率直さに引かれてフライブルクを選んだわけです。森保監督はその話を聞いて、自分もそういう厳しい言葉をどうやったら言えるんだろう、と学びに行ったわけですね。

視察から帰国して、ちょうど成田空港で取材する機会がありました。翌日にカタールW杯後初めての代表戦を控えていて、記者から「キャプテンは誰にするんですか」という質問が飛んだんですよ。以前は吉田麻也選手がキャプテンを務めていましたが、その後を誰が担うのかという問いです。そのとき森保監督がまず言ったのが、「キャプテンはすごく大切ですか?」という逆質問でした。

――意外な返しですね。

ミムラユウスケ:ちょっと笑いを交えながら、「いやキャプテンについてはまだ考えていないんですよ、アイデアもないんですよね、むしろ誰がいいと思いますか」とメディアに逆質問するような場面もあって。その根底には、森保監督の考えとして、一人のリーダーに依存するよりも全員がリーダーとしての自覚を持つべきだという哲学があったようです。だから悩んでいたし、あえてはぐらかす部分もあった。最終的に遠藤航選手がキャプテンになって、それは本当に素晴らしい選択だったと思いますが、この(2023年)2月の段階ではまだ模索中だったんです。

「野球のように世界一を本当に狙わないとだめだ」――WBCから学んだ目標設定の哲学

――(2023年)3月には日本中がWBCで盛り上がっていましたが、森保監督はその熱狂をどう見ていたのでしょうか。

ミムラユウスケ:3月の代表戦のタイミングで、WBCについてコメントを求められた森保監督が、普段はあまり言わないようなことを二つ語っていたので、そこを紹介したいと思います。

一つ目は、選手へのミーティングで「野球のように世界一を本当に狙って、世界一という目標を現実的に追いかけていかなければだめだ。世界一を狙うことによって初めて世界一を達成できる」と伝えたという話です。これはカタールW杯への直接的な反省でもあって、あのときは「ベスト8以上」という目標設定だったんですね。でも選手のなかにはW杯優勝を意識していた人もいた。ベスト8以上という目標だと、どうしても視点が低くなってしまう。だからベスト16で止まってしまったんじゃないかという分析が森保監督の中にあったようです。

――カメラの前で言いたかったけれど、うまく言えなかったというエピソードもあったそうですね。

ミムラユウスケ:そうなんです。テレビカメラの取材に応じたあと、記者との雑談のなかで「さっきカメラの前でこの話をしたかったんですが、うまく言えなかったんですよね」と苦笑いしながら話していて、その場にいた記者たちも笑っていました。それだけ森保監督がWBCをリスペクトしながら、真剣に自分のチームに置き換えて考えていたということだと思います。

二つ目は、もう少し玄人っぽい視点というか、WBCの準決勝で村上宗隆選手が大事な場面で打って試合を決めた、あの美談の「裏側」に着目していた点です。栗山英樹監督が村上選手を信じたという話は広く伝えられましたが、森保監督が言っていたのは、実は使われなかった選手もいる、そういう選手を栗山監督はしっかりケアしていたんだなと感じた、ということでした。

――それは北中米W杯に向けた伏線でもあるわけですね。

ミムラユウスケ:まさにそうです。さらに具体的な話で言うと、カタールW杯のコスタリカ戦で大幅なターンオーバーをしましたよね。次の北中米W杯でも同じことをやりたいという思いは常に頭にあるようです。加えて、北中米W杯からはフォーマットが変わって、決勝まで進むなら8試合を戦わなければならない。以前は最大7試合でしたが、一試合増えた。仮に26人登録できるとしても、短期間での8試合はメンバーを入れ替えながら戦わないと乗り越えられない。だからWBCの「打順や選手をうまく変えながらチームを運営していた」栗山監督のスタイルに、強いシンパシーを持って見ていたんだと思います。...