2025年11月シリーズでガーナとボリビアに快勝した日本代表。町野の台頭と久保のセットプレーキッカーとしての成長という収穫がある一方、強豪相手に問題が起きなかったことが最大の不安材料だという逆説的な見方がある。原理原則を持たないチームは問題が起きて初めて修正の糸口を見つけられる——サッカーライターのミムラユウスケ氏が、日本代表の構造的な弱点と2026年3月ヨーロッパ遠征に向けた課題を鋭く分析した。
ミムラユウスケ「森保ジャパンW杯観戦術」
【動画8】森保ジャパンの強みと弱み(3)
【INDEX】
・11月シリーズ振り返り
・「勝率の悪い」南米勢ともっと試合をやるべき
・ボリビアとの差は「選手層」
・後半開始15分、日本のボール支配率は「35.6%しかなかった」
・11月シリーズの収穫と課題
・町野修斗の起用法が見えてきた
・3月シリーズは「久保を生かした0トップシステムを試したい」
・CK精度が高い久保は外せない
・11月シリーズ最大の残念な点
・ブラジル戦の反省点いつ生かす!?
・原理原則のないチームづくり「構造的問題が…」
動画時間(26分09分)
ガーナ戦は「試合前から勝負がついていた」
――(2025年)11月シリーズ、ガーナとボリビアに勝利しましたが、ミムラさんはどう受け止めていますか。
ミムラユウスケ: 結果は完全に良かったですよね。ガーナに関しては、結構4バックでやることも多い中で、5バックで来たというのは日本をものすごくリスペクトしていたということだと思います。試合後にも色々な選手たちが日本の選手たちにユニフォームの交換を求めてきていて、あの試合がデビュー戦だった北野選手とまで交換してほしいと言ってくる選手がいるというのは、それだけ日本をリスペクトしていたのかなと。5バックで構えてくれた分、日本としてはやりやすい戦いになりましたね。
あとガーナは試合中に結構、時差ボケが大変だみたいなことをピッチレベルで選手たちにも言っていたらしくて。アフリカの選手たちはヨーロッパでやっている選手が代表戦のために長距離移動して時差とも戦わないといけない南米や北中米と違って、北アフリカを除けば長距離移動は同じだけど時差と戦う必要はないわけですよ、南北の移動ですから。だからそういう意味でアフリカの選手チームとやるとこれだけコンディションが悪いんだなということがありますし、逆にもうホームでアフリカ勢と試合をやる必要はあまりないかなというのを感じましたね。2006年とか2010年ごろのほぼフルメンバーのガーナとやるなら意味があると思いますし、今のほぼフルメンバーのモロッコとやるとかだったら意味があると思うんですけど、そうじゃないときはあまり意味がないかなという気がしました。
――一方でボリビア戦はどう見ましたか。
ミムラユウスケ:ボリビアに関しては、後半突き放しましたけど、前半は相手に結構押し込まれる時間もあって、前半ラスト15分の日本のボール支配率は45パーセントしかなかったんです。前半トータルで52.5パーセント。後半の最初の15分に至っては35.6パーセントしかなかったので、前半の最後と後半の最初の計30分はむしろボリビアペースだったと思うんですよね。
日本がそこを上回ったのは選手層の差でした。中村選手、上田選手、町野選手の三人を67分に同時投入したことでガラッと流れが変わって。ボリビアはかなり若い選手が多くて、まだこれからチームを伸ばしていこうという段階なので、その選手層の差が如実に出たのかなと。南米勢はワールドカップ出場の可能性がゼロのチームを除いた中で一番下のランキングのチームでも、日本は総合力では勝てる。それぐらいの感じでしたね。
町野と上田の同時起用に「一つの形」が見えた
――11月シリーズの収穫と課題を挙げるとすれば、どのあたりでしょうか。
ミムラユウスケ: 収穫の一つ目は、町野選手の使い方に形が見えたことですね。彼はわずか23分+アディショナルタイムしか出ていないんですが、上田選手との同時起用で攻撃の矢印が前向きになり、鎌田選手なんかも前線に行ける場面ができて全然違った。町野選手自身は自分の本当のポジションを「9.5番」と言っていて、センターフォワードを表す9番とトップ下を表す10番の間みたいな役割なんです。代表でのはまりどころはシャドーだと思うんですが、あのゴールシーンで右のゴールエリアに入っていったのを見て、久保選手が「自分だったらあそこまで入っていかなかったと思う、すごく勉強になった」と言っていたくらいに、ほかの選手にはない特徴を出せた。
上田選手との相性でいうと、フェイノールトでのプレーを見ると分かりやすいんですが、上田選手はツートップ気味の関係が作れると得点が取りやすいんです。ワントップだと味方のために顔を出したり相手を引き連れたりという仕事を一人でこなさないといけないけど、ツートップだと二人で分担できるから、もう片方は自分のやりたい動き——たとえば得点を取るために最もいいポジショニングを取ることに集中できる。フェイノールトで解説者のアデモスさん(元浦和レッズ、アヤックスほかで監督を務めた人物)が「上田の成績が良いのはスタインとの関係が良くて二人で中央のエリアをカバーできるから」と言っていたのと全く同じことが、日本代表でも起きたわけです。
町野選手はセンターフォワードもやれるし、ボルシアMGでのプレーを見ていても、ツートップのセカンドトップ的な役割やシャドーの一角といったポジションが合っている。だから上田選手の仕事もしやすくなり、町野選手の特徴も出やすいという意味で、このコンビネーションは大きな発見でした。
森保監督は今のところ町野選手を途中交代のオプションとして考えていると思うんですが、僕はそこにとらわれすぎてほしくないというのが本音で。6月に町野がワントップをやって久保、鎌田がツーシャドーを組んだとき、三人ですごく流動的な前線の動きができていたんですよ。上田選手という生粋のセンターフォワードを使わない試合でそういう形を試すのも、一つの選択肢として持っておいてほしいと思っています。
久保がいよいよ「外せない選手」になってきた理由
ミムラユウスケ:もう一つの収穫は、久保選手がコーナーキックのキッカーとして質が一段上がったことです。特にニアに速いボールを蹴れるようになってきた。日本代表のセットプレー担当コーチである前田コーチが「どんなに動きを作り込んでも、6〜7割はキッカーで決まる」と言っているくらいで。
実際に板倉選手に聞いた話として印象的だったんですが、アヤックスが今シーズンのチャンピオンズリーグ初戦でインテルと戦ったとき、インテルはコーナーキックからの得点がチャンピオンズリーグ出場36チームの中で最も多いチームだったんですね。板倉選手がインテルのコーナーキックの強さの秘訣を一言で言うとと聞いたら「キッカーだ、狙ったところに本当に蹴ってくる」と答えたそうで。チャンピオンズリーグ一番ということは世界一と言ってもいいわけですから、その世界一の強さの要因がキッカーだということです。
久保選手はドリブルなどで注目されがちですが、あのセットプレーのキックを見てしまうと、シュートを打っていないとか個人としての攻撃貢献という目線とは別に、もうこの選手は外せないなという感じがしますね。ガーナ戦でゴールにはならなかったけれど、谷口選手がヘディングした場面も、ニアのストーンの選手の背後で上田選手が待って、蹴る直前にストーンの前に出てブロックし、できたスペースに谷口選手が入ってくるという非常にデザインされた形だった。いくら動きを作り込んでも、あそこに蹴れるキッカーがいなければ成立しないわけです。ひょっとしたら中村俊輔選手のほうがフリーキックから直接ゴールを狙う能力は高いかもしれないけれど、コーナーキックから味方のゴールを演出する力は久保選手のほうが高いんじゃないかと思えるくらいの精度になってきました。
ただ本大会で全試合フル出場は無理ですから、もう一人のキッカーをどうするかというのは考えていかないといけないとは思っています。
問題が起きなかったことが最大の不安材料
――課題という観点ではいかがでしょうか。
ミムラユウスケ: 今回の最大の問題点は、ブラジル戦のように攻め込まれる時間帯がなかったことです。うまいチームに圧倒的に押し込まれる場面がなかったことで何が問題かというと、ブラジル戦での2失点の原因をまだ修正できているか確認できなかったんですよ。1失点目は左ウィングバックの中村選手がいるべき場所にいなくて外側についていってしまったこと、2失点目は堂安選手と渡辺選手の間を割って入ってきたマルティネッリに堂安選手がついていかなかったこと。
このシステムの一言でいうと、ウィングバックに本職のサイドアタッカーではなく攻撃の特徴が強い——これまでディフェンダーとして長くプレーしてこなかった選手を置いているということです。攻撃ではその良さが出るけれど、守備になったときにこういう問題点が出てくる。問題が実際に起きれば選手たちは「じゃあこうしなければいけない」と分かるんですが、そういうトレーニングになる機会がなかったというのが今回の最大の残念なポイントでした。
「構造的問題を相手に伝えてもいいくらいの練習試合を」
ミムラユウスケ:今の日本代表は、原理原則を徹底させるチームづくりをしていないと思うんです。...
