2025年12月ーーW杯組み合わせ抽選会を経て、日本はオランダ、チュニジア、欧州プレーオフB(のちにスウェーデンに決定)と対戦することが決まった。Optaのパワーランキングでは全12グループ中3番目の厳しさと評される「死の組」を、日本はどう戦い抜くのか。サッカーライターのミムラユウスケ氏が、グループの難易度から対戦相手の特徴、環境面の有利不利まで、データと経験則をもとに丁寧に解き明かす。決勝まで8試合を戦い抜くための戦略、そして優勝を現実のものとするための条件とは何か。

【テーマ】
ミムラユウスケ「森保ジャパンW杯観戦術」
【動画3】W杯優勝のシナリオ(前編)

【INDEX】
・ブラジルとモロッコ、どちらと対戦したくない?
・グループF、ライバルの印象
・グループリーグ突破の可能性と条件
・環境面では恵まれた。その理由は?
動画時間(20分34分)

「ラッキーかアンラッキーか、正直50点の印象」

――12月5日の組み合わせ抽選を受けて、最初の印象を教えてください。

ミムラユウスケ:今回のワールドカップの一番の特徴は、決勝まで8試合あること。そしてアメリカという広大な土地で開催されるため、高地もあれば暑い地域もあって、しかも大陸内で時差まである。トータルで言うと、かなり過酷な大会になると思っています。

その「環境の過酷さ」という観点でいえば、実は日本にとってかなりいい方向に入れたというのが一つあります。ただ、対戦相手やF組に入ったこと――1位通過してもブラジルかモロッコと当たるとか、そういったところは厳しい。大きく分けると一勝一敗というか、消耗する要因はかなり減ったけれど、決勝に向けては結構早い段階から強いチームとやらないといけない難しさが出た。ラッキーかアンラッキーかと言われると、ほんと50点って感じですね。

 

――森保監督も「非常に厳しいグループ」とコメントしていましたが、ミムラさんも同じ見解ですか。

ミムラユウスケ:まず単純に、ウクライナがヨーロッパプレーオフから上がってきたと仮定した場合、グループ内のFIFAランキングを合算すると合計値が全グループの中で最も小さくなります。つまり、上位のチームがそろっている。オプタのパワーランキングで各チームのレベルを合算しても、12グループ中3番目に厳しいグループという評価が出ています。さらに初戦でグループ最強のオランダと当たらないといけない。

しかも、いわゆる「三強一弱」の弱いチームがいない構成なんです。キュラソーやカーボベルデのような格下が入っていれば、そこで勝ち点を確実に計算できるんですが、それができない。そういう意味でも厳しいグループだと言えますね。

ちなみにOptaで最も厳しいとされているのは、アルゼンチン、アルジェリア、オーストリア、ヨルダンのグループJだそうです。2番目がフランス、セネガルらのグループI。そこと0.1ポイントしか違わない僅差の3位が日本のいるグループFという状況です。

「ブラジルとモロッコ、嫌なのはどちらか」

――決勝トーナメント1回戦を突破した場合の相手がブラジルかモロッコというのは、やはり厳しいですね。

ミムラユウスケ:ブラジルが日本との親善試合のようにポゼッション型の戦い方をしてくるなら、むしろやりやすいと思います。今のブラジルは必ずしもポゼッション型のチームではないし、アンチェロッティ監督も学ぶでしょうから、日本戦でああいう戦い方はしてこない可能性が高い。

あの戦い方をするなら、モロッコのほうが嫌です。日本にとって一番相性が悪いのは、相手が日本をリスペクトして強者の戦い方をしないチームなんですよ。モロッコはしっかり相手にボールを持たれても全然構わない、守って戦うチームですから。そういう意味ではモロッコのほうが嫌ですね。

ただ、モロッコの全選手が最高の力を出す場合とブラジルの全選手が最高の力を出す場合を比べたら、そりゃブラジルのほうが全然嫌なんですが、果たして彼らがそういう戦い方をするかどうか。アンチェロッティがどう考えるかですね。

 

「チュニジアは個の力では劣るが、日本と最も相性が悪いかもしれない」

――グループ内のライバルについても聞かせてください。オランダはどう見ていますか。

ミムラユウスケ:オランダは日本戦に限らず、強者の戦い方というかポゼッション型のサッカーをしたがっています。ただ、守備的なポジションにプレミアリーグのオールスターのような選手がそろっているのにポゼッション型という、ちょっとちぐはぐさがある。そこがオランダが優勝候補から一段落ちる理由でもあって、自分たちのサッカーをしてくれるなら日本としてはありがたい。

攻撃のスケールは、ロッベンやスナイデルがいた時代に比べると明確に下がっています。ガクポもマーレンもいい選手ですが、あの頃ほどの強さではない。守備は上がっているけれど、攻撃は確実にスケールダウンしていますね。

――チュニジアはどうでしょう。

ミムラユウスケ:チュニジアはチーム全員で守るサッカーをしていて、明確な戦い方がある。そういう意味で日本としてはやりづらいタイプです。前回大会のコスタリカ戦のときに似たイメージですね。

トランスファーマルクトの市場価値で比べると、日本の1位は三笘選手で3500万ユーロ。チュニジアの1位はメイブリ選手で1200万ユーロ、これは日本だと13〜14位ぐらいの価値しかない。10位で比べても、日本は上田選手・前田選手が1500万ユーロ、チュニジアのアリアフディ選手(ニース)は300万ユーロです。個々の選手の力は日本のほうが明確に上。ただ、チームで戦ってきて守備から堅守速攻を仕掛けてくるスタイルは、日本の強みであるプレッシングからのショートカウンターが行きづらい。チュニジアはレベルが一番落ちるかもしれないけれど、日本との相性で言うと実は一番悪いかもしれないくらいですよ。

「初戦を落としたら、過去3回すべてグループ最下位」

――初戦のオランダ戦が特に重要だとおっしゃっていましたが、その理由を教えてください。

ミムラユウスケ:日本が過去7大会を振り返ると、初戦で勝ち点を上げたときはすべてグループリーグを突破しています。初戦で勝った場合は2位が2回、1位が1回。初戦で引き分けた場合も1位抜けしている。逆に初戦で負けた場合は3回あるんですが、すべてグループ最下位なんです。

つまり、一番負ける確率が高いオランダと初戦でやるというのは、かなり難しい状況を意味します。心理的にも追い込まれるし、負けたら次は必ず勝たないといけなくなる。そうなると戦術的な幅も狭まるし、決定力も低下しかねない。だからこそ、オランダ戦にすべてをかけるくらいの準備が必要だと思います。

――グループリーグ突破の可能性は何パーセントくらい見ていますか。

ミムラユウスケ:今回は3位まで決勝トーナメントに進めるルールなので、50パーはあるんじゃないですか。日韓大会を除いた歴代大会の中でも最もグループリーグ突破の可能性が高い状況だとは思います。ただ、ほかのグループと比較したときの難しさは間違いなくある。簡単ではないというのはそういう意味での比較です。

「環境面では最も避けたい三つがなかった」

――対戦相手とは別に、会場や気候の面ではどうでしょう。

ミムラユウスケ:環境面はかなり良かったですね、本当に。ダラスとヒューストンはアメリカでも最も暑い地域に入るんですが、だからこそカタールのようにドーム型の空調が効いた会場が整備されている。試合中は非常に快適な温度でできます。観客席が寒いくらいです。

一番過酷な要素は三つあると思っています。一つ目が高地での試合、二つ目が東海岸での試合、三つ目が時差を伴う移動です。高地は試合後のダメージが次の試合に響く。東海岸はクラブワールドカップのときのように悪天候や雷による試合中断のリスクもある。そして開催国と同じグループだったりすると、中地区だけでなく西地区でも試合をしなければならない状況が生まれるチームが出てくる。

今回の日本はその最も避けたい三つが全部なかった。これは非常に大きいと思います。

モンテレイは日中の気温が35度にもなるんですが、日本の試合は現地時間22時キックオフで、過去5年の平均気温で言うと27度程度。日差しもなく、気温も湿度も比較的抑えられた状態でやれる。ダラスとの移動も2時間程度ですから移動負担も少ない。

ただ、ヒューストンで試合をする場合のキックオフが現地時間11時というのはちょっと気になります。前回大会で13時キックオフのコスタリカ戦を経験した田中選手が「朝から無理して大量に食べないと力が出なかった」と反省を語っていたくらいで、慣れない早い時間帯の試合は体のリズムを崩しやすい。空調が効いているとはいえ、そういった特殊な条件が戦術の精度を無効化する可能性もあって、少し怖い部分はありますね。

 

「優勝を目指すなら、塩試合を厭わない覚悟が必要かもしれない」

――環境面の有利不利を踏まえると、優勝を本気で狙ううえでの戦略はどう描きますか。

ミムラユウスケ:今回から決勝まで8試合必要になって、大陸内の移動も長く、暑さも加わって、拘束期間も長い。消耗しないことが優勝のカギだと思っています。2014年のブラジル大会で優勝したドイツ代表は、縦に長いブラジルの地形がもたらす移動距離と気候変化を事前に徹底分析して、「いいサッカーを追求するより、勝ち切ることを優先する」という判断を下した。準々決勝のフランス戦は相手に決定的なシーンを作られながら、コーナーキックからの1点を守り切って1-0で勝った。そのためにセットプレーを徹底強化していたんです。

日本もそういう覚悟が必要かもしれない。選手たちは実は塩試合をやる覚悟があると思っています。10月のブラジル代表戦の前半で、自分たちから仕掛けず引いて戦おうという意識が見えていましたから。ただ、森保監督が日本の美学とは違うという考えを持っている可能性もある。そのへんがどうなるかですね。

セットプレーという観点では、久保選手のキックはダントツで精度が高いので、セットプレーを強化するなら久保選手を外しづらくなります。ただ、直接フリーキックで決めるよりもコーナーキックで合わせられる選手がいるかどうかのほうが現実的には重要かもしれない。フリーキックで壁がずれることよりも、コーナーキックでマークがずれる確率のほうが高いわけですから。

そして逆算していくと、やはりオランダ戦が核心です。オランダに勝ってしまえば、残り2試合でコンディションを整えながら選手を休ませることができる。3試合目には消耗を抑えながら決勝トーナメントに最高の状態で臨める。でも初戦を落としたら、その余裕は一切なくなってしまう。だからこそ、オランダ戦にすべてをぶつける覚悟が、グループリーグ突破だけでなく優勝への道を切り開く第一歩になるんだと思います。

************************************
「ご質問はこちら」より、ミムラユウスケさんへの質問を大募集中。毎月1回のペースでみなさまからの質問にお答えします。日本代表への疑問はもちろん、戦術やメンバー選考、森保監督&代表選手のプレーやコメントなど、何でもOKです!ぜひお気軽にお寄せください。

質問はこちらから

 多くのメディアでサッカー日本代表ニュースがあふれています。そんななかから、スポーツライターのミムラユウスケ氏が日本サッカーが成長していくために重要なニュースを厳選チョイス。 取材してきた秘話などを交え、その意図や背景について独自の視点でわかりやすく解説する連載です。...