「打ち合い」になったときに守れなかった――過去の敗北から見えるもの
「ベスト8に行ったら、すごく日本が盛り上がるんじゃないですかね」――。サッカージャーナリストのミムラユウスケ氏は、今の森保ジャパンをそう評する。2018年のベルギー戦、2022年のクロアチア戦と、あと一歩でベスト8の壁に跳ね返されてきた日本代表が、なぜ今回「史上最強」と呼ばれるのか。センターバックの層の厚さ、そして遠藤航を中心としたチームの団結力まで、その理由を解き明かす。
ミムラユウスケ「森保ジャパンW杯観戦術」
【動画1】日本代表「史上最強説」4つの理由とW杯ベスト8へのリアルな距離
【INDEX】
・ベスト8へ足りなかったもの
・史上最強の理由1「守備陣の層の厚さ」
・史上最強の理由2「東京五輪への投資」
・史上最強の理由3「個の力という武器」
・市上最強の理由4「遠藤航を中心とした団結力」
・ベスト8に最も近いチーム「可能性は35〜40%」
・今大会の見どころ
動画時間(28分37分)
――2018年のベルギー戦、2022年のクロアチア戦と、あと一歩でベスト8の壁に跳ね返されてきました。足りなかったものは何だったと思いますか?
ミムラユウスケ:森保監督はベルギー戦とクロアチア戦は似通っていて、「打ち合いになった」という表現をしているんですよね。ベルギー戦が打ち合いになったというのは多分みなさん分かると思うんですけど、クロアチア戦については打ち合いというイメージはあまりないかもしれない。ただ両方とも、前に出ようとしてロングボールで打開しようとする局面があったと。そうなったときに、守備的にもう少し徹底しないと厳しかったということなんだろうなと、森保監督の分析から考えると思うんですよね。
一つ進歩として言えるのであれば、守備陣の層の厚さです。センターバックのレギュラークラスの選手が7、8人いるという状況になった。前回大会でいえば、ヨーロッパの主要リーグでレギュラーを張っていた意味では、吉田選手、板倉選手、冨安選手の3人ぐらいだった。今はもう7、8人普通にいるわけです。
それからクロアチア戦では、相手が後半にロングボールで押し込んできたときに、日本はなかなか前進できなくて、長いボールを蹴って酒井宏樹選手のところへ攻めさせるような勝負をしてしまった。その作戦自体が悪いとは思わないのですが、それ一辺倒になってしまったというのが難しかったところで。そうではなく、もう少し違いを作れる戦い方、あるいはその戦い方を選択できる選手層と質が、今の代表には出てきたのかなと思います。
たとえばロングボールの使い分けができるゴールキーパーが出てきた。相手の裏を一気に取るロングボールと、ディフェンスラインの手前に落とすロングボールを使い分けられる。それを受けられる、前で収めてくれるセンターフォワードとして上田選手がいる。そしてロングボールを蹴って、こぼれ球のカウンタープレスで回収できるという選択肢を能動的に持てる選手が、南野選手、堂安選手、久保選手たちです。そうした選択肢が持てる判断の質と選手の質が、明らかにアップしたと思いますね。
東京五輪への投資が生んだ「トルシエ理論」の再現
――森保監督の8年という長期政権のなかで、かつては4年ごとにリセットされてきた積み上げが生まれている。現場ではどこにその実感がありますか?
ミムラユウスケ:8年の積み上げは確かにあるんですけど、その大元はやはりオリンピック代表からA代表につないだところが大きいのかなと思うんですよね。特に東京オリンピック世代というのは、ブラジルへの遠征でブラジルのアンダー世代の代表と試合をするなど、相当お金もかけて育てた世代です。予選がなかったことも含めてかなり投資した。それだけのものを投資している以上やはり成長するわけで、その世代が前回のワールドカップから中心になって、そのまま引き継がれてきたというのが大きいかもしれません。
実はこれ、トルシエ監督が2002年当時に言っていたことと一緒なんです。
彼は退任前に「自分は2000年のシドニーオリンピックのチームを率いて、2002年で主力として起用することになった。ただ日本代表が本当に強くなるのは、この2002年の若き主力が成熟した2006年の大会のはずだ」と言っていた。あのときはその後の4年間でうまくいかなかったんですが、今回はそこを失敗しなかったという意味でも、順調にいったというのが大きいのかなと思います。
トルシエ理論でいえば、今回が東京五輪の集大成的な大会だと思います。2030年のワールドカップにも東京オリンピック組は残っているとは思いますが、東京オリンピックで戦えた世代が一番多い大会は、ひょっとしたら今回かもしれないくらいですから。
三笘薫の才能が開花した本当の理由――「刀を抜く前に刺されていた」
――イングランド戦で三笘選手のIQとセンスが際立っていました。ああいう選手がいることは、今の代表にとってどれほど大きな武器なのでしょうか。
ミムラユウスケ:三笘選手の才能という感じだと思うんですけど、同じくらいの才能を持った選手は過去にもいたんじゃないかなという気はするんです。三笘選手を落とすつもりは一切ないんですが。彼が過去最高ともいえるパフォーマンスを出しているのは、早い時期から海外での試合を経験して、世界最高のプレミアリーグでやり続けているからこそだと思うんですよね。
上田選手が三笘選手のボール奪取のシーンを評して、「センスと奪う技術」と言っていたんですが、センスはあった選手がいたかもしれない。ただ「奪う技術」というのはプレミアリーグで普段からやっているからこそで、パーマーのような世界のそのポジションではトップ10に入るような選手からボールを奪えるのは、フィジカルもセンスも伴っていないといけない。そこを磨き、発揮できるフィジカルのラインを超えるには、やはりプレミアリーグで切磋琢磨してきた日々があるからかなと。
つまり、才能としてのセンスの生かし方を体得できたのが今の三笘選手で、それを世界のトップレベルでできているということ。過去の選手たちが単純に能力値として劣っていたというわけではなくて、その才能をどう発揮するかを学ぶ場が、昔はなかったのかもしれない。
もう少し大きな話をすると、僕はよく「刀を抜いて切り合いをしたら、日本は昔から結構やれた」と思うんです。ただ実際の戦いでは、刀を抜くまでに相手に刺されてしまうことがあった。刀を抜いて、自分が一番振りやすいポーズに行くまでには、最低限のフィジカルやインテンシティが必要で。今の選手たちはそこをクリアして、自分たちのサッカーを言える権利を持ったんじゃないかと思います。
歴代最強の団結力――遠藤航が植えつけた「優勝へ向かう意識」
――チームの魅力という観点では、どこに一番感じますか?
ミムラユウスケ:魅力は、団結しているところじゃないですかね。...
