小説家・漫画家として200冊以上の著作を持ち、『時の輝き』110万部超のベストセラーを生み出した折原みと。彼女の本棚には、ヒット作を生み続ける創作の源泉が詰まっていた。

20代の昼夜逆転の東京生活から、海辺への移住を決意するまでの転換点とは何だったのか。

「本当に美しいものは自然の中にある」と語る折原みとが、本棚を通じて明かす、物語の生まれる場所とは。

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「気づいたら集めている」本棚の中身は創作の原点

折原みと(以下、折原) 私の本棚は、ほとんどが自分の本と、仕事に使う資料です。気づいたらいろんな種類の本がぎっしり。「何でこんなもの買ったんだろう」って思うようなものもあります(笑)。

日本の色の名前が載っているだけでなく、その色にまつわる文学作品の一節なども収められています。

画像左「色の手帖」(小学館辞典編集部)、画像右「日本の色辞典」(吉岡幸雄/紫紅社) 

折原 たとえば、「赤」を書こうとしても、ただの赤じゃなくて、その中にもいろんな赤があるじゃないですか。「この色はなんという名前なんだろう、どう表現するんだろう」と考えながら、この本を見ています。

特に好きなのは、空の色。朝の空って、オレンジから紫になって、紺色になって、群青になって……とグラデーションになりますよね。そういう空の色を表す言葉が、日本語にはたくさんある。それぞれのわずかな違いをこの本で確かめるのが、すごく好きなんです。

砂漠への憧れから生まれた、異世界と現実の交差

「アナトゥール星伝シリーズ」折原みと(講談社X文庫)

折原​​ この『アナトゥール星伝』(講談社)というシリーズは、異世界が舞台ですが、作中に登場する国々にはエジプトやインカ帝国など、実際のモデルがあります。

エジプトだったりインカ帝国だったり、それぞれの国には実際にモデルがあるんです。だからその国の地理や歴史を学ぶための資料が、本棚にどんどん増えていきました。

――異世界の物語を書くきっかけはなんだったのでしょうか?

折原 砂漠への憧れがあったんですよ。砂漠の国が舞台で、砂漠の王子と冒険するロマンチックなラブストーリーを書こうと思って1作目を書いていったら、だんだんと社会的な話になっていきました。

登場する国が増えるにつれて、戦争、人種差別、世界中で起きているさまざまな問題が、異世界の国に置き換えられていったんです。最初の趣旨とはずいぶん変わりましたね(笑)。

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あの人の本棚を訪ねて

各界で活躍するクリエイターや著者の本棚をのぞき見しながら、そこに宿る人生観・創作観・世界観を紐解くインタビュー番組。
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「仕事部屋から海が見えるように」33歳での転機と暮らしの変化

――仕事部屋についてのこだわりはありますか?

折原 一日中いる場所なので、一番眺めがいい部屋にしたくて。窓から海が見えるようにしたことが、一番のこだわりです。
 
――いつ頃から海のそばに?

折原 33歳のとき、東京から引っ越してきました。20代のころは、マンションにこもって昼夜逆転で仕事だけしていた。でも30代に近づいてきたとき、「このままだと人としてだめになる。書きたいものがなくなってしまう」って、ふと思ったんです。

転機になったのは、児童書の取材で訪れた小笠原諸島でした。そこで「人間はやっぱり自然の中で生きなくちゃだめだ」って、人生観がまるごと変わってしまった。本土から船で25時間かかるので住むのは難しかったけれど、海のそばに引っ越したい気持ちは抑えられなくて。それで33歳のとき、移住を決めました。

小笠原諸島が舞台「青いいのちの詩 世界でいちばん遠い島」(折原みと/ポプラ社)

自然が変えた生活リズム、そして創作の源泉

――引っ越してから生活は変わりましたか?

折原 全部変わりました。犬も飼い始めたこともあって、昼夜逆転だったのが早起きになって、すっかりアウトドア派になりました(笑)。

夏は家から10分ほどの穴場の海で、一人でシュノーケリングをしています。泳ぎながら、ネタを考えたり、「人間ってこういうふうに生きなきゃだめだよね」「魚も人間も一緒だよね」って、いろんなことを考えるんです。

本当にきれいなものって、自然の中にあると思うんです。海のきらめき、夕日、木漏れ日、緑の光。でもそれはいつも手に入るものじゃないから、人間はそれに近いものを作ろうとしているんじゃないかって。

湘南・葉山という土地が生んだ物語

――作品の内容に変化があったのでしょうか?

折原 海や山に関係する本が増えて、書く小説の舞台もほぼほぼ湘南になりました。葉山を舞台にした小説『幸福のパズル』(講談社)は、私の作品の中で一番長いものになりました。

葉山に知り合いがどんどんできて、その人たちをモデルにしながら書きました。よく遊びに行く海辺の小屋が物語の重要な舞台になったり、そこのオーナーさんがキャラクターとして登場したり。取材しているうちにどんどん話が膨らんでいくんです。いろんな出会いが重なって、気づけば土地そのものが物語を書かせてくれている、という感覚がありますね。

 
interview 折原みと
小説家・漫画家

1985 年、角川書店『ASUKA』で少女マンガ家デビュー。1987 年、ポプラ社刊『ときめき時代 つまさきだちの季節』で小説家デビュー。以来、マンガ、小説を多数出版。著作は 200 冊以上にのぼる。代表作『時の輝き』は 110 万部を超えるベストセラーとなり、映像化もされた。その他にも少女漫画から児童文学、エッセイまで多彩な創作活動を続けている。Instagram では「mito /60 代バツなしおひとりさま」では、自身の暮らしを発信し、注目を集める。