遠藤航が記した「自身の持ち味」

 プレミアリーグの強豪・リバプールで「月間最優秀選手」に選出されるなど「世界」にその名を知らしめ始めた遠藤航。サッカー界ではベテランとされる30歳での躍進は、彼の類まれな「思考」が支えとなっている。

 例えば多くのファンにとっては「デュエル」(1対1の強さ)が彼のプレーの象徴と言われるが、遠藤は違ったところに自分のストロングポイントを見ている。

 今回は12月躍進の背景を自身の著書『DUEL 世界で勝つために「最適解」を探し続けろ』から紐解く(前後編)。


「ポリバレント」だった日本時代

 いろんな言葉、セオリー、そうしたものを疑い、「正解はない」をスタートにする。僕のスタイルとも言えますが、それが培われたのには、さまざまなポジションを経験してきた過去が影響していると思います。

 それぞれのポジションでプレーをしている人の気持ち、見え方、捉え方が違うということに気付けたからです。

 僕のサッカー選手としてのタイプを語るとき、「デュエル」と言われることが多くあります。それはうれしい評価ですが、個人的には「組んだ選手の特徴を生かしたい」タイプだと思っています。

 背景のひとつに先に書いたいろんなポジションを経験してきたことがありました。小学生のころはフォワードを、中学生になってトップ下、ボランチ、センターバックとポジションを下げていきました。湘南ベルマーレのユースやトップチームに上がりたてのころはアンカーやボランチをすることもありましたが、それ以降は(3バックの)センターバックが主戦場でした。

 浦和レッズに移籍してからもセンターバックを中心に(細かく言えば、その右や真ん中とポジションが変わりました)、2017シーズンは右サイドバック。

 代表ではボランチが中心でした。2014年に始動したリオデジャネイロ五輪に向けたU21代表で手倉森監督からこのポジションに指名され、以降アジア予選(五輪出場の選考も兼ねていました)、本大会とそのほとんどをボランチでプレーします。それはフル代表も似た状況で、基本的にはボランチ。ただデビュー戦は右サイドバックでした。

 その後、シント=トロイデンに移籍してからは中盤が定位置になりました。アンカー、ボランチ、インサイドハーフ(ボランチより一つ前の攻撃的なポジション)。プロになってからフォワードとゴールキーパー以外は経験したと思います。

 話は横道に逸れますが、息子がサッカーゲームをやるとき「遠藤航をFW登録」しています。いわく、ガンガンドリブルをしてシュートを決めてくれるらしいです。それはそれで、ちょっと僕の使い方が違う気もしますが。

 それはさておき、数年前までは「遠藤のポジションってどこ?」と言われることも少なくなく、かくいう僕自身も「一番多いのはセンターバックですかね」と答えるくらい「定まらない」選手だったと思います。

 かつて僕のようないろんなポジションで起用される選手を「ポリバレント」と言っていました。日本代表監督だったイビチャ・オシムさん(故人)が、複数のポジションを高いレベルでこなせる選手をそう呼び、阿部(勇樹)さんが代表格だったと思います。僕の憧れの選手のひとりでした。

 海外移籍をする前の僕もメディアなどをとおして「ポリバレント」と紹介されることが多い選手でした。

 ブンデスリーガでレギュラーとして定着し、加えて「デュエル勝利数1位」という結果が出てからは「ポリバレント」と言われることもなくなりました。むしろ、遠藤と言えばボランチ、と思ってもらえるくらいになれたと思います。

どんな場所でも「やり切る」

 そういう経験があったからか、かつての僕と似たような立場にある選手たちから相談を受けることも増えました。

「ひとつのポジションに絞ったほうがいいでしょうか?」

「どのポジションが適任なんでしょうか」

 サッカーに限らず、スポーツや仕事をする中で、自分のストロングポイントはどこなのだろうか、どういう立場にいることがもっとも力を発揮できるのだろうか、と考えることがあると思います。「定まらない」ことに対する不安や、もどかしさみたいなものが出てくるものです。

 僕自身、その感覚を持っていたことがありました。

「ボランチで勝負したい」と思っていたのに、なかなかそのポジションでプレーできなかった浦和時代。当時の浦和は阿部さんや(柏木)陽介くんといった日本を代表する選手がそのポジションにいました。

 チームが勝つために、ふたりがファーストチョイスになるのは仕方がない。その点で、望んだポジションで出られないことに対して不満を持つことはありませんでした。むしろ、いまの実力ではボランチで出られない。でも、出ないと成長できない、というジレンマの中にいました。

 そんな経験をしていま感じていることは「ポジションはどこでもいい」と言うことです。

 もちろんアンカーに対してこだわりや、やりがいをもってプレーしています。どこがやりたいか、と聞かれればまっさきに「アンカー」と答えると思います。

 でも、どのポジションをやっても「面白さ」があったし、何より成長している実感があった。だから、いつだって「いま、チームで与えられているポジションを全力でやり切る」ことが重要だと思います。

「やり切る」ことができれば、自然とポジションは確立されていくものです。もし、どこでプレーするべきか、と悩む選手がいれば、それは「いま、試合に出ているポジション」でいいんだと、思うのです。

「本職ではない」と思ってしまうと、知る、学ぶといったことを疎かにしがちです。中途半端な取り組みになってしまうこともある。それではもったいない。

 そこで「やり切ろう」とできるか、それいかんによって未来は大きく変わると思います。

 実際、「いろいろなポジションをすること」にも、「ひとつのポジションで出続けること」にも、どちらにもメリットがあります。

 例えばロシアワールドカップ。試合に出ることは叶わず、少なからず悔しい思いをしましたが、あの場所、チームを経験できたことは何よりの財産です。

 それを実現させてくれたのは「ポリバレント」だったからです。

 書いてきたように、僕はメンバー選考で当落線上にいました。西野監督は3バックも視野に入れていて、そのオプションとして呼んでくれたのだと思いますが、加えて右サイドバックやボランチができることが、滑り込みを可能にしたように思います(事実、テストマッチは右サイドバックの出場でした)。

 監督の目指すサッカーやチームの状況によりますが、試合に出る、メンバーに入れるチャンスが「ポリバレント」な選手であるほど増すことは大きなメリットだと思います。

 そして最大のメリットが、いろいろなポジションをすることによって「そのポジションの選手の気持ち」がわかること。ボランチをやれば、センターバックにこうしてほしい、サイドバックはこう動いてほしい、と気付けるようになりますし、相手のセンターバックと対峙したときには、自身の経験から、こっちに動かれたらいやだろう、と新しい選択肢を持つことができます。

 確かにひとつのものに集中できない不安はあると思います。でも、複数のことをやることでしか得られないものもある。最終的にはその場所でやり切ることで、自分の可能性はどんどん広がっていくわけです。

【次回は1月9日配信予定】

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